home > topics > legal updates > legal updates
2010. 03.01
「株券等の大量保有報告に関するQ&A」(案)の公表について
執筆者
弁護士 吉村 龍吾 / 弁護士 竹田 絵美 / 弁護士 合田 久輝
PDF版は こちら
大量保有報告制度とは、原則として、上場会社等の株券等の保有者で、株券等保有割合が5%を超える者(大量保有者)に対し、大量保有者となった日から5営業日以内に、株券等保有割合等を記載した大量保有報告書を、またその後株券等保有割合が1%以上増減した等の変更があった場合には変更報告書を、それぞれ管轄財務局長等に提出することを要求する制度です。大量保有報告制度は、2006年に特例報告制度等の改正が行われ、2008年の改正では課徴金の対象となるなど、近年度重なる法改正が行われてきたこともあり、実務における重要性も増しています。このような背景の中、金融庁は、2010年2月23日に「株券等の大量保有報告に関するQ&A」(案)(以下「Q&A案」といいます。)を公表しました[1]。Q&A案では全部で35項目のQ&Aが公表されていますが、本ニューズレターでは、Q&A案のうち大量保有報告の実務において重要と考えられるものを中心に解説いたします[2]。なお、本ニューズレターの日付現在、Q&A案はパブリックコメント手続中(2010年3月12日まで)であり、その内容については今後修正が加えられる可能性がありますので、ご留意ください[3]。
1.議決権のない株式(問6、問7[4])
大量保有報告制度の対象となる対象有価証券には、法令上、「議決権のない株式」は含まれないとされています[5]。議決権のない株式は、会社支配権に影響を及ぼしえないので、大量保有報告制度の対象とする必要性がないからです。
Q&A案は、(1)いわゆる相互保有により議決権のない株式[6]、および(2)議決権のある株式を対価とする取得請求権または取得条項が付されている株式は、「議決権のない株式」に含まれないことを明確にしました。すなわち、上記(1)(2)の株式を取得した場合は、大量保有報告の対象となります。
2.保有者
大量保有報告書の提出義務を負うのは、株券等の「保有者」です[7]。市場の公正性・透明性を確保し投資者保護を図るという制度趣旨から、保有者に該当するかは、議決権等を通じて会社の支配権を変更したり経営に影響を及ぼしうるかという実質的な観点から判断されます。保有者に関し、Q&A案は下記の解釈を示しています。なお、いずれも個別事案ごとに具体的状況に照らして判断する必要がある点に留意が必要です。
- 投資一任契約の顧客(問8):投資一任契約の顧客が運用財産である株券等について議決権の行使に関する権限を有しない場合は、当該顧客は大量保有報告書等を提出する必要はないと考えられる。
- 担保権の設定(問10):担保権者については、通常、株券等に担保権を設定しただけでは株券等保有割合は変化せず、「保有者」には該当しないと考えられるため、大量保有報告書等を提出する必要はない。他方、担保権設定者は、既に大量保有報告書等を提出している場合は、「担保契約等重要な契約」欄に当該担保権の設定に係る契約に関する事項を記載した変更報告書を提出する必要があると考えられる[8]。
- 停止条件付売買契約(問11):株券等の売買契約(市場外・相対)の効力発生に停止条件が付されている場合には、株券等の引渡請求権が発生した時点で保有株券等の数に算入することになる。また、原則として停止条件が成就すると考えられる場合には、契約締結時点で引渡請求権が発生したと考えられる(提出のタイミングについては下記3を参照のこと)。
〔例〕売買契約に決済の前提条件(いわゆるクロージングの前提条件)が付されている場合は、通常契約締結時点で引渡請求権が発生していると認められる場合が多いと考えられる。
- エクイティ・デリバティブ(問14):株券等を原資産とし、当該株券等から生じる経済的な損益のみを一方当事者に帰属させることを内容とするデリバティブ取引のロングポジションを保有する者は、経済的な損益のみが帰属するに過ぎない場合は「保有者」に該当しないと考えられる。しかし、例えばショートポジションの保有者によるヘッジ取引(当該デリバティブ取引から生じるリスクをヘッジするために行う、当該デリバティブ取引の原資産である株券等の現物の取得)がデリバティブ取引の前提となっているような場合には、当該デリバティブ取引におけるロングポジションの保有者は、大量保有報告規制上の「保有者」に該当すると考えられる。
3.大量保有報告書等の提出のタイミング
(1) 売買契約(問16)
大量保有報告書等は、原則として、大量保有者となった日から5営業日以内に提出する必要があります[9]。
この点について、Q&A案は、売買契約において契約締結日から5営業日以内に決済(いわゆるクロージング)する場合と、6営業日目以降に決済する場合とで、大量保有報告書等の提出のタイミングや記載内容が異なるとしています。買主は、いずれの場合も契約締結日から5営業日以内に1回のみ大量保有報告書等を提出することになりますが、売主は、6営業日目以降に決済する場合には2回変更報告書を提出する必要があるとされている点に注意が必要です。
同様の考え方は、上記の売買契約に停止条件が付されている場合にもあてはまります(問11注記参照)。通常のM&A取引では、株式譲渡契約にクロージングの前提条件が付され、契約締結からクロージングまで6営業日目以上開いていますが、これまでは、契約締結のみでは法的に株券等の引渡請求権が発生していないとして、買主の報告義務は決済日に生じるという考えを前提とした取扱い等も多くなされていました。Q&A案の考え方によれば、このような場合でも契約締結日に報告義務が生じることになり、これまでの取扱いよりも早いタイミングでの報告が必要となりますので、注意が必要です。
【決済日と提出内容の関係】
| 5営業日以内に決済 | 6営業日目以降に決済 | |
| 売主 |
変更報告書 |
変更報告書(1回目) 変更報告書(2回目) |
| 買主 |
大量保有報告書等 |
大量保有報告書等 |
(2) 公開買付け(問17)
公開買付けの場合に、公開買付者がいつの時点で大量保有者となったと解するかについて、実務上は公開買付期間満了日またはその翌日が報告義務発生日になるとの解釈を前提にした取扱いがなされていました[10]。この点について、Q&A案は、公開買付期間満了日に報告義務が発生することを明確にしました。公開買付期間満了日から決済まで6営業日以上ある場合の取扱いは、上記の売買契約の買主の場合と同様に、提出事由において、株券等保有割合の増加に加え、「担保契約等重要な契約」欄に公開買付けの成立および決済開始日等を記載することになります。
応募株主等についても同様に、公開買付期間満了日に、応募株券等に係る売買契約を締結したものとして、変更報告書の提出義務を負うことになります。公開買付期間満了日から決済まで6営業日以上ある場合は、上記の売買契約の売主の場合と同様に、変更報告書を2回提出することになります。
4.共同保有者
共同して株券等の取得・譲渡や議決権の行使を他の保有者と「合意」している場合、株券等保有割合の計算にあたっては、各保有者が個別に保有する株券等だけでなく、合意している相手方が保有する株券等もカウントされます[11]。この合意している相手方である保有者を「共同保有者」といいます。共同保有者に該当するか否かの判断は、株券等保有割合の計算において重要な要素となります。
共同保有者の要件である「合意」に関し、Q&A案は、以下の通りいくつかの解釈を示しました。
- 口頭の合意も「合意」に含まれる(問20)。
- 株主が株主総会での議決権行使について話し合った場合でも、共同して議決権を行使することを合意した場合には、その時点で「合意」があったといえる(問22)。
- 共同して株主提案権を行使した場合は、「合意」があったといえる(問23)。
以 上
[1] 金融庁のウェブサイト(http://www.fsa.go.jp/news/21/sonota/20100223-7.html)において公表されている。
[2] 本ニューズレターは、上記の観点から、Q&A案のうち執筆者らが重要と考えたものを挙げたものに過ぎず、その他の論点について重要でないことを意味するものではない。
[3] なお、金融庁は、2010年2月15日に「株券等の公開買付けに関するQ&A」の追加案を公表している。この追加案もパブリックコメント手続中(2010年3月5日まで)である。追加案の詳細は、金融庁のウェブサイト(http://www.fsa.go.jp/news/21/sonota/20100215-2.html)を参照されたい。2010年2月発行の当事務所のニューズレター「株券等の公開買付けに関するQ&Aの追加案について」(http://www.mofo.jp/topics/legal-updates/legal-updates/20100223.html)も参照のこと。
[4] Q&A案における問の番号を意味する。以下同様。
[5] 法第27条の23第1項・2項、令第14条の5の2、府令第3条の2。なお、本ニューズレターにおいて、「法」とは金融商品取引法を、「令」とは金融商品取引施行令を、「府令」とは株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令をそれぞれ意味する。
[6] 会社法第308条第1項、会社法施行規則第67条参照。
[7] 法第27条の23第3項
[8] 言い換えれば、担保権設定者が、これまで大量保有報告書等を提出していない場合は、大量保有報告書を提出する必要はないと考えられる。担保権を設定しただけでは通常株券等保有割合は変化せず、また仮に株券等保有割合が変化した場合であっても担保権の設定により保有割合は減少すると考えられるからである。
[9] 法第27条の23第1項本文
[10] 藤原総一郎=森幹晴「公開買付けの手続の流れおよび開示規制〔下〕」旬刊商事法務1846号(2008)47頁、町田行人=森田多恵子「大量保有報告制度の概要と基本概念の整理〔下〕」旬刊商事法務1853号(2008)17頁参照。
[11] 法第27条の23第4項・5項
© 2010 Ito & Mitomi/Morrison & Foerster LLP All Rights Reserved



