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2011. 06.23
事前相談制度の廃止を中心とする企業結合規制の見直し
執筆者
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
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(このニュースレターがご提供する情報は一般的なもので、いかなる個別の事案に対しても適用されることを保証したり、解決を提供するものではありません。具体的な事案においては、当該事案に対する個別の法的助言なくして、ご判断をなされないようにお願い申し上げます。)
1. はじめに
2011年6月14日に、公正取引委員会(以下「公取委」といいます)は、事前相談制度の廃止を柱とする企業結合規制の見直しを発表しました。
事前相談の廃止は、以前からその要否も含めて議論を呼んでいましたが、公取委は2011年3月4日に事前相談の廃止を含む「企業結合審査の手続に関する対応方針」の原案を公表してパブリックコメントに付した後、6月14日にほぼ原案どおりの成案を公表しました。
事前相談は、これまで公取委の企業結合審査において実務上最も重要な手続きでしたが、それが廃止されることになりましたので、実務への影響も甚大です。以下では、今般の企業結合規制の見直しについて、事前相談の廃止を中心に概観します。
2. 今般の見直しの全体の整理 -- 何が変わったのか。
2011年6月14日に公表された「企業結合規制(審査手続及び審査基準)の見直しに伴う公正取引委員会規則の一部改正等について」によれば、改正の内容は次のように説明されています。
しかし、実務的な観点からすると、むしろ公表の標題のように審査手続と審査基準に分けて整理した方が理解しやすいと思われます。そして、それに、4月28日に公表され同日施行されている「国内売上高等の計算方法に係る届出規則の一部改正」も加えたものが、今般の企業結合規制の見直しの全体像ということになります。これを図示すると次のとおりです。
3. 審査手続の見直し
(1) 見直しの概要
手続の見直しで最も重要なのは言うまでもなく事前相談制度の廃止です。これにより、2011年7月1日以降は、法定の届出義務のある取引についてはすべからく法定の届出により審査することになり、事前相談は利用できなくなります。
事前相談の廃止後は、「届出前相談」というものが新たに設けられ法定の届出前に利用することが可能ですが、これは、届出書の記載方法について相談に応じるものであり[3]、「市場」の記載方法についても過去の事例に基づいて可能な限り説明は行うが、届出後に公取委の説明が修正されることがある、とされています。結局のところ法定の届出前である届出前相談においては、内容についての公取委の見解・判断は開示しないということです。
事前相談が廃止されて、企業結合審査が法定の届出のみになりますが、法定の届出手続きにおいても第1次審査(30日)と第2次審査(90日)があります。第1次審査の結果、公取委がより詳細な審査が必要と判断する場合には、当事会社に対して必要な報告、情報又は資料の提出の要請を行います(報告等要請)[4]。公取委が報告等要請を行った場合は、公取委がこれを公表し、第三者の意見を募集します。事前相談においては、当事会社が公表することを求められ、これをしない場合には第2次審査を行わないこととされていましたが、事前相談の廃止後は、公表は公取委が行います(したがって、第2次審査に進む場合には、当事会社は、原則として取引を公表するかどうかを主体的に選択することができません)。
事前相談においては一部口頭でしか行われていなかった手続も、法定の届出手続においては、その重要部分が文書で行なわれるようになります。例えば、第1次審査についてクリアランスを出す場合の「排除措置命令を行わない旨の通知」[5]、「報告等要請(報告等要請書)」[6]、報告等要請の趣旨説明[7]、第2次審査についてクリアランスを出す場合の「排除措置命令を行わない旨の通知」[8]などが文書で行われることになります(これらの文書化について届出規則が改正されました)。
その他、届出規則において当事会社の意見や資料の提出が権利として明示されました[9]。
(2) 見直しによる実務上の影響
事前相談の廃止において、既に述べたところも含め、実務上次のような点が重要なポイントと考えられます。
● 法定の届出前に「結論」が判明しない。
当然のことながら、事前相談の廃止により、法定の届出を行う前(「事前」に)企業結合取引について公取委の結論を知ることができなくなります。
● 確定契約のない相談(結論の取得)が不可能となる。
見落とされがちですが、企業結合審査が法定の届出に一本化されると、確定契約がなければ審査が開始されないことになります。事前相談においては確定契約(書)は必須ではなく、基本合意書(いわゆるMOU)や、契約内容の説明だけでも公取委は相談に応じてきました。ところが法定の届出には添付書類として契約書が要求されているため[10]、確定契約がなければ届出が行えない、つまり審査に入ることができないことになります。
● 第2次審査における公表が不可避となる。
既に述べたとおり、法定の届出手続において第2次審査に入る場合には、公取委が公表しますので、当事会社は自ら公表しないこととして事前相談は諦めるという選択肢が原則としてなくなりました。
● 当事会社の反応の不備は事前通知(排除措置命令)となる。
報告等要請書以外にも公取委から事実上各種の質問がなされることが予想されます。これに対してタイムリーに、かつ的確に回答しませんと公取委が当該取引について問題ないという心証を得られないことになります。したがって、かかるタイムリーかつ的確な回答をしないと、公取委のネガティブな判断につながる危険があり、法定の届出手続においてそれは事前通知から排除措置命令に進むことを意味します。
● 外国における届出とタイミングを統一する必要性が高まる。
これまで、外国における届出は法律上の届出、日本においては事前相談という形で各国の競争当局に並行して審査してもらい、他国の手続きにおける厳しい時間的な制約の調整弁として日本の事前相談を行うことがありました。しかし、今後は日本も法定の届出のみになりますので、当事会社にとって同時審査が望ましいと考える場合には、日本においても法定の届出を行わなければなりません。
4. 審査基準の見直し(企業結合ガイドラインの改定)
手続と同時に、内容にかかわる審査基準(企業結合ガイドライン)も改定されました。主な変更点は以下のとおりです。
● 株式保有: 企業結合審査の対象とならない場合を明確化
● 地理的市場: 国境を越えて地理的範囲が画定される場合の考え方を明確化
● 輸入圧力に関する評価方法: 現在輸入が行われているかどうかにかかわらず評価
● 隣接市場からの競争圧力: 近い将来において競合品が当該商品に対する需要を代替する蓋然性が高い場合には、当該一定の取引分野における競争を促進する要素として評価
● 当事会社グループの経営状況: 事業部門について業績不振等と考えられる場合について、継続的に大幅な損失を計上している場合を例示
一部の報道によれば、審査基準が緩和され、企業結合が認められやすくなったとされていますが、必ずしもそういえるかどうかは疑問です。今回の改定は技術的な文言の変更の類も含まれていますし、公取委は、上記のような点をこれまでも考慮してきているからです。むしろ対外的な正当化理由として小さな改定をことさら強調している感もあります。
5. 国内売上高等の計算方法の改定
これは、財務諸表規則の改定に伴い、企業結合の届出の要否を判断するための国内売上高として、財務諸表におけるセグメント情報(連結本邦売上高)を用いることができるとしたものです。パブリックコメントに付したものの、特にコメントは出されず、4月28日に即日施行されています。
6. 施行時期
最後に述べた国内売上高等の計算方法の改定(4月28日施行)を除き、施行日は2011年7月1日です。
7. おわりに
今般の企業結合規制の見直しの柱である事前相談の廃止により、企業結合審査はほぼすべて法定の手続に基づいて行うことになります。ところが、事前相談における柔軟性は(一部で批判があるものの)関係者の間では比較的評価されていたところでもあり、事前相談の廃止後も、例えば法定の届出を行う前に公取委と相当程度協議を行うことが実務的に慣習化される可能性もあります[11]。企業結合審査が法定の届出に一本化されても、実務は法定されていない部分の運用により大きく左右されることに鑑みると、とりわけ当初の運用に注目する必要がありそうです。
[1] 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」(昭和28年公正取引委員会規則第1号)。
[2] 「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(平成16年5月31日公正取引委員会)。
[3] 現在も行なわれているいわゆる「ドラフトチェック」に近いものです。
[4] 独禁法10条9項、15条3項、15条の2第4項、15条の3第3項、16条3項。
[5] 届出規則9条(今般の改定で新設)。
[6] 届出規則8条前段。
[7] 届出規則8条後段(今般の改定で新設)。
[8] 届出規則9条(今般の改定で新設)。
[9] 届出規則7条の2(今般の改定で新設)。
[10] 届出規則2条の6第2項1号、5条3項2号、5条の2第4項2号、5条の3第3項2号、6条2項2号。
[11] ただ、仮にこのような実務の運用が実際になされるのであれば、法定の届出前に相談はするが公取委の判断は開示されないという意味で、事前相談の廃止は、当事会社にとってはデメリットも大きい改正という見方もあると思います。



