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2005. 05.15
橋梁談合の刑事告発と改正独占禁止法
弁護士 雨宮 慶
*この記事についての英語の解説-JFTC Refers Bridge Construction Bid-Rigging Case to Public Prosecutors Office for Criminal Indictmentはこちらを クリック
1. 橋梁建設工事談合事件の刑事告発
公正取引委員会(公取委)は、5月23日、国土交通省が発注する橋梁上部工事について平成15及び16年度に談合を行った47ないし49社のうち、8社について、不当な取引制限違反罪として刑事告発をしました。また、報道によれば、公取委はさらに8社の営業担当者個人10名についても立件の対象として、告発に向けて審査を継続する方針であるということです。
2. 刑事告発における公取委の実務
公取委は、平成2年6月20日に発表した刑事告発に関する方針に基づいて、(1)価格カルテル、市場分割協定、入札談合などの違反行為について、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案と(2)違反行為を反復して行う事業者・業界や排除命令に従わない事業者の違反行為であって、公取委の行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できない事案について、これまで告発を行ってきました。このような公取委の刑事告発は、これまでおよそ2年に1回程度なされています。
今回の橋梁建設工事の談合事件は、現在までに報道されているところを総合すると、全国での発注金額が年間3500億円ともいわれている1、地方自治体発注案件の談合ではなく、国発注の大規模入札におけるものである、40年の長きにわたり継続されていたと見られているといったことから、これが告発されたのは、前記(1)の国民生活に広範な影響を及ぼす悪質・重大事案であるという側面と、過去に刑事判決や公取委の排除命令を受けたことのある会社も含まれていたこともあり、前記(2)の行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できない事案であるという側面の双方が考慮されているように見うけられます。
3. 改正法が公取委の刑事告発の実務に与える影響
このような刑事告発についての公取委の実務は、今回の独占禁止法の改正により、大きく変化し、より積極的な方向へ向かうと推測されます。
今回の独占禁止法改正2の四本柱のうちの一つは、犯則調査権限の導入です。犯則調査権限の導入は、公取委がこれまでの行政手続としての審査権限に加えて、刑事手続としての調査権限をもつことになるもので、言うまでもなく刑事告発を念頭においたものです。
行政手続としての審査権限は、あくまで対象者の同意を前提とし、また犯罪捜査のために認められた権限ではないため3、刑事告発については使い勝手がよくないというのが公取委の説明です。そのような不便を克服するために犯則調査権限が導入されると、公取委の職員が裁判所の発布する令状に基づいて、捜索差押などを行うことができるようになり、検事総長(検察庁)への告発に向け、公取委の調査段階からすでに刑事手続に用いる証拠を強制的に収集することが可能になります。
今回の独占禁止法改正の四本柱のうちのもう一つは、課徴金減免制度です。これにより、違反行為者のうち三番目までに公取委に情報提供を行う場合、課徴金を100%から30%減免されることになりますが、このうち、最初に公取委に駆け込んだ事業者に対しては、従業員・役員も含めて、刑事告発をしないという方針が公取委から示されています4。これにより、公取委に最初に情報提供した企業及びその役員・従業員は、刑事告発をされないこととなるため、違反行為の参加者には、他に先んじて公取委に駆け込んで刑事告発されないという保証を獲得しようとするインセンティブが働きます。他方で、そのような保証と引き換えに最初に駆け込んだ参加者が公取委に洗いざらい情報を提供すると、その情報に基づいて、他の参加者に対し、公取委の調査、特に犯則調査権限による刑事手続としての調査がなされ、少なくとも参加者のうち一名(一事業者)は全面的に自白しているという事態になります。このような事態の下では、公取委による他の参加者に対する告発はより容易になります。
このように、これまで行政手続としての調査の証拠収集権限の限界に起因して検察庁を説得することができず、刑事告発が見送られてきた類の事件が、改正法施行後は、犯則調査権限というより強い証拠の収集権限を得た公取委によって告発されるようになると考えられます。そして、そのような公取委の証拠収集の機会は、課徴金の免除と刑事告発されないことの保証によって保護・促進される違反行為者自身からの積極的な情報提供により、飛躍的に増加させられることになる一方で、当該最初に駆け込んだ違反行為者は、自らは違反行為に手を染めていたとしても、課徴金も賦課されず、刑事告発もされないという大きな利益を得ることになるわけです。
今回の橋梁の建設工事談合事件において、告発の対象となった関東、東北、北陸の三地方整備局の平成15、16年度における発注金額は719億円と報道されています。これだけでも課徴金の金額は総額で70億円を超えることになりますが、公取委自身による違反行為の認定は地理的範囲、時間的範囲ともに告発した範囲に限られるとは限りません5。報道されている全国の市場規模の金額と違反行為の期間すべてを公取委が認定したと仮定すると、改正法に基づいて単純計算した課徴金額は合計1050億円6に上ります。本件の審査が改正法の下で自主申告を端緒としてなされたとすると、そのように公取委の調査開始前に最初に駆け込んだ企業は、場合によっては数十億から百億円単位の課徴金の支払いを免れ、かつ、その企業だけが担当者個人も含めて刑事告発をされない一方で、公取委への駆け込みが遅れた企業は、告発をされるのみならず7、公取委の認定に基づいて、多額の課徴金を支払わなければならないのです。
- ただし、告発の対象となったのは国土交通省関東地方整備局、東北地方整備局及び北陸地方整備局が行う競争入札の部分に限られています。
- 改正法の概略は、解説記事「独占禁止法改正のキーポイント」をご参照ください。
- 独占禁止法46条4項。
- 詳しくは、注2の解説記事「独占禁止法改正のキーポイント」の2(2)をご参照ください。
- 公取委が刑事事件として告発するのは、自らが違反の心証を得ている事案の一部に限られるのが一般です。
- 3500億円×10%×3年間。ただし、これは全国のすべての発注物件を違反行為者が落札した場合の課徴金の総額の大まかな計算です。また、企業が支払うのは自らの売上に係る部分に限られます。さらに告発後刑事手続において罰金刑の判決を受けた場合、その半額が課徴金額から控除されます。
- 公取委は、改正法施行後、二番目、三番目に駆け込んだ事業者に対しての刑事告発はケース・バイ・ケースで考えるとしています。
連絡先
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
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