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2009. 06.02
東京証券取引所における第三者割当に対する新たな規制案の概要
執筆者
弁護士 吉村 龍吾 ryoshimura@mofo.com / 清水 航 wshimizu@mofo.com
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(本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。)
1. 第三者割当に基づく上場廃止
(1) 希釈化率が300%を超える場合
上場会社が第三者割当により株式、新株予約権、新株予約権付社債などの発行を行う場合において、希釈化率[1]が300%を超えるときは、原則として上場廃止措置がとられる。希釈化率が300%超とされているのは、会社法上、発行可能株式総数は発行済株式総数の4倍以下となるように設計されており、株主は株主権が300%までしか希釈化されないことを投資の前提としているとの考えに基づく。
ただし、株主の権利を侵害するおそれが少ないと認められる場合には、上場廃止措置はとられないとされている。これは、希釈化率のみに基づく一律な規制は過剰規制となるおそれがあることから、少数株主保護及び市場の信頼性維持という観点からみて、株主の利益が不当に侵害されるおそれが少ないと判断される場合に例外を設ける趣旨である。この例外として例えば公的資金の導入等が含まれるであろうが、株主総会の特別決議等を経ても直ちに例外に該当するとは考えられていないようである。
(2) 支配株主が異動した場合
第三者割当により支配株主[2]が異動した場合[3]、その後3年以内に支配株主との取引に関する健全性が著しく毀損され、株主及び投資家の利益を侵害するおそれが大きいと認められるときは、上場廃止措置がとられる。これは、上場後に第三者割当を行うことで上場会社自ら積極的に支配株主の異動を生じさせ、その者との間で不当な利益の供与又は享受を行うことを規制するねらいである。
具体的には、TSEが、発行会社に対し、支配株主との取引について、原則として年に1回の定期報告を求め、支配株主との間における取引行為の正当性や取引条件の合理性などについて確認し、健全性を判断するとされている。この確認がどの程度のレベルの審査であるのかは最終的な規則や運用を見なくてはならないが、支配株主との取引について新規上場審査並みの厳格な審査が行われる可能性がある。
2. 希釈化率25%以上又は支配株主が異動する場合の行為規制
上場会社が第三者割当を行う場合で、希釈化率が25%以上となるとき、又は、支配株主が異動することになるときは、原則として次のア又はイの手続きを経ることが義務付けられる。
ア 第三者委員会などの経営陣から一定程度独立した者による第三者割当の必要性及び相当性に関する客観的な意見の入手
イ 株主総会の決議などの株主の意思確認
これは、上記1.(1)の場合ほど希釈化が著しい第三者割当ではないとしても、一定割合以上の株主権の希釈化を伴う場合、及び大株主の異動により支配権に影響を及ぼす場合には、既存株主の納得を得るための高度な説明手続を経ることが必要であるとの考えに基づく規制である。そして、かかる規制に違反した場合、処罰的な観点からの公表措置[4]、上場契約違約金[5]に加え、改善を促す観点から、改善報告書制度[6]及び特設注意市場銘柄指定[7]の適用対象とするとされている。
ただし、会社の資金繰りが急速に悪化して上記手続きを行うことが困難であるなど、緊急性が極めて高い場合には、上記手続きは例外的に不要であるとされている。
希釈化率が25%以上となり、又は支配株主が異動することとなる第三者割当は日本では取締役会決議レベルで頻繁に行われており、実務的影響は極めて大きい。第三者委員会のメンバー選定や運用を巡る実務的困難性、有利発行とはならない場合において株主総会の意思確認を求める会社法上の根拠(なお今回TSEは大規模第三者割当増資について総会決議を要求する旨の定款変更を必ずしも要求していない)等の問題もある。
3. 第三者割当に関する適時開示
上場会社が第三者割当を行う場合、以下の事項について適時開示を行うことが求められる。
a. 割当先の資金手当ての確認状況(その方法及び結果)
b. 発行価額の算定根拠及びその具体的な説明(TSEが必要と認める場合は有利発行該当性に係る適法性に関する監査役又は監査委員会の意見書の添付等を含む)
c. 上記2.に定める手続きを要する場合にはその内容(手続きを要しない場合にはその理由)
d. その他第三者割当について投資判断上重要と認められる事項
近時、第三者割当の実施を公表しながら、割当先から資金の払込みがなされず、結果増資が中止される事例が見られるところ、このような資金的裏付けを欠く第三者割当実施の情報は、市場を混乱させ、市場に対する信頼低下を招く危険があるため、これを抑止する観点からa.の開示が要求されている。
また、株主総会の承認なしに特に有利な価格により新株発行が行われた場合、株主は差止請求をすることが可能であるところ、差止請求権行使のためには、株主に対し、有利発行かどうかを判断するために必要な資料が開示されている必要があるとの観点から、b.の開示が要求されている。かかる趣旨から、株主総会において有利発行の特別決議を経る場合や、株式の場合で発行価額が割当先に特に有利な金額でないことが明らかであるときなどは、有利発行に該当するか否かに係る適法性に関する意見書の添付等の開示は不要とされる。
4. 反社に関する確認書の提出
割当先が上場会社および取引参加者である場合を除き、割当先が反社会的勢力と関係がない旨を記載した確認書の提出が要求される。
5. 実施時期
平成21年8月を目処に実施が予定される。原則として実施以後に発行決議が行われる第三者割当増資が対象となるものと思われる。
6. コメント
① 本パブコメで明らかにされた第三者割当規制は、既存株主・投資家保護を目的として、自主規制機関が従来の会社法を中心とする規制を抜本的に強化する姿勢を明確に打ち出したものといえる。大規模希釈化や支配権の移転が取締役会レベルの判断でこれまで容易に行われてきたことに対する重大なメッセージであり、ストラテジックな提携を伴うもの、資金調達目的のもの、支配権争奪に絡むもの等を問わず、また、普通株、優先株、新株予約権等、その形態を問わず、あらゆる第三者割当に大きな影響が予想される。
② 資金繰り悪化時の資金調達等を阻害しないための配慮も一定限度なされているが、どのような場合が上記1(1)及び2.の規制の例外として該当するかは具体的には必ずしも明らかではない。
③ 同様の規制はTSE以外の他の証券取引所でも導入される可能性が高い。
[1] 割当前の発行済株式(割当前に存在する潜在株式を含まない。)に係る総議決権数に対する、当該第三者割当による発行株式に係る議決権数の比率をいう。また行使価額等が修正される場合にはその下限価額で潜在株式数を計算する。
[2] 親会社又は議決権の過半数を直接若しくは間接に保有する者として有価証券上場規程施行規則(以下「施行規則」という。)で定める者をいい(有価証券上場規程(以下「上場規程」という。)2条42号の2)、具体的には、自己の計算において所有している議決権と以下の(1)(2)に掲げる者が所有している議決権とを合わせて、上場会社の議決権の過半数を占めている主要株主(親会社を除く。)をいう(施行規則3条の2)。
(1) 当該主要株主の近親者(二親等内の親族をいう。以下同じ。)
(2) 当該主要株主及び(1)に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等(会社、指定法人、組合その他これらに準ずる企業体(外国におけるこれらに相当するものを含む。)をいう。以下同じ。)及び当該会社等の子会社
[3] 支配株主の異動の有無の判断においては、当該第三者割当によって生じる潜在株式にかかる議決権数が考慮される。
[4] 上場規程508条2項。
[5] 上場規程509条1項。
[6] 適時開示を適切に行わなかった会社に対して提出を求める改善報告書制度(上場規程501条)の適用対象が拡大されることになる。
[7] 虚偽記載や上場契約違反等により上場廃止のおそれが生じた場合に行われる特設注意市場銘柄の指定(上場規程501条1項)の対象が拡大されることになる。なお、新たな規制の下では、特設注意市場銘柄の指定は、改善報告書を提出した上場会社において、改善措置の実施状況等に改善が認められない場合で、かつ改善の必要性が高いと認められる場合に行われるとされている。
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