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2009. 06.24
排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針(原案)の公表
2009年6月19日、公正取引委員会(以下「公取委」といいます)は、「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針(原案)」(以下「ガイドライン(案)」といいます)を公表し、パブリック・コメントに付しました。
去る6月10日に改正独占禁止法が公布され[1]、排除型の私的独占について課徴金が課されることになったことを受けて[2]、事業者の予見可能性を高めるために作成されたものです。
ガイドライン(案)の概要と問題点
ガイドライン(案)は3部構成で、「第1 公正取引委員会の執行方針」、「第2 排除行為」、「第3 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」に分かれます。
1. 公取委の執行方針
「第1 公正取引委員会の執行方針」においては、排除型の私的独占のうち、公取委が優先的に審査する事案を特定しています。それによれば、「行為開始後において行為者が供給する商品のシェアがおおむね2分の1を超える事案であって、市場規模、行為者による事業活動の範囲、商品の特性等を総合的に考慮すると、広く国民生活に影響が及ぶと考えられるものについて、優先的に審査を行う。」とされています。
排除型私的独占の成否如何ではなく、「(優先的な)審査対象の選定」の方針を冒頭に記載することには違和感もありますが、シェア50%という数字を出した点は大きなインパクトがあります。
2. 排除行為
「第2 排除行為」においては、主に排除の意義と、排除行為の典型的な四類型(コスト割れ供給、排他的取引、抱き合わせ、供給拒絶/差別的取扱い)について判断要素と参考事例を説明していますが、それ以外の態様の行為であっても排除行為に該当しうることも指摘しています。
排除の意義について、ガイドライン(案)の説明は迂遠で隔靴掻痒の感がありますが、要するに「他の事業者の事業活動の継続を困難にさせたり、新規参入者の事業開始を困難にさせたりする蓋然性の高い行為」がこれに該当するとしています。また、排除の意図は排除の不可欠の要件ではなく、排除を推認する重要な事実と位置づけています。
このような前提の下、各類型の行為については以下のような考え方が示されています。
(1) 「コスト割れ供給」
コスト割れ供給により、自らと同等又はそれ以上に効率的な事業者の事業活動を困難にさせる場合には,当該行為は排除行為となる。
(2) 「排他的取引」
排他的行為(明示の排他条件付取引のみならず、リベート等の供与により実質的にそのような効果を生じる行為を含む)により、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができない競争者の事業活動を困難にさせる場合には、当該行為は排除行為となる。
(3) 「抱き合わせ」
抱き合わせにより、従たる商品(第一の商品に抱き合わせられる第二の商品)の市場において他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができない競争者の事業活動を困難にさせる場合には、当該行為は排除行為となる。
(4) 「供給拒絶/差別的取扱い」
供給拒絶・差別的取扱いにより、拒絶等を受けた供給先事業者の川下市場における事業活動を困難にさせる場合には、当該行為は排除行為となる。
以上のように、それぞれの類型において「他の事業者の事業活動の継続を困難にさせる」場面について、前三者は主に競争者の事業活動に着目していますが、供給拒絶/差別的取扱いにおいては、必ずしも競争事業者に対する行為でなくても排除行為に当たる可能性があります。そして、いずれの行為類型についても、市場における競争の状況(例えば、行為者や排除される事業者の市場における地位やシェア、商品差別化の程度、供給余力等)に基づいて排除行為の成否を判断するとしています。
しかしながら、その具体的な判断要素の説明は抽象的かつ不明瞭で、必ずしも実務に対する明確な方向性が示されているとはいえません。例えば「排他的取引」や「抱き合わせ」における排除行為についての記述は、競争者が他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができないこと自体は当該競争者の事業活動を困難にさせることではなく、それとは別に事業活動を困難にさせる事実の認定を要するようにも読めますが、果たして公取委が本当にそのように考えているのどうかは明らかではありません[3]。また、「供給拒絶/差別的取扱い」において、供給拒絶と差別的取扱いを同列に扱う理由は明らかではありませんし[4]、合理的な範囲を超えて供給拒絶・差別的取扱いを行う場合には排除行為に該当しうると述べる一方で、何が合理的かについては、一部の取引先に対する著しい廉価販売が不合理であるという記述を除いて、一切言及されていません。
参考として挙げれらている事例も、そのような類型の事例として過去にそのようなものがあるということ以上に、何を行なえば違法で、どのような場合には違法でないのかという点について明確な基準を提供するものではありません。
3. 市場画定と競争の実質的な制限
ガイドライン(案)は、「第3 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」において、一定の取引分野(市場)の画定手法とそこにおける競争の実質的制限における判断要素について説明しています。
一定の取引分野の画定(市場画定)の手法については、商品の範囲と地理的な範囲から分析することを原則としているようです。ガイドライン(案)の文言は、「必要に応じて」商品の範囲と地理的な範囲から画定する「ことがある」というあいまいな文言となっていますが、場合によってはそのようなこともあるというのではガイドラインの意味がありませんので、公取委は基本的にこのような方向で検討するが、そうでなかったときでもガイドラインには反していないというリスクヘッジをしておく趣旨と見られます。
商品の範囲、地理的範囲のいずれも、需要の代替性、供給の代替性の観点が考慮されるとしており(ただし、地理的範囲に関する供給の代替性の記述はごく僅かです)、その大枠は、企業結合ガイドライン等における市場画定の手法と基本的に軌を一にするものです。
市場を広く画定すると、自らの行為の与える影響は希釈される一方で、自らの供給する商品・役務によっては理論上課徴金の増額要因にもなりますので[5]、この点の公取委の方針は実務に大きな影響があります。
競争の実質的制限については、「競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態を形成・維持・強化することをいう」との判例を引用し、行為者の地位及び競争者の状況、潜在的競争圧力、需要者の対抗的な交渉力、効率性等を考慮して判断する旨が説明されています。
しかしながら、これまで、一定の取引分野やそこにおける競争の実質的な制限の認定の筋道を公取委が明らかにした事案自体が多くありません。とりわけ、競争の実質的制限については、それが争われた最近の事案においても、ガイドライン(案)の掲げる判断項目について詳細かつ説得力のある検討はなされていません。むしろ、公取委は排除行為があれば、実質的にはほとんど直ちに競争の実質的制限があるという認定を行なう傾向がありますので、ガイドライン(案)の記載が、これまでの判断手法をより進化させようとするものなのか、単なるリップサービスなのかは判然としません[6]。
今後の手続きと実務への影響
パブリック・コメントの締め切りは2009年8月19日18:00(必着)で、パブリック・コメントを踏まえてガイドライン(案)が再検討され、成案として公表されます。その際には、寄せられたコメントに対する公取委の見解も示されるのが通常です。
私的独占はその解釈、適用の有無の判断が難しい条項の一つですが、企業の通常の合理的な事業活動に対してまで適用される潜在的な可能性を常に秘めています。そのため、例えば事業規模の大きい有力企業や、中小企業でも一部の取扱商品がニッチな市場において高いシェアを誇る企業は、自らの事業モデルや取引形態をデザインするにあたり、その適用の可能性を常に検討しなければなりません。特に、近年公取委が排除型私的独占の適用に熱心なことと、本年の改正法で排除型の私的独占について課徴金が課されることになったことに鑑みれば、そのリスクを回避するための準備の必要性は極めて高いといえます。その意味で、ガイドライン(案)は無視できませんし、優先的な調査の対象範囲を示すなど、ある程度の予測可能性を提供している点で意味があります。他方でガイドライン(案)は、本来排除型の私的独占の解釈について明確な方向性を提供すべきものであるにもかかわらず、上記のとおり多くの問題点を抱えており、その方向性も一義的に明確ではありません。
私的独占は通常いわゆる単独行為に分類されますが、この分野ではいろいろな理論や価値判断が交錯しており、カルテルなどと比べて、国際的にも共通の理解や規制の協調が進んでいない分野です[7]。それゆえ、ガイドライン(案)に対しても種々のコメントが多方面から寄せられることが予想されます。先日の知的財産権ガイドラインの作成の際も、重要なコメントが多く寄せられ、締め切りから成案の公表までに4か月近く要しましたが、今回も同様の自体が生じる可能性もあります。
改正法の施行は2010年1月1日または4月1日が有力視されていますが、仮に1月1日だとすると、成案の公表後程なくして改正法が施行されることもありえます。また場合によっては成案はガイドライン(案)から大幅に修正される可能性もあります。
ガイドラインの内容如何によっては、普段何気なく行なっている取引の内容やビジネスモデルの見直しを余儀なくされる場面も考えられますので、リスク管理の観点からガイドライン(案)について今後のコメント及び修正の動向を注視する必要があります。
[1] 独占禁止法の改正については、「平成21年独占禁止法改正法の成立」をご参照ください。
[2] 私的独占には支配型と排除型の二種類があり、現行法では支配型のみが課徴金の対象とされていましたが、平成21年改正法(来年の施行が予定されています)の下では排除型の私的独占も課徴金の対象となります。課徴金の算定率は卸・小売業以外の業種が関連する商品・役務の売上の6%、小売業が2%、卸売業が1%です。
[3] 流通取引慣行ガイドラインでは、「競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には、当該行為は不公正な取引方法に該当」するとされています。
[4] 知的財産権ガイドラインにおいては、「ライセンスの拒絶と同視できる程度に高額のライセンス料を要求する場合」はライセンス拒絶と同視しうるとされていますが、ガイドライン(案)では、特に区別することなく同列に論じています。
[5] 改正法によれば、排除型私的独占における課徴金は、一定の取引分野において当該事業者が供給した商品または役務の売上を対象として課されますので、例えば地理的市場が広がれば、課徴金の算定対象となる商品の売上が増加することも考えられます。
[6] この点ガイドライン(案)自体が、排除行為について「他の事業者の事業活動の継続を困難にさせたり、新規参入者の事業開始を困難にさせたりする行為であって、一定の取引分野における競争を実質的に制限することにつながる様々な行為」と述べていることが注目されます。
[7] 例えば米国においては、司法省が前政権の下で昨年9月に公表した単独行為に関する報告書は、現政権の下で、公表から一年も経たない本年5月に撤回されました。
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