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2008. 04.24
平成20年独占禁止法改正法案の国会提出(中)
執筆者
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
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前回、平成20年独占禁止法改正法案の国会提出について、総論と課徴金・排除措置命令の改正事項を説明しましたが、今回は企業結合に関する改正事項についてご紹介します。なお項目番号・脚注は前回からの通し番号です。
4. 企業結合に関する改正事項
懇談会では企業結合について議論されていませんが、今般の改正法案では、企業結合に関する事項は改正の一つの柱として大きな部分を占めています。改正事項はすべて手続きに関するもので、今後のM&A取引に大きな影響を及ぼすものです。
主な改正事項は、株式取得について事後報告制から事前届出制への変更と、企業結合全般について届出基準の見直しです。届出基準については、届出の要否の基準を資産規模ではなく売上金額とすることや、売上金額は会社ごとに単体でみるのではなく、グループ会社全体で見ることなどの変更がなされています。
(1) 株式取得についての事前届出制
現行法では、株式取得についての報告は、実行後の事後報告とされています。改正法案ではこれを事前届出にして、30日の待機期間を設けています。株式取得を事前届出制にすることについては過去から議論されており、制度改正は時間の問題といわれていました。今般他の制度についての改正を提案することから、同時にこのタイミングで行ってしまおうと判断されたものと思われます。
現行法では、株式取得及び所有の双方(以下両者を合わせて「保有」といいます)について、特定の議決権保有比率を超える場合には事後報告が必要とされています[6]。改正法案は、これを株式の「取得」に限定し、かつ、特定の規模を超える当事者の取引については、株式取得の実行「前に」公取委への届出を義務付け、届出の受理の日から30日間は株式の取得を実行してはならないとしています(改正法案10条2項)。各種の企業結合の取引類型の中で、合併や会社分割、事業譲受などは現行法でもすべて事前届出とされており、株式保有だけが事後報告制とされていましたが、改正法案は、株式取得についてこれを他の取引形類型に関する届出制度と揃えたことになるわけです。ただし、事前に届出を行うことが困難な場合として公取委が規則で定める場合には、事前の届出を要しません(同項ただし書き)[7]。
また、現行法では報告を要する場合の議決権保有割合の基準は10%、25%、50%(をそれぞれ超える場合)の三区分でしたが、改正法案ではこれを20%超、50%超の二区分としています(厳密にはパーセンテージは政令で規定されることになります)。
さらに、現行法上は株式保有の場合には株式保有者単独の総資産額が20億円超という、他の取引形類型にはない基準がありますが、企業結合全体について届出の要否の基準を変更することに伴ない、この株式保有特有の基準もなくなります。
事前届出自体は国際的に見ればむしろ当然のことで、この点が改正されるのは時間の問題と見られていたことから、特別な驚きはありませんが、純粋に国内で完結する株式取得の方法によるM&A取引にも待機期間が設けられることにより、時間的な計画を立てるにあたっては影響が出そうです。他方で株式取得については、現行法の下では報告書提出後公取委が排除措置を命じることのできる時期に制限はありませんでしたが、事前届出制になると、待機期間内に公取委が通知をしなければ、排除措置を命じることができなくなります。
(2) 届出基準の変更
株式所有に限らず、企業結合のすべての類型に共通の改正事項として、届出基準の変更があります。
現行法では、買収者(取得者)について資産規模ですが、被買収者(ターゲット)について日本国内の会社の場合には資産規模(事業の一部譲受などについては国内売上高)、外国会社の場合には国内売上高とされていましたが、改正法案では、そのすべてについて国内売上高を基準としました。これにより、届出基準は被買収者が国内会社であっても外国会社もすべて同一になります。
金額については、現行法では買収者が100億円(総資産合計額[8])で、被買収者が10億円(総資産額または国内売上高)とされていましたが、改正法案では買収者については国内売上高200億円超、被買収者については国内売上高20億円超とし[9]、いずれもグループ会社全体の合計額を見ることとされています[10]。
買収者、被買収者とも国内会社、外国会社とも基準が統一され、基準の明確性という点では一歩前進したといえますし、グループ会社全体を見るというのは、国際的に多くの国がとる制度と同様です。
国内売上高の定義は、現行法と異なり規則で定める事項とされています。現行法では、日本国内に何らかの法律上の存在(子会社、支店または営業所)がある場合に、その売上高を合計しており、日本の支店、営業所からの日本国外への輸出も国内売上高に含まれていました。この点は従来批判されていますので、日本国内の子会社、支店などからの日本国外への輸出は除かれる代わりに、外国から日本への輸出額は含まれてくる可能性があります。また、国際的に主流である、債権(商流)ではなく出荷(物流)で金額を判断する方法がとられる可能性もあり、その内容によって、実務的には大きな違いが生じますので、改正法が成立した場合には、規則の動向にも十分注意を払う必要があります。
(3) 「企業結合集団」・「親会社」・「子会社」という概念
前述のとおり、改正法案は、企業結合の届出の要否の基準を売上額に変更するとともに、その金額を買収者や被買収者単体の額ではなく、グループ会社全体の金額の合計額としました。改正法案では、このグループ会社のことを特に「企業結合集団」と呼んでいます。企業結合集団の定義は複雑ですが、基本的に究極の親会社の傘下に含まれる子会社はすべて含まれます。
注意を要するのは、「親会社」、「子会社」の定義は、改正法案上では「経営を支配している」会社等とされ、子会社の一例として議決権の過半数を有する株式会社が挙げられている外は、すべて規則で規定するとされていることです(改正法10条6項、7項)[11]。そのため何が親会社か、子会社かが規則が定められるまでは判明せず、「企業結合集団」に何が含まれるのかも、規則が定められるまでは確定できないことになります。親会社・子会社をこのように定義する方法は、会社法の親会社・子会社の定義の方法と同様で(会社法2条3、4号、会社法施行規則3条)、規則においても会社法と共通の内容が定められる可能性が高いと予想されますが、企業結合規制の趣旨から独禁法独自の概念が導入される可能性も残ります。
改正法案では親会社は「会社等」(組合を含みます)の経営を支配している会社と規定するとともに、「組合の親会社」「会社の子会社である組合」という文言が用いており、規則では組合を子会社に含めて規定することが予想されます。そして、組合(の組合員)が組合財産として株式発行会社の株式を取得しようとする場合には、当該「組合の親会社」が株式全部を取得するものとみなし、また「会社の子会社である組合」の組合財産に株式発行会社の株式が属する場合には、当該「組合の親会社」が、そのすべての株式を所有するものとみなして株式取得の届出の規定を適用するとしています(改正法案10条5項)。それゆえ、組合のようなしばしばファンドの組成に用いられる形態を利用する場合には、ファンドを通じて保有する会社の売上高が届出の要否の基準となる企業結合集団の国内売上高合計額に反映されてくる場合がありますし、ファンドを通じて株式を取得する場合には、ファンドの出資者に届出が必要となる場合が生じうることになります。
このように、企業結合集団という概念は、親会社、子会社という概念に依拠したものですが、その親会社、子会社の具体的な定義は規則に委任されていますので、規則を注意深く読み込む必要があります。
[6] それゆえ、株主が新たな株式を取得しなくても、当該株式の発行会社が金庫株の取得により議決権保有比率が変わる場合などには、報告書を要する場合がありました。
[7] 株式の分割・併合や取得条項付株式の取得などが念頭におかているようですが、現在のところ詳細は明らかではありません。
[8] 総資産合計額とは、買収者自身の総資産額と、日本の親会社、日本における子会社の総資産額の合計をいい、外国の親会社や日本の孫会社の総資産は含まない概念です。また、前述のとおり、株式保有の場合には株式保有者単独の総資産額が20億円超という要件もありました。
[9] 厳密には改正法案(法律)では金額の下限を設定し、実際には政令で定めることとされていますが、現行法の場合と同様、政令では下限である200億円、20億円という金額がそのまま規定されると予想されます。
[10] そのため「国内売上高合計額」という用語を用いています。
[11] このような子会社の定義は企業結合の文脈においてのみ用いられるもので、課徴金減免制度の文脈での子会社の定義とは異なっていることに注意が必要です。これに伴い独禁法全体に共通する子会社の一般的な定義(現行法2条10項)は廃止されます。
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