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2009. 12.24
施行直前の平成21年改正独占禁止法の整理
執筆者
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
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1. はじめに
平成21年改正独占禁止法(以下「改正法」といいます)の主要部分が2010年1月1日から施行されます[1]。本年6月10日の公布以降、排除型私的独占ガイドライン、各種政令及び規則、告示、その他のガイドラインなどについて、パブリックコメントを経て成案が続々と公表されていますので、来年1月1日の施行を前に検討しておくことは有意義だと思います。以下、改正法の全体像について、下位法令も含め、施行直前の重要部分を整理します。
2. 私的独占についての改正
2.1 排除型私的独占
改正法では、排除型私的独占について、新たに課徴金が賦課されます。課徴金の算定率は卸・小売以外の業種(製造業、サービス業等)について6%、小売業は2%、卸売業は1%です。
排除型私的独占に関する考え方については、2009年10月28日に公正取引委員会(以下「公取委」といいます)が「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」(排除型私的独占ガイドライン)を公表しています。このガイドラインの原案は、6月19日に公表され、パブリックコメントに付されました[2]。原案から成案に至る過程での修正箇所の多くは細かい表現に関するものですが、パブリックコメントに対する公取委の回答において、競争激化による対抗値下げによってコスト割れで供給することは正当化事由とは認められないとの指摘がなされていることが注目されます。
2.2 告発方針への私的独占の追加
見落とされがちですが、公取委の告発方針[3]における告発対象となる違反行為の例示の中に、私的独占が追加されました。不当な取引制限以外の類型としてこれまでも共同ボイコットが記載されていましたが、平成17年の告発方針の改正以降告発事例はありません。排除型私的独占に課徴金を賦課する改正がなされることを契機として、告発方針に私的独占が明示的に列挙されたことには、公取委の私的独占に対する告発の意欲が見て取れます。
3. 不公正な取引方法についての改正
3.1 一部の不公正な取引方法に対する課徴金の賦課
改正法では、一部の不公正な取引方法に対して、改正法自体に規定が設けられ、新たに課徴金が賦課されます。課徴金の対象となる不公正な取引方法の類型や規制の特徴は表1のとおりです。
表1 課徴金の対象となる不公正な取引方法
| 類型 | 課徴金が課される場合 | 課徴金算定率 | 特徴 |
| 共同の取引拒絶 | 10年以内の再犯 | 卸・小売業以外の業種:3% 小売業:2% 卸売業:1% |
供給拒絶に限る。 |
| 差別対価 | 同上 | 同上 | 継続的な行為、供給取引、かつ他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合に限る。 |
| 不当廉売 | 同上 | 同上 | 費用を著しく下回る対価での継続供給に限る[4]。 |
| 再販売価格の拘束 | 同上 | 同上 | 現行法下の一般指定12項と全く同じ(間接の拘束行為を含む)。 |
| 優越的地位の濫用 | 初犯から | 業種にかかわらず1% | 新規の継続的契約を対象に含めることを明文化。 不利益条件の例示として受領拒絶、返品、支払い遅延、減額を列挙。 |
このうち、不当廉売については、「不当廉売に関する独占禁止法の考え方」(不当廉売ガイドライン)が2009年12月18日に公表されました[5]。不当廉売ガイドラインは、その冒頭の説明にもあるとおり、旧ガイドラインと比較して、廉売の定義について相当の分量が割かれており、基本的には、経済合理性のない行為か否かで判断し、それは概念的には「平均回避可能費用」を回収できるか否か、実務上は総販売原価を下回るか否かという考え方を用いるとしています。
3.2 課徴金の対象とならない不公正な取引方法についての告示
上記のとおり、一部の不公正な取引方法が、課徴金の対象とされるにあたって法律で規定されたことに伴い、その他の不公正な取引方法を改正する告示がなされました[6]。
それによれば、現行法下での一般指定[7]の各項は概ね表2のように改正されます。
表2 課徴金の対象とならない不公正な取引方法
項
類型(標題)
内容
1項
共同の取引拒絶
供給を受けることの拒絶・制限に限定。
2項
その他の取引拒絶
変更なし。
3項
差別対価
法律で規定する行為類型以外の行為。
4項
取引条件等の差別的取扱い
変更なし。
5項
事業者団体における差別的取扱い等
変更なし。
6項
不当廉売
法律で規定する行為類型以外の行為。
7項
不当高価購入
変更なし。
8項
ぎまん的顧客誘引
変更なし。
9項
不当な利益による顧客誘引
変更なし。
10項
抱き合わせ販売等
変更なし。
11項
排他条件付取引
変更なし。
12項
再販売価格の拘束
削除。
13項
拘束条件付取引
新12項[8] 引用条文(法律における再販売価格の拘束と11項の排他条件付取引)を除き変更なし。
14項
取引の相手方の役員選任への不当干渉
新13項(標題変更) 現行の優越的地位の濫用(現行14項1ないし4号)の規定がほぼ法律に移ったことに伴い、現行14項5項の行為類型に限定。これに伴って標題も変更。
15項
競争者に対する取引妨害
新14項 項番号以外変更なし。
16項
競争会社に対する内部干渉
新15項 項番号以外変更なし。
4 . 不当な取引制限についての改正
4.1 不当な取引制限の首謀者に対する課徴金の増額
カルテル・入札談合の首謀者(企てた者)が、他の共同違反行為者に対して違反行為への参加や離脱・中止しないことを要求、依頼、教唆し、これにより共同違反行為者が違反行為に参加したり継続したりした場合には、課徴金が50%増額されます。また、他の共同行為者が違反行為においてとるべき行動を指定する場合も同様に課徴金が50%増額されます。この点について、改正法の公布以降特に追加の政令・規則等の制定はありません。
4.2 課徴金減免制度の変更
課徴金減免について、最大で5社まで認められるようになりました。また、グループ会社共同の減免申請と順位を両者で共通のものとすることが認められましたので、それにともない、課徴金減免規則が改正され、共通の代理人を定めるか、連絡先となる事業者を定めること[9]、報告又は資料の提出を求める書面の送達先を当該共通の代理人か連絡先となる事業者にすること[10]が定められました。
告発方針においても、第一番目に同順位で減免申請をした複数のグループ会社について、いずれも従業員を含めて告発しない旨の記載が追加されました。
4.3 刑事罰の変更
改正法はカルテルや入札談合に適用される不当な取引制限について、刑事罰である懲役刑の上限を3年から5年に引き上げています。刑法上3年を超える懲役刑には執行猶予を付すことができませんので、この改正項目が加えられたことは、実刑判決を求める当局のメッセージとも言えます。この点について、改正法の公布以降特に追加の政令・規則等の制定はありません。
5. 審査手続きについての改正
5.1 除斥期間の延長
排除措置命令・課徴金納付命令を出すことができる期間(除斥期間)が3年から5年に延長されます。この点について、改正法の公布後特に追加の政令・規則等の制定はありません。
5.2 警告の明文化
審査規則において、警告に関する手続きが明文化されました[11]。警告は、私的独占、不当な取引制限、国際的契約、事業者団体の行為、不公正な取引方法についての禁止規定に「違反するおそれがある」行為がある又はあったと認める場合において、その行為を取りやめること又はその行為を再び行わないようにすることその他必要な事項を「指示する」ことと定義されています[12]。警告は文書で行い、警告の名あて人に対して送付しますが、予め意見を述べ、証拠を提出する機会を付与するとされています[13]。
警告については従来強い批判が寄せられていますが、今般の規則改正で明文化されました。その際、意見を述べ、証拠を提出する機会が設けられた一方で、不服申立手続きは設けられていません。公取委は、改正審査規則案についてのパブリックコメントに対する回答において、警告は事前手続きを経た行政指導なので不服申立手続きまで設ける必要はないと述べています。
6. 企業結合の届出手続についての改正
企業結合規制の見直しは、改正法の一つの柱ですが、改正法の公布日以降、政令及び規則が制定され、詳細なルールが定められました。改正法における現行法からの改正事項はすべて手続きに関するもので、実質面(競争制限の有無)についての規制に変更はありません[14]。
企業結合に関する改正法の規定及び改正法の公布以降に制定された下位法令の詳細については「平成21年改正独占禁止法における企業結合規制」をご参照ください。
6.1 株式取得についての事前届出制
現行法では実行後の事後報告とされていた株式取得について、改正法ではこれを事前届出にして、30日の待機期間を設けています。改正法の施行日は、上記のとおり2010年1月1日ですが、株式取得について事前届出義務が生じるのは、2010年1月31日に実行する株式取得からです[15]。ただし、2010年1月31日から2月3日に実行する株式取得が届出基準を満たす場合には、実務上2010月1月4日以降に速やかに届出を行い、期間短縮を申請することになります[16]。
現行法では報告を要する場合の議決権保有割合の基準は10%、25%、50%(をそれぞれ超える場合)の三区分でしたが、改正法及び政令ではこれを20%超、50%超の二区分としています。
株式取得が事前届出制になることを契機として、改正法は、共同株式移転についても企業結合の一類型として規定しました。
6.2 企業結合取引一般について届出基準の変更
株式取得に限らず、企業結合のすべての類型に共通の改正事項として、届出基準が大きく変更されました。
(1) 国内売上高への基準の統一
改正法では、買収者(取得者)、被買収者(ターゲット)の双方について国内売上高を基準としました。これに伴い、現行法上株式保有の場合に限って存在する株式保有者単独の総資産額基準もなくなりました。
(2) 金額の基準がグループで買収者200億円超、被買収者は50億円超に
改正法では、事業譲受と一部の会社分割を除き、買収者については国内売上高200億円超、被買収者については国内売上高50億円超とされました(新設された共同株式移転についても同様です)。
事業譲受の場合には、譲受の対象となる事業については国内売上高の基準は30億円超で、他の類型と異なります(事業の全部譲受と重要部分の譲受で異なりません)。また、会社分割の場合には30億円という基準もあるほか、100億円という基準もあり複雑です[17]。
(3) 国内売上高はグループ全体の金額で判断
上記の買収者の国内売上高200億円超という基準の国内売上高は、グループ会社全体(企業結合集団)の合計額を見ることとされています。この場合、買収者の究極の親会社(「最終親会社」と呼ばれます)まで遡り、その傘下の子会社の国内売上高を合計します。
他方、被買収者の国内売上高50億円超という基準の国内売上高は、被買収者及びその傘下の子会社の国内売上高を合計し、親会社など被買収者より上位にある企業の売上高は含めません。
このような買収者のグループ全体、あるいは被買収者及びその子会社の国内売上高を算出する方法が、改正届出規則[18]において詳細に定められました。グループ内での相互取引は控除することができますし、連結財務諸表によることができる場合もあります。他方で、国内売上高は(債務者の所在国ではなく)商品の仕向け地国によって判断すべきとされ、さらに、商品が国内で供給されるがそれがそのまま日本国外に転売されることを把握している場合は国内売上高に含めず、商品が外国において供給されるがそれがそのまま日本に転売されることを把握している場合には国内売上高に含なければなりません[19]。
6.3 「親会社」・「子会社」
改正法は、グループ会社全体(企業結合集団)や、被買収者についての傘下の子会社の範囲を決する基準となる「親会社」、「子会社」を「経営を支配している」会社等と定義していますが、具体的には改正法自体が議決権の過半数を有する株式会社を例示している外、改正届出規則が「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」として概ね会社法と同様の実質的支配基準を規定しています。
「会社等」には組合も含まれますが、組合の場合「経営を支配している」か否かは「業務執行を決定する権限」の有無で決します。
6.4 組合財産としての株式を取得する場合の取扱い
改正法は、組合(の組合員)が組合財産として株式発行会社の株式を取得しようとする場合には、当該「組合の親会社」が株式全部を取得するものとみなし、また「会社の子会社である組合」の組合財産に株式発行会社の株式が属する場合には、当該「組合の親会社」が、そのすべての株式を所有するものとみなして株式取得の届出の規定を適用するとしています。
7. いわゆる24条訴訟における証拠開示手続きの新設
改正法は、不公正な取引方法についての差止訴訟(いわゆる24条訴訟)について、文書提出命令ができることを特に独禁法の条文として明示的に規定し、正当事由がある場合には提出を命じることができないとするとともに、正当事由の有無については、裁判所がインカメラ手続きで判断すること、場合によっては当事者、代理人等に開示することができることを規定しています。併せて、訴訟追行以外の目的での使用や、特定の訴訟関係者以外への開示を禁じることができるよう、秘密保持命令の規定を設けています。これらについて、改正法の公布以降、政令や規則の制定はありません。
8. 改正法におけるその他の改正事項(すでに施行されている事項)
改正法は、これまで述べてきた2010年1月1日施行の改正項目に加え、主に次のような種々の規定の整備・改正を行っていますが、それらは2009年7月10日よりすでに施行されています。
- 外国競争当局との情報交換について明文規定の新設
- 利害関係人による審判の事件記録の閲覧・謄写の規定の整備
- 損害賠償請求訴訟における裁判所から公取委に対する求意見を義務的なものから任意のものに変更
- 事業者団体届出制度の廃止
9. 審判制度の廃止
報道によれば、審判制度を廃止する独禁法改正法案が、2010年の通常国会に提出される見込みとのことです。審判制度については、これまでにも長期間に渡り様々な議論がなされ、改正法の附則において平成21年度中の全面的な見直しが規定されているところです[20]。この法改正が実現すると、更に独禁法の実務が大きく変わることが見込まれます。
10. おわりに
改正法は、現行法を多方面にわたって変更していますが、実務上重要なのは、排除型私的独占に関する課徴金の賦課、不公正な取引方法についての課徴金の賦課、企業結合の手続きに関する変更です。私的独占、不公正な取引方法及び企業結合のいずれも通常のビジネスの過程で多く直面する問題ですので、改正法及び下位法令、ガイドラインの十分な検討が望まれます。
[1] 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成21年政令252号)。改正の経緯、内容の詳細については、「平成21年独占禁止法改正法の成立」及びそこに引用されるニュースレターをご参照ください。
[2] 排除型私的独占ガイドラインの原案については、「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針(原案)の公表」をご参照ください。
[3] 独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針(平成17年10月7日公正取引委員会)。
[4] これは、現行法下での一般指定6項の前段部分のみを取り出すものです。また、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあることが要件となりますが、この要件は現行法下でも前段後段を問わず要求されています。
[5] 今般公表された不当廉売ガイドラインは、旧ガイドラインの「改定」の体裁をとっていません。これは、おそらく不当廉売が一部法律で規定される事項になったことによるものと思われます。また、公取委は、同時に酒類、ガソリン等、家庭用電気製品について、それぞれ不当廉売、差別対価等への対応についての方針を公表しています。いずれも対応する旧方針がありますが、不当廉売ガイドラインと同様に新しい対応方針を定める形式を取っています。
[6] 平成21年公正取引委員会告示 第18号。
[7] 昭和57年公正取引委員会告示 第15号。
[8] 現行12項の再販売価格の拘束が告示から削除されたことに伴い、現行13項(拘束条件付取引)以降の項番号が変更されます。
[9] 改正後の課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則(以下「改正課徴金減免規則」といいます)3条4項、6条の2。
[10] 改正課徴金減免規則6条の3。
[11] 改正後の公正取引委員会の審査に関する規則(以下「改正審査規則」といいます)第二章第四節が新設されました。
[12] 改正審査規則31条1項。
[13] 改正審査規則31条1ないし5項。
[14] 「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(いわゆる企業結合ガイドライン)も改定されましたが、変更箇所は法令の手続き規定の変更に伴う部分に限られ、実質的な審査基準に変更はありません。
[15] 改正法附則10条。
[16] 2010年2月3日に実行する株式取得取引の届出に期間短縮を要することについての疑問点については「平成21年改正独占禁止法における企業結合規制」の注3をご参照ください。
[17] 詳細は、「平成21年改正独占禁止法における企業結合規制」の末尾の「会社分割の届出基準」をご参照下さい。
[18] 平成21年改正後の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則(以下「改正届出規則」といいます)2条1項、2条の2第1項。
[19] そのまま転売(「商品の性質又は形状を変更しないで」転売)、「把握している」といった不明確な基準についての運用はかなりの困難を伴うと予想されます。
[20] 改正法附則20条1



