Home > Topics > Newsletter
2006. 02.17
新会社法ニューズレター 第5回 簡易組織再編(Small ScaleReorganization)と略式組織再編(Short Form Reorganization)
執筆者
弁護士 山野 弥咲
本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。この記事に関するお問い合わせは、tokyomarketing@mofo.com 宛にメールにてご連絡下さい。
今回は、事業再編を進めるにおいて本来必要な株主総会決議が不要で取締役会決議のみで可能となる二つの組織再編形態を解説します。すなわち、小規模な再編について株主総会決議を不要とする簡易組織再編、及び再編の相手方に支配されているが故に株主総会を不要とする略式組織再編についてです。
ポイント1 簡易組織再編の要件を「5%基準」から「20%基準」に緩和
1.吸収型組織再編における存続会社等の簡易組織再編基準
現行商法においては、簡易組織再編の要件について、原則として、吸収合併の存続会社、吸収分割の承継会社及び株式交換の完全親会社(以下「存続会社等」)において組織再編行為の対価として交付する株式数が、発行済株式総数の5%以下の場合は、存続会社等における株主総会の承認は不要とされています。
会社法においては1、この5%要件を緩和するとともに、組織再編における対価が柔軟化されたことに伴い、基準を株式数ではなく純資産額に対する割合とし、①交付する株式の数に1株当たりの純資産額2を乗じた額及び②社債、新株予約権又は新株予約権付社債その他の財産の帳簿価額の合計額が、純資産額3の20%以下4の場合には、存続会社等において株主総会の承認を要しないものとされました(会社法796条3項)5。
交付株式数当たりの純資産額+株式以外の財産の帳簿価格≦純資産額の20%
2.分割会社における簡易組織再編基準
吸収・新設分割の分割会社については、現行商法と同様に簡易組織再編の規定が設けられ、その基準とする財産を承継資産の帳簿価額とする点については現行商法から変更することなく、数のみが5%から20%へと緩和されました。すなわち、会社法では、分割会社が承継会社に承継させる資産の帳簿価額が、分割会社の総資産額の20%以下の場合には、株主総会の承認を要しないとされました(会社法784条3項、805条)。
承継させる資産の帳簿価格≦総資産額の20%
これらの改正により、組織再編の際に株主総会を省略できる場合が大幅に増えることになり、組織再編手続の合理化ともあいまって、総会開催が比較的困難な上場会社等においても迅速に組織再編を行うことができるようになりました。
3.少数株主の異議要件の見直し
現行商法においては、簡易組織再編の要件を満たす場合でも、総株主の議決権の6分の1以上を有する株主が反対の意思を通知した場合は、簡易組織再編はできないとされています。この6分の1という要件は、株主総会の特別決議の定足数が総株主の議決権の過半数であり、また決議要件が出席株主の議決権の3分の2であることから、総株主の議決権の6分の1以上を有する反対株主があれば、総会で否決される可能性が考えられるとして設定されたものです。しかしながら、平成14年の商法改正により、特別決議の定足数が総株主の議決権の3分の1にまで引き下げることができるようになったため、6分の1という割合は合理性を失っていました。
そこで、会社法においては、上記の考えに基づき合理的な割合となるよう改正を行い(会社法796条4項)、その算定方法は複雑であるため省令に委ねています(会社法施行規則197条)6。
4.事業譲渡における「重要な一部」の明確化
また、会社法は、営業譲渡(会社法では「事業譲渡」と名称変更。)手続についての明確化及び簡易化も行っています。
すなわち、現行商法においては、株主総会の承認手続が必要とされることになる「営業の重要な一部の譲渡」に該当するか否かについては、個々の取引における困難な判断を強いられることが、しばしばありました。会社法においては、その基準を明確化し、上記簡易組織再編の分割会社における基準と統一的に扱う(すなわち、譲渡資産の帳簿価額が総資産額7の20%以下のものを「事業の重要な一部」から一律に除外した上で、総会の要否を決定する。)こととされました(会社法467条1項2号)8。ただし、厳密には、総資産額割合が20%を超えたとしても「事業の重要な一部」にあたらないことがありえる点で、上記の簡易事業再編基準とは異なり、セイフハーバー的に機能することになります。
5.事業全部譲受けにおける簡易事業譲受け基準
事業の全部の譲受けについても、簡易組織再編行為と統一的に扱われるにされました。すなわち、対価として交付する財産の帳簿価額が純資産額の20%以下の場合は、株主総会の承認は不要となります(会社法468条2項)9。
ポイント2 略式組織再編の新設
1.特別支配関係のある会社間における略式組織再編
会社法は、現行商法に規定のなかった制度として、特別な支配関係のある会社間における組織再編においては、被支配会社における株主総会の決議を要しないとする略式組織再編手続を新設しました(会社法784条1項、796条1項)。ここにいう「特別な支配関係のある会社間」とは、ある株式会社の総株主の議決権の90%以上10を他の会社が保有している状態等にある会社間のことをいいます(会社法468条1項)11。略式組織再編は、吸収型組織再編である吸収合併、吸収分割及び株式交換を行う場合、並びに事業の全部又は一部の譲渡及び事業の全部の譲受け等の場合について認められます(会社法784条1項、796条1項、468条1項)12。
略式組織再編の制度は、実質的に支配関係がある場合には、被支配会社で株主総会を開催しても結論において変わらないことから導入されたものです。このような被支配会社での株主総会決議の省略により、組織再編における時間及び費用の負担を大きく軽減することができます。特に、日本では、ロングフォームのM&Aが比較的多く利用されますが、公開買付け等により議決権の90%以上の株式を取得した後、2段目の交付金合併等を株主総会決議を経ずに行い100%子会社化を達成する等といった利用が、ますます盛んになるものと思われます。
2.略式組織再編における少数株主の利益保護
略式組織再編においては、組織再編行為の無効の訴え13以外に、次のような被支配会社の少数株主の利益保護の制度が設けられています。
(1) 略式組織行為の差止請求
略式組織再編行為が法令又は定款に違反し、又は著しく不当な条件(合併比率の著しい不公正等)で行われることにより不利益を受けるおそれがある場合は、株主は当該行為の差止めを請求することができます(会社法784条2項、796条2項)14。これにより、被支配会社の株主は、合併等の対価が著しく不当な条件による略式組織再編行為等については差止め請求を行い、自己の利益が害されるのを防ぐことが可能となります15。
(2) 反対株主の買取請求
組織再編行為に反対の株主は、公正な価格により自己の有する株式を買い取ることを請求することができます(会社法785条1項、797条1項)。
ポイント3 今後の産業活力再生特別措置法の活用
上記の簡易組織変更及び略式組織変更の各制度は、産業活力再生特別措置法(以下「産活法」)において認められていた規制緩和の一部が、会社法に取り入れられたものでもあります。会社法では、この他にも産活法上認められていた特例を取り込んでおり、取り込まれた産活法上の規定は、整備法によって、産活法から削除されることになります(整備法449条)。
会社法施行後の産活法上の制度の活用については、次のように考えられます。
(1) 簡易組織再編
上記の会社法において緩和された簡易組織再編における20%基準は、産活法において既に規定されていたものです。産活法の当該規定の存在意義はなくなり、整備法により削除されています。
(2) 略式組織再編
上記のとおり、会社法においては、略式組織再編のための支配要件は議決権の90%以上の保有とされています。他方、産活法においては3分の2以上あれば、この株主総会決議の省略が可能となります(産活法12条)。
(3) 現物出資についての検査役調査の省略
会社法においては、会社設立時の現物出資について検査役調査を要しない範囲が500万円以下の財産である場合に限るとされていますが(会社法33条10項1号)、産活法においてはこのような金額の制限はありません(産活法10条1項)。また、募集株式の引受け(会社法207条)や新株予約権の行使(会社法284条)の際の現物出資についての検査役調査も、産活法では免除されています(産活法11条1項)。
(4) 合併等対価の柔軟化
会社法の合併等対価の柔軟化に関する規定(会社法749条1項2号等)の施行は会社法のその余の施行日の1年後とされています(会社法附則4項)。したがって、かかる施行日までは、合併等対価の柔軟化については産活法によらなければ、認められません(整備法450条7項)。
(5) 株式併合の簡易化
会社法においては、株式併合には株主総会の決議が要求されています(会社法180条2項)。この点、産活法においては、資本金等の額の減少と同時に行う株式の併合について一定の要件を満たす場合は、取締役会設置会社においては取締役会の決議で足りるとされています(産活法12条の2第1項)。
なお、産活法においては、税制上、金融上、独占禁止法上の支援措置も受けることができますが、これらは会社法に取り込まれておりません。特に、登録免許税の軽減等の税制上の支援措置は従来から多く利用されているところであり、これらの支援措置を受けるためには、従前どおり産活法を利用する必要があります。
- 会社法施行日後に合併契約書、分割契約書又は株式交換契約書が作成された合併、分割又は株式交換について、会社法の規定が適用となる(整備法105条)。
- 一株当たり純資産額は、会社法141条2項、会社法施行規則25条1項で算定される。分母である発行済株式数から自己株式数を除く点等、留意が必要である。
- 存続会社等の純資産額は、会社法796条3項2号、会社法施行規則196条で算定される。
- 定款においてこれを下回る割合を定めることが可能である。
- (簡易組織再編が認められない場合)
当該要件を満たした場合でも、①存続会社等において差損が生じる場合、又は②公開会社でない存続会社等において当該会社の株式の発行又は移転を伴う場合は、当該会社につき株主総会の決議を要する(会社法796条3項但書)。前者は重要な例外規定で、特に債務超過会社を吸収組織再編する際に持分プーリング法が強制される場合に問題になる。 - 反対株主の有する議決権が、株主総会において当該議案が否決される可能性のある数に達した場合をいう。会社法では、株主総会の特別決議について、定足数や決議要件の引上げ、一定数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを認めており(会社法309条2項)、否決に必要となる議決権数の定めは複雑にならざるを得ない。
- 総資産額は、会社法施行規則134条で算定される。
- 会社法施行日後に株主総会の招集の手続が開始された場合における事業の譲渡について、会社法の規定が適用となる(整備法92条1項)。
- 会社法施行日後に事業の全部の譲受けの契約が締結された場合の事業の譲受けについて、会社法の規定が適用となる(整備法92条2項)。
- 定款においてこれを加重することも可能である。
- 当該他の会社が、90%以上を直接保有している場合だけではなく、当該他の会社が株式又は持分の全部を有する法人(特定完全子法人)又は特定完全子法人がその持分の全部を有する法人(当該法人も特定完全子法人とみなされる。)が保有する場合も含む(会社法468条1項、会社法施行規則136条)。
- (略式組織再編が認められない場合)
当該要件を満たす場合でも、①存続会社等が支配会社である場合、譲渡制限株式が交付される場合であって、消滅会社等が公開会社であり、かつ、種類株式発行会社でないとき(会社法784条1項但書)、②消滅会社等が支配会社である場合、譲渡制限株式等が交付される場合であって、存続会社等が公開会社でないとき(会社法796条1項但書)は、株主総会の決議を要する。 - 合併等の目的の不当性が無効事由となるかどうかという論点は依然残り、現金等による少数株主締出しが無条件に行えるわけでは必ずしもない。特に、閉鎖会社における内紛事例では大きな問題となりうる。
- 既に略式組織再編制度が認められていた産活法では、株主総会決議の省略により略式組織再編行為の効力を株主総会決議取消の訴えにより争うことができなくなるため、株主は株式買取請求権以外の救済を有しないのではないかという疑問が持たれていた。会社法はこの点について手当てを講じ、また産活法上も同様の整備がなされた(産活法12条3項)。
- したがって、実務上は、差止めのリスクがあるような場合は、株主総会を開くという道を選択することになるとの指摘もなされている(神田秀樹・ジュリスト1295号132頁)。



