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2009. 12.21
平成21年改正独占禁止法における企業結合規制
執筆者
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
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1. はじめに
平成21年改正独占禁止法(以下「改正法」といいます)の主要部分が2010年1月1日から施行されます[1]。中でも、株式譲渡に関する事前届出制度をはじめとする企業結合に関する手続は、改正法のみならず政令、規則等によって定められる複雑かつ技術的な構造になっています。政令、規則などの下位法令が最近公表されましたが、公表から施行までの期間が短く、対応が手薄になる可能性もあります。そこでこれらの手続きについてここで整理しておくことが重要です。
2. 改正法における現行法からの変更点
改正法における現行法からの改正事項はすべて手続きに関するもので、実質面(競争制限の有無)についての規制に変更はありません。政令や規則で明らかにされた部分も含め、主な改正事項には以下のようなものがあります。
- 株式取得についての事前届出制(併せて30日の待機期間を設ける)
- 株式取得について、届出を要する場合の議決権保有割合(閾値)の変更(10%、25%または50%を超える場合の三区分から20%または50%を超える場合の二区分に)
- すべての企業結合の類型について、届出基準の変更(国内会社、外国会社を問わず基準は国内売上高に)
- すべての企業結合の類型について、売上高の金額の変更(原則として買収者はグループで200億円、被買収者は50億円に変更)
- 組合財産としての株式取得についてのみなし規定の創設(組合の「親会社」の取得とみなす)
(1) 株式取得についての事前届出制
現行法では、株式取得についての公正取引委員会への届出手続きは、実行後の事後報告とされています。改正法ではこれを事前届出にして、30日の待機期間を設けています。
改正法の施行日は、上記のとおり2010年1月1日ですが、株式取得について事前届出義務が生じるのは、2010年1月31日に実行する株式取得からです[2]。しかし、2010年1月31日から2月3日に実行する株式取得が届出基準を満たす場合には、実行から30日前に届出を受理してもらおうとしても、正月休みで公取委が業務を行なっておらずそれができません。だからといって、2009年の御用納めの前に提出しても、その時点ではまだ改正法が施行されていませんので、公取委は届出書の受理のしようがないという不思議な事態が生じます。この場合の実務上の処理は、2010月1月4日以降に速やかに届出を行い、期間短縮を申請することになります[3]。
このように株式取得取引について事前届出を要することになると、株式取得取引について外国における事前届出がある場合には、待機期間が経過することによって当該外国のみならず日本でも同時に当該取引が独禁法上問題ないことが確認されるという利点がある反面、現行法の下では特に日本においてのみ事後報告を要するような取引の場合には、株式取得の実行前に待機期間分の時間を要するようになったことがマイナス面です。とはいえ、日本においてのみ届出を要する場合でも、待機期間の経過以降は当該取引に対して問題視されることはないという明確な基準が定められたことは、一つのプラス面ともいえるでしょう[4]。
(2) 株式取得の届出についての閾値の変更
現行法では報告を要する場合の議決権保有割合の基準は10%、25%、50%をそれぞれ超える場合の三区分でしたが、改正法及び政令ではこれを20%超、50%超の二区分としています[5]。
(3) 株式取得会社独自の資産要件の削除
現行法上、株式保有の場合には株式保有者単独の総資産額が20億円超という、他の取引形類型にはない基準がありますが、企業結合全体について届出の要否の基準を変更することに伴ない、この株式保有特有の基準もなくなりました。
(4) 届出基準の変更
株式取得に限らず、企業結合のすべての類型に共通の改正事項として、届出基準の変更があります。
ア 資産額から国内売上高へ
現行法では、買収者(取得者)についての基準は資産額ですが、被買収者(ターゲット)について日本国内の会社の場合には資産額(事業の一部譲受などについては国内売上高)、外国会社の場合には国内売上高とされています。改正法では、そのすべてについて国内売上高を基準としました。これにより、届出基準は被買収者が国内会社であっても外国会社もすべて同一になります。なお、改正法における国内売上高の定義は、後述のとおり、現行法におけるそれとは異なります。
イ 金額がグループで買収者200億円超、被買収者は50億円超に
株式取得の場合、現行法では買収者の基準は100億円超(総資産合計額)[6]で、被買収者が10億円越(総資産額または国内売上高)とされていました。改正法は買収者については国内売上高200億円超[7]、被買収者については国内売上高50億円超とされました[8]。
合併の場合も、改正法の下では当事者の一方の国内売上高200億円超、他方が国内売上高50億円超とされました[9]。
改正法の下で新設された共同株式移転の届出の場合も、当事者の一方の国内売上高が200億円超、他方が国内売上高50億円超が基準とされました[10]。
事業譲受の場合には、買収者についての基準は国内売上高200億円超ですが、被買収者の事業については国内売上高が30億円超というのが基準で[11]、他の類型と異なります(事業の全部譲受と重要部分の譲受で異なりません)。
会社分割の場合には30億円という基準もあるほか、100億円という基準もあり複雑です。共同新設分割、吸収分割の場合の基準については末尾の図のとおりです[12]。
会社分割について、50億円超、30億円超という二つの異なる基準を設けたことにより、同じ目的を達成する取引でも、法的構成の違いにより、届出義務が生じたり生じなかったりする場合が出てきます。例えば、国内売上高が30億円超50億円以下の事業の重要部分について、これを国内売上高が200億円超の既存の会社に承継させる場合、直接吸収分割を行う場合には届出が必要ですが、承継の対象となる事業を一旦新設分割で新設会社に移転し、新設会社の事業の全部を承継させる吸収分割を行うという構成をとると、届出が不要となります。
ウ 国内売上高はグループ全体の金額で判断
上記の買収者の国内売上高200億円超という基準の国内売上高は、グループ会社全体(企業結合集団)の合計額を見ることとされています。この場合、買収者の究極の親会社(「最終親会社」と呼ばれます)まで遡り、その傘下の子会社の国内売上高を合計します。
他方、被買収者の国内売上高50億円超という基準の国内売上高は、被買収者及びその傘下の子会社の国内売上高を合計し、親会社など被買収者より上位にある企業の売上高は含めません。
このような買収者のグループ全体、あるいは被買収者及びその子会社の国内売上高を算出するためには、原則として下記の3つの売上高を合計します[13](ただし、グループ内での相互取引は控除することができます[14])。控除に際して、最終親会社とその子会社の事業年度(決算期)のずれが3ヶ月を超える時は、子会社が最終親会社の事業年度末に合わせて決算を行います[15]。
(ア) 国内の消費者に対する売上
(イ) 法人等[16]に対する取引の売上で、国内において供給される場合のうち、商品の性質又は形状を変更しないで日本国外に転売されることを把握している場合[17](典型的には商社が間に入って外国に供給される場合)の売上高を除くもの
(ウ) 法人等に対する取引において、商品が外国において供給されるが、さらにそれが商品の性質又は形状を変更しないで日本に転売されることを把握している場合の外国における供給についての売上(典型的には商社が間に入って日本に供給される場合)
これに対して、グループ内に連結財務諸表提出会社[18]がある場合には、その連結財務諸表がカバーする部分については、連結財務諸表における売上高から、海外売上高を控除した金額を国内売上高とすることができます[19]。外国の会社のグループ内に外国財務諸表提出会社[20]がある場合には、同様に、その連結財務諸表が対象とする企業群について、連結財務諸表における売上高から、海外売上高を控除した金額を国内売上高とすることができます。
公取委は、企業結合届出規則案についてのパブリックコメントに対する回答として、国内売上高は(債務者の所在国ではなく)商品の仕向け地国によって判断すべきことを明示しています。
連結財務諸表規則は本邦以外の国又は地域についての売上高の記載を義務付けており、平成22年4月1日以降に開始する連結会計年度についても地域ごとの情報の記載を要求していますので、グループ全体について連結財務諸表の記載自体から海外売上高を控除した金額を算出することは容易です。しかし、かかる連結財務諸表の記載が商品の仕向地によって分類されていない場合の取扱いについては明らかではありません。
また、外国会社の連結財務諸表において日本向けの売上を特定して記載していることは稀ですので、外国会社の場合には連結財務諸表をそのまま利用できるケースはそう多くないかもしれません。
(5) 「親会社」・「子会社」の概念
前述のとおり、改正法は、企業結合の届出の要否の基準を、買収者についてはグループ会社全体の金額の合計額で見ることとし、このグループ会社のことを特に「企業結合集団」と呼んでいます。
企業結合集団は、親会社、子会社からなる集団ですが、「親会社」、「子会社」の定義は、改正法では「経営を支配している」会社等とされ、経営を支配している会社の一例として議決権の過半数を有する株式会社が挙げられている外は、すべて規則に委任されています。規則においては「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」として概ね会社法と同様の実質的支配基準が定められています[21]。
ただし、改正法は会社等には組合を含むと規定しており[22]、親会社、子会社にも組合が含まれます。組合の場合の親会社か否か、子会社か否かを決定する基準としての「経営を支配している」か否かは、改正届出規則[23]が「業務執行を決定する権限」の有無で決すると規定しています。
かかる親会社、子会社の判断基準は、被買収者及びその傘下の子会社の国内売上高を合計する場合にもそのまま適用されます。
(6) 組合財産としての株式を取得する場合の取扱い
改正法では、組合(の組合員)が組合財産として株式発行会社の株式を取得しようとする場合には、当該「組合の親会社」が株式全部を取得するものとみなし、また「会社の子会社である組合」の組合財産に株式発行会社の株式が属する場合には、当該「組合の親会社」が、そのすべての株式を所有するものとみなして株式取得の届出の規定を適用するとしています[24]。
そのため、組合等のファンドによる株式取得の場合には、前述の親子会社の規定と相俟って、多くの場合に業務執行者が株式取得を行なったとみなして届出が要求されることになります。
(7) 共同株式移転
共同株式移転についての規定が整備されました[25]。届出基準については前述のとおりです。
(8) 企業結合ガイドラインの改定
企業結合取引の届出に関する基準が大幅に変更されたことに伴い、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(いわゆる企業結合ガイドライン)が改定され、2010年1月1日から施行されます(厳密には、2010年1月1日が改定日となります)。ただし、変更箇所はこれまで述べてきた法令の手続き規定の変更に伴う部分に限られ、実質的な審査基準に変更はありません。
3. おわりに
平成21年改正法は、企業結合に関する実質的な競争制限に関する部分は変更しておらず、例えば現行法の下で許容される取引が改正法の下で許容されなくなるといった心配はありません。一方、取引の実質的な内容に競争法上の問題がなくても、手続き規定に違反すればそれだけで違法となります。
冒頭に述べたとおり、企業結合に関する手続は複雑で技術的ですが、改正が広範に渡るので、ややもすると必要な手続きを見落としてしまう危険があります。したがって企業結合取引を行なうにあたって必要となる手続きとスケジュールの検討は、時間的に十分な余裕を持って行なう必要があります。とりわけ株式取得取引については大きな制度の変更がなされましたので、慎重に対応しなければなりません。また、過渡期においては、法令に規定のない疑問点も多く、注意が必要です。実務が定着するまでは必要に応じて公取委と協議しながら進めることも重要です。
会社分割の届出基準
[1] 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成21年政令252号)。改正の経緯、内容の詳細については、「平成21年独占禁止法改正法の成立」及びそこに引用されるニュースレターをご参照ください。
[2] 改正法附則10条。
[3] 公取委は、待機期間の起算日を受理日の翌日とする扱いをしています(例えば、現行法下でも事前届出が必要な合併・分割・事業等の譲受けに関するQ&Aのうち、禁止期間に関するA1参照)。しかし、そのように考えると、2010年1月31日に実行する株式取得取引は、改正法施行日前である2009年12月31日に届出が受理されなければ実行日前に待機期間が満了しないこととなり、改正法は法律上実現不可能な届出を要求していたという結論になります。公取委企業結合課に問い合わせたところ、この立場を明確に肯定しましたが、合理的とは思われません(公取委が期間短縮を認めれば可能ですが、その場合は禁止期間を短縮することについて合理的な理由は、期間どおりに届出書を提出する日が法律上存在しないということになるのでしょうか)。そして、この初日不参入という立場を貫きますと、2010年2月3日に実行する株式取得取引の届出は日曜である1月3日に受理してもらわなければ実行できないことになりますので、実際には1月4日に受理してもらって期間短縮を行なうことになります。
[4] 現行法上、株式取得取引についての事後報告を行った場合に、公取委が措置を命じることができる期間に明文の制限はありません。
[5] 平成21年改正後の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「改正施行令」といいます)16条3項。
[6] 前述とおり、そのほかに、買収者自身の単体での総資産が20億円超という要件があります。
[7] 改正法10条2項、改正施行令16条1項。
[8] 改正法10条2項、改正施行令16条2項。
[9] 改正法15条、改正施行令18条。
[10] 改正法15条の3、改正施行令20条。
[11] 改正法16条、改正施行令21条。
[12] 改正法15条の2、改正施行令19条。
[13] 平成21年改正後の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則(以下「改正届出規則」といいます)2条1項、2条の2第1項。
[14] 改正届出規則2 条の2 第2項。
[15] 改正届出規則2条の2第3項。
[16] 法人等には、法人のほか、事業を行なう個人を含みます。
[17] 公取委は、改正届出規則案についてのパブリックコメントに対する回答として、調査・把握義務(ないしは通常のレベルを超える注意義務)はないと述べています。しかし、この基準は非常に不明確で、実務における運用が難しいと予想されます。
[18] 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「連結財務諸表規則」といいます)2条1号に規定する連結財務諸表提出会社。
[19] 改正届出規則2条の3第1項。
[20] 外国の法令に基づいて連結財務諸表を作成している会社。
[21] 改正届出規則2条の9。
[22] 改正法10条2項。
[23] 改正届出規則2条の9第3項。
[24] 改正法10条5項。
[25] 改正法15条の3。



