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2008. 05.12
平成20年独占禁止法改正法案の国会提出(下)
執筆者
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
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(このニュースレターがご提供する情報は一般的なもので、いかなる個別の事案に対しても適用されることを保証したり、解決を提供するものではありません。具体的な事案においては、当該事案に対する個別の法的助言なくして、ご判断をなされないようにお願い申し上げます。)
平成20年独占禁止法改正法案の国会提出について、前々回は課徴金・排除措置命令に関する事項について、前回は企業結合に関する事項について説明してきましたが、今回はその他の主な改正事項についてまとめてご紹介します。今回も、項目番号・脚注は前回、前々回からの通し番号です。
5. その他の改正事項
改正法案は、課徴金・排除措置命令に関する事項、企業結合に関する事項以外にも種々の規定の整備・改正と行っています。
(1) 外国競争当局との情報交換について明文規定の新設
改正法案は、公取委と外国競争当局に情報を提供するための明文規定を新たに設けています(改正法案43条の2)。提供しうる情報は、外国競争当局の職務の遂行に資すると認めるものですが、そのような情報であってもわが国の利益を侵害するおそれがある場合にはできません。
情報の提供に対し、公取委が以下の事項を確認することとされています(同条2項)13。
- 公正取引委員会が提供する情報に相当する情報を、当該外国競争当局も公正取引委員会に提供することができること
- 我が国と同じ程度の秘密の保持が担保されていること
- 当該外国競争当局において、その職務の目的以外に使用されないこと
さらに、提供される情報が、刑事手続に使用されないよう適切な措置がとられなければならないと規定されています(同条3項)。
公取委が有する情報には、公取委が独自に入手した情報の外、事業者やその従業員の任意の協力により提供された情報、公取委が強制権限を発動して取得した情報などがありますが、これらについての区別は、少なくとも改正法案の条文上はされておらず、公取委が、外国競争当局の職務の遂行に資すると認め、かつわが国の利益を侵害するおそれはないと判断した場合に、何がどこまで提供されるのかは今のところ明らかではありません。特に第三者との契約等により秘密保持義務が課される情報について公取委が提出命令や報告命令を出して取得した場合や、企業秘密にかかる情報を企業が日本の調査に限ってならば提出してもよいと考えた場合など、具体的な場面によっては、事業者の思惑と公取委の判断が一致しないことも考えられます。規則などがどの程度整備されるのかは現段階では不明ですが、ある程度の予測可能性がないと事業者としても情報提供には慎重にならざるを得ないかもしれません。
また、提供される情報が、刑事手続に使用されないよう適切な措置をとるという点については、具体的にだれが何を行うのかについては規定されていません。
(2) 利害関係人による審判の事件記録の閲覧・謄写の規定の整備
現行法70条の15には、審判手続の事件記録について利害関係人が閲覧・謄写をすることができる旨の規程がありますが、この閲覧・謄写の範囲を公取委が制限できるかどうかについては争いがあり、裁判所は現在のところこれを否定しています14。
これについて改正法案は、第三者の利益を害するおそれがあると認めるときなど、正当な理由があるときには公取委がこれを拒否できることとし、さらに謄写を認める場合でも、謄写した事件記録の使用目的を制限するなどの条件を付すことができるとしています。
裁判所が閲覧・謄写の制限を否定した理由は、現行法にそれを認める条文がないという形式的なものですので、これを立法により解決しようとするものです。事件記録の閲覧・謄写は、当事者が審判手続きの主張や証拠を提出する際の判断や、被害者が損害賠償請求を行う際の情報収集に大きな影響がありますので、注意が必要です。
(3)私訴における証拠開示手続きの新設
独禁法違反事件のうち不公正な取引方法については、独禁法に基づいて差止訴訟を行うことができますし(現行法24条、以下「24条訴訟」といいます)、他の類型の違反行為についても、独禁法以外の法律に基づいて損害賠償訴訟その他の訴訟を行うことも可能です。ところが、独禁法違反について立証するための証拠というのは、事業者の秘密に該当することも多く、公取委に所持する証拠資料について文書提出命令の申立てがなされた場合に公取委がこれを拒否する事案がありました15。
このような文書提出命令に関連して、改正法案は、24条訴訟に限り、文書提出命令ができることを特に独禁法の条文として明示的に規定し、正当事由がある場合には提出を命じることができないとするとともに、正当事由の有無については、裁判所がインカメラ手続きで判断すること、場合によっては当事者、代理人等に開示することができることを規定しています(改正法案83条の4)。
また、訴訟追行以外の目的での使用や、特定の訴訟関係者以外への開示を禁じることができるようにしています(改正法案83条の5)。
これらは特許法と類似の制度を独禁法にも導入しようとするものです。裁判所がインカメラ手続きにより文書提出義務の有無を判断することにより、証拠収集の可能性が広がり、正当性もより担保される一方で、24条訴訟に限定されていることや、24条訴訟の当事者以外の者からの公取委に対する文書提出命令の申立てと、公務員の職務上の秘密に関する文書についての提出を拒否できる場合との関係などは明確ではないことなど、利用できる範囲も限定的である可能性もあります。
(4) 事業者団体届出制度の廃止
現行法上、事業者団体を設立する場合には、原則として成立の日から30日以内に公取委に届出をしなければならず(現行法8条2項)、また届出事項に変更が生じた場合には、その都度定められた期間内に届出をしなければなりません(同条3項)。
改正法案はこれらの届出の規定をすべて削除しており、改正法が成立すると、事業者団体の成立、変更に関する届出は不要になります。
事業者団体は、同業者が接触する機会を提供しますので、公取委のみならず海外競争当局からもカルテルと温床になりやすいものと見られています。だからといってその成立や変更の都度公取委に情報提供が求められていることは煩雑であるのみならず、企業の自由な活動を抑制する面があることから、その届出が不要になることは、企業や業界団体の活動の自由度を高めるものとして評価できます。
(5) 子会社の統一的な定義の廃止
現行法2条10項は「子会社」について定義しており、この定義は独禁法の適用のいかなる場面でも変わることがありません。しかし、改正法案は、前々回、前回でそれぞれ説明したように、課徴金減免制度においてグループ会社による共同申請や企業結合の届出についてグループ会社全体の売上を基準にするなど、グループ会社の概念を持ち込んでいる一方で、そのグループ会社の重要な要素である「子会社」の定義は課徴金減免申請の文脈と、企業結合の文脈では異なるものとしています。かかる変更に伴って、改正法案は、現行法2条10項の統一的な子会社の定義規定を削除しています。また、改正法案には、現行法のように日本の会社でなければ定義上子会社たりえないというような文言もありません。
改正法案によれば、子会社の定義が独禁法が適用される場面ごと異なる可能性があることを意識するのみならず、規則まで丁寧に読み込んで子会社に該当するか否かを判断する必要があります。
6. 景表法における課徴金
現行の景品表示法(景表法)での処分としては排除命令及び都道府県知事の指示が定められているのみですが(現行景表法6条、7条)、改正法案は、景表法違反についての課徴金の制度を新たに定めています(改正景表法案6条の2)。
課徴金の額は、「当該行為をした日」から「当該行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められなくなる日までの期間」(3年が上限)の当該商品の売上の3%ですが、「当該行為をした日」から「当該行為がなくなる日」までの全期間、不当な表示であることについて善意無重過失であった場合には、公取委は課徴金の納付を命じることはできません。
納付命令の手続きについては、基本的に独禁法の課徴金納付命令についての手続きが準用されています。
「当該行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められなくなる日までの期間」と「当該行為がなくなる日」という二つの似て非なる文言は、複雑な問題を提起します。公取委はこれまで、景表法違反事件における「公正な競争を阻害するおそれ」に関し、市場の範囲を画定したり、だれが競争者であるかを認定したことはなく、この要件をほとんど空文化させています16。その解釈の当否はともかく、その立場に立つと「当該行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められなくなる日」というのは、不当表示を止めた日とほとんど同義となり、「当該行為がなくなる日」との違いが不明確となります。
また、不当な表示を止めるのは、通常は排除命令を出されたからだと思われます。「当該行為がなくなる日」が不当な表示を止めた日だとすると、不当な表示を止めて当該行為がなくなる日は(排除命令と同日に不当表示をすべて止めない限り)排除命令より後の日になります。普通に考えれば、排除命令により不当な表示であることについて悪意となると思われますが、そうだとすると排除命令の後の「当該行為がなくなる日」まで善意無重過失という場面がどれだけあるのかが疑問です。そして、この点からは、不当な表示であるかどうかが明らかでない段階で表示を止める萎縮効果さえ生じる可能性があります。
7. おわりに
これまで、課徴金・排除措置命令に関する事項、企業結合に関する事項、その他の事項と、3回に渡って改正法案を説明してきました。
不公正な取引方法についての課徴金の導入は、本来独禁法が競争を促進することを目的とし、それを制限する行為を禁止する法律であるにもかかわらず、競争への影響を見ない方向へ進むものです。企業結合や当局間の情報交換、景表法の改正も予測可能性という面では十分とはいえません。他方で今回の改正ではデュープロセスはあまり考慮されていません。それゆえ、これまでの公取委の実務の矛盾点がいろいろな場面で顕在化する可能性があり、企業の競争促進的な行為への影響も大きいと思われます。改正法案の行方のみならず、規則の制定の動向も注視して、落とし穴にはまらないように万全の備えが必要です。
13. 改正法案の文言上は、たとえば民事訴訟法118条における外国判決に関する規定とは異なり、実際にそのような制度的担保があるかどうかという点よりも、それを公取委が情報提供時に確認することに主眼が置かれています。
14. 事件記録の閲覧・謄写をめぐる判例・学説の動向、問題点の整理については、拙稿「審判手続きについての事件記録の閲覧謄写請求制度の在り方」ジュリスト1342号94頁をご参照ください。
15. 五洋建設事件。この事件は五洋建設の株主が同社の取締役を被告とする株主代表訴訟において、公取委が所持する文書の提出を命じるよう求めたものです。詳細にについては「公取委が保有する事件記録の開示を命じる2つの判例」をご参照ください。
16. かかる解釈は、公取委自身が行った過去の審決自体と整合しないという不合理な実態があります。
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