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2008. 04.07
平成20年独占禁止法改正法案の国会提出(上)
執筆者
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
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(このニュースレターがご提供する情報は一般的なもので、いかなる個別の事案に対しても適用されることを保証したり、解決を提供するものではありません。具体的な事案においては、当該事案に対する個別の法的助言なくして、ご判断をなされないようにお願い申し上げます。)
1. はじめに
平成20年3月11日、独占禁止法(独禁法)の改正法案1(以下「改正法案」といいます)が国会に提出されました。独禁法は、平成17年に措置体系に関する大改正(平成18年1月4日施行)が行われ、課徴金減免制度や犯則調査制度が導入されるとともに審判が事後(処分後)のレビューの制度に変更されましたが、その平成17年改正法の附則13条において、改正法施行後2年以内に、改正法の施行状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、課徴金に係る制度の在り方、違反行為を排除するために必要な措置を命ずるための手続の在り方、審判手続の在り方等について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされていました。この規定に基づき、平成17年から19年まで、内閣官房長官主導で「独占禁止法基本問題懇談会」(以下「懇談会」といいます)が開催されました。今回の改正法案は、懇談会の議論も踏まえつつも、そこでは議論されなかった点も含む広い範囲について改正するものです。
以下では、今般提出された改正法案の概要を数回に渡ってご紹介します。
2. 改正法案概観
公取委の発表によれば、改正項目は「課徴金・排除措置命令」に関する事項、「企業結合」に関する事項、「その他」の事項の3つのグループに分かれます。それぞれのグループにおける主要項目は以下のとおりです。
(課徴金・排除措置命令に関する改正事項)
- 課徴金の対象となる行為類型の範囲の拡大
- 課徴金の増額と課徴金減免制度の変更
- 除斥期間の延長
(企業結合に関する改正事項)
- 株式取得についての事前届出制への変更
- 届出基準の変更
(その他の改正事項)
- 外国競争当局に対する情報提供について規定の新設
- 利害関係人による審判の事件記録の閲覧・謄写の規定の整備
- 私訴における証拠開示手続の新設
- 事業者団体届出制度の廃止
上記のほか、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)にも課徴金の制度が新設されています。
3. 課徴金・排除措置命令に関する改正事項
改正法案でまず目を引くのが、一部の不公正な取引方法について新たに課徴金を課すことを含む、課徴金・排除措置命令に関する改正です。
(1) 課徴金の適用範囲の拡大
まず第一に改正法案は、排除型の私的独占に新たに課徴金を課しています(改正法案7条の2第4項)。ご承知のように私的独占には支配型と排除型の二種類があり、支配型については平成17年改正において新たに課徴金が課されることになりましたが、今回の改正法案は、新たに排除型の私的独占についても課徴金を課すものとしています。課徴金の算定率は卸・小売以外の業種(製造業、サービス業等)について6%、小売業は2%、卸売業は1%です。これまで、支配型のみが認定された私的独占の事例は限られており、平成17年改正によって支配型の私的独占に課徴金が課されることになっても、それに基づいて課徴金が課された事案は今のところありません。ところが、排除型の私的独占は最近特に公取委が運用を強化している類型ですので、これにより、私的独占に実際に課徴金が課される例が出始めるかもしれません2。
第二に、これまで「一般指定」という公取委の「告示」に基づいて定めていた不公正な取引方法の行為類型の一部について、改正法案は、法律そのもので定義した上、それらの行為が10年以内に再度行われた場合(つまり再犯)の場合には課徴金を課すこととしています(優越的地位の濫用については継続的な行為である限り初犯でも課徴金が課されます)。改正法が新たに課徴金を課す類型として列挙しているものと、その課徴金の算定率は以下のとおりです(改正法案2条9項、20条の2ないし6)。
| ・共同の取引拒絶 | (卸・小売以外の業種:3%、小売業:2%、卸売 業:1%) |
| ・差別対価 | (同上) |
| ・不当廉売 | (同上) |
| ・再販売価格の拘束 | (同上) |
| ・優越的地位の濫用 | (業種にかかわらず1%) |
改正法案の下で課徴金の課される5類型の不公正な取引方法の定義には、現行法における「公正な競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)という文言がなく3、これをもって公正競争阻害性は必要なくなったのかという点が問題となります。公正競争阻害性の解釈をめぐっては多くの難問が提起されていますが、課徴金を課すためには、予測可能性の確保の観点からあいまいな文言は残すべきでないという考え方もありうる一方で、公正な競争を害するおそれすら不要だとすると、競争法の規定ではなくなってしまうという評価も可能であり4、議論を呼ぶ条項だといえるでしょう5。
このほか、排除型の私的独占、不公正な取引方法いずれの類型も、違反行為の認定のみならず、課徴金の計算に関する規定も十分に明確ではなく、実際の運用において混乱や問題を生じる可能性があります。
(2) 課徴金の増額と課徴金減免制度の変更
平成17年改正で導入され、相当の効果を上げているといわれる課徴金減免制度について、今般の改正法案では、複数の違反行為者が、相互にグループ会社である特定の場合には、その両者で共同の減免申請を行うことができ、順位も両者で共通のものを確保すること(例えば両者とも一番目として全面的に免除を受けること)ができるようになります(改正法案7条の2第13項)。
また、現行法では公取委の調査開始(立入検査)の前後を通じて合計3社までしか認められなかった減免が、調査開始前後を通じて5社まで(ただし、調査開始後は最大3社まで)認められるようになります(改正法案7条の2第12項)。
グループ会社による共同申請、共同順位の確保などは、親会社主導により全社的に違反行為を一掃することなどにも有用だと思われます。
他方、改正法案ではカルテル・入札談合の首謀者(企てた者)が、他の共同違反行為者に対して違反行為への参加や離脱・中止しないことを要求、依頼、教唆し、これにより共同違反行為者が違反行為に参加したり継続したりした場合には、課徴金が50%増額されます。また、他の共同行為者が違反行為においてとるべき行動を指定する場合も同様に課徴金が50%増額されます(改正法案7条の2第8項)。現行法においては、カルテル・入札談合において、他の事業者に対しカルテルを行うことを強要し、又は他の事業者が当該違反行為をやめることを妨害していると減免を受けることができませんが(この点は改正法案では変更されていません)、改正法案の条文と合わせて読むと、例えば、他の共同違反行為者に対して違反行為から離脱しないように依頼はしたものの、離脱の妨害まではしていない場合で、依頼された共同違反行為者が依頼に応じて違反行為を継続した場合には、増額はされるが減免も受けられるということになるように考えられ、一貫性に疑問の余地も残るようにも思われます。
(3) 除斥期間の延長
現行法では、カルテル・私的独占について、排除措置命令・課徴金納付命令を出すことができる期間(除斥期間)は違反行為がなくなってから3年ですが、改正法案ではこれが5年に延長されています(改正法案7条2項、7条の2第27項)。不公正な取引方法についても同様です。
特に国際的な事案について、外国当局が処分を行う場合にも日本の公取委は除斥期間の壁に阻まれて、特に課徴金の納付を命じることができないことは不合理であるといった指摘がなされていたことに対応するものと考えられます。
除斥期間の延長は、公取委が違反行為として取り上げる事案の範囲を広げることになりますので、企業としても注意が必要です。近時、M&A取引完了後に被買収企業の違反行為が発覚する事例なども現れており、様々な場面で過去の行為を検証する必要性が高まるといえます。
- 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律及び不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」。
- 例えば、NTT東日本事件(FTTHサービス)、インテル事件(CPU)などの事案では排除型の私的独占が認定されており、改正法案の下では課徴金が課されることになるでしょう。
- これ以外の不公正な取引方法の定義は、現行法とほぼ同じで、公正競争阻害性についての文言も残されていますが、告示の内容次第では現行法とは異なってくることも考えられます。
- 改正法案における各類型の定義規定には、現行法上の一般指定の条項と同様に「不当に」とか「正当な理由がないのに」とか、「正常な商慣習に照らして不当に」という文言があり、競争に関する影響はそれらの文言の解釈としてみるという立論もありうるかも知れませんが、改正法案の下でも課徴金を課されない不公正な取引方法の類型とのバランスを欠くように思われます。
- もっとも、これまで公取委が公正競争阻害性について具体的事実に即して説得力のある認定をしてきておらず、今回の改正法案において初めて公正競争阻害性が不要とされたとしても、公取委の実務にはあまり変更がないという皮肉な評価も可能かもしれません



