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2010. 02.23
株券等の公開買付けに関するQ&Aの追加案について
執筆者
弁護士 吉村 龍吾 / 弁護士 山崎 敬子 / 弁護士 竹田 絵美 / 弁護士 合田 久輝 / 弁護士 高 賢一
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2010年2月15日、金融庁から、「株券等の公開買付けに関するQ&A」の追加案(以下「Q&A追加案」といいます。)が公表されました[1]。これまで、金融庁は、行政対応の透明性・予測可能性の向上を一つの柱とするベター・レギュレーションの実現に向けた具体的な取組みの一つとして、「株券等の公開買付けに関するQ&A」として問11まで公表していましたが[2]、Q&A追加案では、さらに問12から問38を追加する提案がなされています。本ニューズレターでは、Q&A追加案の内容について、公開買付けの実務において重要と考えられるものを中心に解説いたします[3]。なお、本ニューズレターの日付現在、Q&A追加案はパブリックコメント手続中(2010年3月5日まで)であり、その内容については今後修正が加えられる可能性がありますので、ご留意ください。
1.公開買付けの要否
(1) 資産管理会社の株式取得(問15[4])
有価証券報告書提出会社[5]の株券等[6]の3分の1超を取得する際には原則として公開買付けが必要になります[7]が、有価証券報告書提出会社の株券等の3分の1超を保有する資産管理会社の株式を取得することについては、法文上明確な規定はなく、実務上も議論があるところでした。この点については、大要、以下のような整理が実務上の一般的な理解であったと考えられるところです[8]。
- かかる資産管理会社が当該株券等の譲渡のために設立された場合には公開買付規制の潜脱する形となることから認められない
- かかる資産管理会社が設立された意義が別途存在し、当該株券等の譲渡に先立って一定期間存続してきたような場合には公開買付規制の潜脱とならず認められる
Q&A追加案では、当該資産管理会社の状況によってはその株式の取得が「株券等の買付け等」の一形態に過ぎず、公開買付規制上認められない場合もあるとし、考慮すべき要素として、以下のような内容を挙げています。
- 当該資産管理会社が対象者の株券等以外に保有する財産の価値
- 当該資産管理会社の会社としての実態の有無
この基準によれば、上記1.の場合について認められないことは従前の実務上の一般的な理解のとおりですが、上記2.に該当する場合であっても、資産管理会社が対象者の株券等以外に見るべき資産を保有せず、実態としてもSPCに過ぎないような場合には、その株式の取得は公開買付規制に抵触し、認められないこととなりそうです。後者のケースにおいても資産管理会社の株式の取得が認められないとする取扱いは、上記のようなこれまでの一般的な理解とは異なると言えることから、注意が必要です[9]。
なお、Q&A追加案では、このような場合であっても、当該資産管理会社の株式の取得とともに対象者に対する公開買付けが行われる場合には、買付予定数の上限を定めず、資産管理会社の株式の取得価格に相当性が認められる等の一定の条件を満たす限り、公開買付規制に抵触しないとしています。
(2) 担保権の取得・実行(問18、19)
Q&A追加案では、譲渡担保権の場合を含め、担保権の取得は、原則として「株券等の買付け等」に該当せず、公開買付けを行う必要はないとしています。
一方、公開買付けの適用除外とされる担保権の実行については、文言上は「担保権の実行による特定買付け等」[10]と規定されているのみであるため、担保権者自身が株券等を取得する場合(帰属清算型)がこれに該当することは明らかであるものの、担保権の実行により担保権者以外の者が株券等を取得する場合(処分清算型)もこれに該当するか否かについては明確でなく、解釈も分かれていました。Q&A追加案では、処分清算型は「担保権の実行」に含まれないとしたことから、公開買付けの適用除外の対象とならないことが明確になりました。
(3) 組合等の解散に伴う残余財産の分配(問16)
Q&A追加案では、残余の組合財産の分配方法が当該組合員以外の業務執行組合員の裁量により決定された場合には、通常、「株券等の買付け等」には該当せず、公開買付けは不要であるとしています。
ただし、この点は個別事案ごとに判断する必要があり、実質的に当該組合員が自らの意思に基づき当該株券等を取得すると認められる場合[11]あるいは当該株券等を取得することを最終的な目的として組合に出資するような場合には、「株券等の買付け等」に該当し、公開買付規制の対象になるとしている点に留意が必要です。
なお、会社の解散に伴う残余財産の分配についても基本的に同様とされています。
2.対象者の株主たる取締役への報酬(問24)
公開買付者が、対象者の取締役でありかつ株主でもある者に対し、公開買付けの成立後における対象者の取締役としての報酬を約束することがあります。例えば、友好的な公開買付けを行うに当たり、株主でもある対象者の取締役との間で、公開買付け後も引き続き対象者の取締役として残るとともに、その際の報酬等の条件について合意するような場合がこれに当たります。この「報酬」については、それが対象者の株券等の対価と評価されると、他の一般株主以上の対価を受け取ることとなるため、公開買付価格が「均一の条件」でなければならない[12]という規制に違反し、問題となり得ます。
Q&A追加案は、かかる「報酬」が株券等の対価としての性質を有すると認められるときは、「均一の条件」に反するとし、かかる判断に当たって留意すべき事項として、以下の点を挙げています。
- 従前の報酬と新たな「報酬」との相違(相違がある場合、その合理的理由の有無)
- 当該「報酬」が支払われる時期(一時金か継続的かなど)及び条件(公開買付けの成立のみを条件とするものか一定の業績の達成を条件とするものかなど)
- 当該取締役が応募する株券等の数(当該取締役の応募の有無が公開買付けの成否に与える影響の大小)
- 当該「報酬」額の計算の基準及び根拠(応募する株券等の数を基準とするかなど)
以上の基準を見る限り、「報酬」と公開買付けの成否や当該取締役による応募との関連が強いほど「均一の条件」との関係で問題になると考えられ、公開買付規制に反し認められないこととなります。
なお、Q&A追加案は、かかる報酬の約束について、公開買付開始公告や公開買付届出書において具体的に記載する必要があるとともに、意見表明報告書の記載事項である、当該取締役に対する利益の供与[13]に該当するものではないかにも留意が必要としており、「均一の条件」に反しない報酬であっても開示が必要であることを確認しています。
また、報酬の約束の有無にかかわらず、対象者の役員の変更を予定している場合には、その内容及び必要性を開示する必要がある点にも留意が必要としています。
3.買付け資金の証明(問32)
公開買付規制上、公開買付届出書の添付書類として、「公開買付けに要する資金...の存在を示すに足る書面」を添付することが求められています[14]。かかる書面として、実務上、自己資金である場合には公開買付者の預金に係る残高証明書等が、第三者から出資あるいは融資を受ける場合にはかかる出資又は融資を予定している者が公開買付者宛に発行した出資証明書・融資証明書等が用いられてきました。
Q&A追加案では、とくに融資証明書等を用いる場合には、当該貸付けが相当程度の確度をもって実行されるものであることが裏付けられなければならないと考えられ、また、個別事案ごとに判断する必要があるものの、具体的には、以下のような場合には、相当程度の確度がある場合には該当しないと考えられるとしています。
- 貸付人の資力に疑義があることが明らかである場合
- 貸付けに係る契約の締結又は貸付けの実行のための条件が付されており、当該条件の内容が具体的かつ客観的ではない場合
- 貸付人において、貸付けに必要な内部的な手続(稟議・決裁等)が行われていない場合
従前の実務においては、貸付人(出資者の場合も同様と考えられます。)の信用力に配慮し、その親会社や金融機関に遡り、それらの資金証明を添付する事例も見られるものの、必ずしもそこまで行う必要はないという理解が一般的だったと思われますが、上記1.に照らして、今後は信用力のない資金提供者の発行する資金証明では不十分とされるリスクがあることに注意する必要があります。
また、これまでの実務では、融資証明書等において、融資に関して別途契約書を締結し、当該契約に定める前提条件が充足されることを貸付け実行のための条件とする、といった記載がなされている事例が多く見られたところですが、当該前提条件の内容は融資証明書上には記載されていませんでした。上記2.によれば、貸付契約に定める前提条件は具体的かつ客観的であることが要求されておりますが、どの程度の記載であればかかる具体性・客観性が充たされているといえるのか検討を要するところです。また、Q&A追加案では、そのような条件が付されている場合には、当該条件を公開買付届出書に具体的に記載し、又は当該条件の内容が記載された書面を添付する必要があるとしています。かかる取扱いは、これまでの実務に変更を迫ることになることから、今後の展開を注視する必要があります。
4.公開買付けの撤回
(1) 剰余金の配当(問35)
Q&A追加案では、対象者の業務執行を決定する機関による剰余金の配当を行うことについての決定が公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事情である場合、令第14条第1項第1号ツの「イからソまでに掲げる事項に準ずる事項」として、撤回事由とすることができるとしています。ただし、配当額が少額(例えば純資産の10%未満)である場合や既に公表している配当予想との差異が小さい場合にまで撤回事由とすることはできないとしています。
(2) 貸付けが受けられないこと(問36)
Q&A追加案では、公開買付けに必要な資金の貸付けが受けられないことを公開買付の撤回事由とすることはできないとしています。
(3) 大株主との合意を通じた間接的な撤回(問37)
実務上、公開買付けに先立ち、公開買付者と対象者の大株主との間で、公開買付者の行う公開買付けに大株主が応募する旨の合意をすることは比較的行われていますが、当該合意の内容として、特定の事由が生じた場合に、大株主が応募を取り止めることを義務付けることできるか、という点について、Q&A追加案は注目すべき考え方を示しています。
公開買付けに先立ち、公開買付者が対象者の大株主との間で、応募又は不応募を合意すること自体は、直ちに公開買付規制に抵触するものではないと考えられ、この点はQ&A追加案でも確認されています。
しかし、Q&A追加案では、公開買付けにおける買付予定数の下限を定める場合であって、当該大株主が応募しない限り応募株券等の数が当該下限に達せず公開買付けが不成立となる場合においては、特定の事由が生じた場合に当該大株主が応募を取り止めることを義務付けることは、実質的には当該特定の事由を公開買付けの撤回事由とすることと同視されるため、公開買付けの撤回等に関する規制の趣旨が及ぶものと考えられるとしています。
これまで、実務においては、公開買付者において買付け資金の融資が得られない場合には大株主に応募の解除又は応募しないことを求めることで、買付予定数の下限に達せず、結果として公開買付けが不成立となるような建付けとすることで、実質的に同様の結果を得ることが検討されてきていましたが、上記の見解に拠る限り、かかる手法は採り得ないこととなります。
5.MBOの場合
いわゆるマネジメント・バイアウト(MBO)のために行われる公開買付けにおいては、対象者の取締役が同時に公開買付者でもあり、構造的に利益相反の問題を抱えていることから、価格の公正性が問題となり得ます。法は、買付価格の公正性を担保するための措置や利益相反を回避するための措置を講じること自体を求めてはいませんが、講じた場合にはその具体的内容を公開買付届出書や意見表明報告書に記載することとしています[15]。
Q&A追加案では、かかる措置について記載する場合、買付価格の公正性に影響を及ぼし得る事情や利益相反を生じさせ得る事情があるにもかかわらず、かかる措置のみを記載し、当該事情を記載しない場合、記載すべき重要な事項の記載が欠けていると認められる場合もあると考えられるものとし、かかる事情の例として以下のような場合を挙げています。
- 対象者において、公開買付価格の算定に関連して参照されることを前提として、当該MBOに参加する取締役の実質的な関与の下に事業計画等の作成・変更が行われている場合
- 当該MBOに参加する取締役が対象者のその他の役員及び従業員に対して有する実質的な支配力等に鑑み、当該取締役が当該MBOに係る対象者の意思決定に強い影響力を及ぼしている場合
したがって、個別の判断が必要となりますが、上記の例が限定列挙ではないと考えられることから、これらに該当する場合だけでなく、買付価格の公正性に影響を及ぼし得る事情や利益相反を生じさせ得る事情が問題となり得る場合には、買付価格の公正性の担保や利益相反の回避のための措置について記載するだけではなく、当該事情そのものについての記載の要否やその内容を検討することも必要となると考えられます。
以 上
[1] 金融庁のウェブサイト(http://www.fsa.go.jp/news/21/sonota/20100215-2.html)において公表されている。
[2] 「株券等の公開買付けに関するQ&A(全体版)」(http://www.fsa.go.jp/policy/m_con/20091126/02.pdf)において公表されている。
[3] 本ニューズレターは、上記の観点から、Q&A追加案のうち執筆者らが重要と考えたものを挙げたものに過ぎず、その他の論点について重要でないことを意味するものではない。
[4] Q&A追加案における問15を意味する。以下同様。
[5] 法第24条第1項に定める有価証券報告書を提出しなければならない発行者をいう。以下同じ。なお、本ニューズレターにおいて、「法」とは金融商品取引法を、「令」とは金融商品取引施行令を、「府令」とは発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令をそれぞれ意味する。
[6] 法第27条の2第1項に定める「株券等」をいう。以下同じ。
[7] 法第27条の2項第2号。
[8] 川村「M&Aとの関連における公開買付規制、大量保有報告制度等に関する実務上の疑問点」(金融法務事情1825号27頁)参照。
[9] 近時、KDDIが、上場会社であるジュピターテレコム(J-COM)株式の3分の1超を保有する持株会社の持分を取得することで、公開買付けの手続きを経ることなくJ-COMの議決権の3分の1超を間接的に取得する予定だったところ、金融庁からの指摘を受け、保有する議決権比率が最終的に31.1%となるよう出資比率を引き下げることとしたとの報道がなされている。かかる金融庁の姿勢は、Q&A追加案における考え方と共通したものとも考えられる。
[10] 令第6条の2第1項第8号。
[11] 具体例としては、1. 残余財産の分配方法(現物又は金銭)を当該組合員が自ら選択する場合や当該組合員と業務執行組合員が協議により決定する場合や 2. 近いうちに当該組合が解散し、残余の組合財産の分配として当該株券等が交付されることを知って当該組合に出資を行い、結果的に当該株券等を取得する場合が挙げられている。
[12] 法第27条の2第3項。
[13] 府令第25条第1項第5号、第四号様式記載上の注意(5)。
[14] 法第27条の3第2項、府令第13条第1項第7号。
[15] 公開買付届出書について、府令第二号様式記載上の注意(6)f及び(25)、意見表明報告書について、府令第四号様式記載上の注意(3)d。
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