home > topics > legal updates > legal updates
2008. 08.08
国務院の事業者結合の届出基準に関する規定の制定
執筆者
弁護士 久田 眞吾 / 弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
PDF版はこちら
(本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。)
1. はじめに
2008年8月3日に中国で「国務院の事業者結合届出基準に関する規定」(以下「届出基準規定」といいます)が公布され、即日施行されました。
8月1日から中国独占禁止法(以下「中国独禁法」といいます)が施行されていますが1、同法の第4章は事業者結合(経営者集中)について規定しており、特に21条は「事業者結合が国務院の規定する届出基準を満たす場合には、事業者は事前に国務院独占禁止執行機構に届け出なければならず、届出を行っていない場合には、結合を実施してはならない」と規定しています。今般公布された届出基準規定は、この中国独禁法21条の「国務院の規定する届出基準」を定めるものです2。
2. 届出を要する取引
届出基準規定では、以下の取引を事業者結合と定義していますが、これは、中国独禁法20条の定義と同一です。
(1) 事業者の合併
(2) 事業者が持分又は資産取得の方法により他の事業者に対する支配権を取得すること
(3) 事業者が契約等の方法により他の事業者に対する支配権を取得し、又は他の事業者に決定的な影響を与えることが可能となること
具体的には上記各取引が、以下の基準に該当する場合には届出が必要です。
(1) 当事者の全世界の売上高の合計が100億人民元超のケース
(i) 結合に参加するすべての事業者の前会計年度の世界売上高の合 計が100億人民元を超え、かつ、
(ii) そのうち少なくとも2事業者の前会計年度の中国国内における売上高がいずれも4億人民元を超える場合
(2) 当事者の中国国内の売上高の合計が20億人民元超のケース
(i) 結合に参加するすべての事業者の前会計年度の中国国内におけ
る売上高の合計が20億人民元を超え、かつ、
(ii) そのうち少なくとも2事業者の前会計年度の中国国内における売上高がいずれも4億人民元を超える場合
2008年3月27日付けで公表されていた意見募集稿では、当事者の全世界の売上高の合計が90億人民元超とされていましたが、これが100億人民元超とされ、また、当事者の中国国内の売上高の合計が17億人民元超とされていたのが、20億人民元超とされて、比較的切りのいい数字にされるとともに、各当事者の中国国内の売上高基準(各ケースの(ii)の基準)が意見募集稿では3億人民元超であったのが、4億人民元超とされました。
また、意見募集稿には設けられていた中国国内における関連市場における市場占有率の合計が25%超という基準は採用されませんでした。国際的には市場占有率により届出の要否を決定すること(以下「マーケット・シェア基準」といいます)の適否は常に議論の対象になっており、採用している国と採用していない国がありますが、中国でもこれまでの外資企業の企業結合に適用されていた「外国投資者による国内企業の買収に関する規定」(以下「外資の買収に関する規定」といいます)においては、マーケット・シェア基準が存在しました。しかし、新しく施行された中国独禁法における届出基準規定の下ではマーケット・シェア基準はなくなりました。さらに、資産規模による基準やグループ企業の数による基準もなくなりましたので、今後は売上高のみを見ればよいことになります3。
3. 届出基準規定の他の規定
意見募集稿では、届出基準規定で最終的に規定された金額的な届出基準の他に、届出義務者、言語、秘密保持等に関する条項も設けられていましたが、届出基準規定では規定されませんでした。
他方、「売上高の計算については、銀行、保険、証券、先物等の特殊業種や事業分野の実際の状況を考慮しなければならず、具体的な規則は国務院商務主管部門が国務院の関連部門と共同で制定する。」とされ、意見募集稿より若干詳細な委任規定が設けられました4。これに基づいて、実際の売上高の計算方法に関して更に規定が制定されます。
また、届出は「国務院商務主管部門」に対して行うと規定されています。中国独禁法は、独禁法当局として、「独占禁止委員会」を設立して競争政策の企画立案を行わせるとともに(中国独禁法9条)、実際の法執行は「独占禁止執行機構」が行うことを予定しています(同法10条)。それゆえ、法律の文言と届出基準規定の文言が完全には一致しておらず、若干違和感もありますが、少なくとも事業者結合の審査に関するかぎり、実務上は届出書はこれまでどおり商務部(MOFCOM)に提出し、審査も商務部が行うことになります5。
届出基準規定は、さらに、届出基準に達しない取引であっても、競争を排除、制限する効果を有するおそれがある場合には、国務院商務主管部門(具体的には商務部)が調査を行うと規定しています。これは企業結合に関する手続問題と実質的な違法性の問題が別であることを規定したもので、当然のことと考えられます。
4. 届出基準規定によっても未確定の問題
未確定の重要な問題として、売上高の算出の当事者、届出の提出期限や待機期間の問題があります。
提出基準規定の規定する売上高に達するかどうかを、結合の当事者たる企業の単体の売上高で判断するのか、グループ全体の連結の売上高で判断するのか、という点は、提出基準規定では明示されていません。売上高の計算方法についての細則は国務院の商務主管部門が国務院の関連部門と共同で更に定めることになりますが、当面はどの範囲の企業の売上を含めるのかについての基準は明らかではありません。
届出基準規定は届出の時期について規定していませんし、中国独禁法にもこの点についての規定はありません。これまでの外資の買収に関する規定に基づく届出については、商務部条約法律司の届出に関するガイドラインが存在し、届出の時期については取引の対外公表前又は本国における届出と同時と規定していました。このガイドラインは現在も廃止されたわけではないので、建前上は、このガイドラインの届出の時期についての規定が現在も効力を有していることになります。しかしながら、国際的には、企業結合審査について待機期間を設ける場合には、届出の提出期限を設けないことが推奨されていますので、今後届出の時期についてのガイドラインの規定は変更される可能性もあります。また、そもそも中国独禁法における事業者結合の届出全般について、全く新しいガイドラインが作成される可能性も考えられます。その場合には、届出基準規定の意見募集稿から成案を制定する過程で採用されなかった点も併せて検討されるものと予想されます。
届出基準規定は待機期間について言及していません。待機期間については、中国独禁法は単に「30日」と規定しており(25条)、これは普通に読むと30暦日を意味します。他方で外資の買収に関する規定について届出に関するガイドラインは「30営業日」と規定しており、この規定が廃止されたわけではありません。しかしながら、待機期間については法律が30暦日と規定していると読むのが自然だとすれば、待機期間について30暦日という運用を行うべきとはいえますが、この点については、法律が施行されたばかりで実例がないため、当面は商務局の運用を注視しなければなりません。
これらの未確定の問題については、取引にしばしば決定的な影響を及ぼしますので、今後の細則制定の経過に留意するとともに、必要に応じて商務局に確認していくべきだと思われます。
- 中国独占禁止法については、「中国独占禁止法の成立」をご参照ください。
- 日本法では政令に相当します。
- ただし、何をもって中国国内の売上高とするかについては、明確な規定がないので、今後も注意が必要です。
- 国務院商務主管部門が国務院の関連部門と共同で定める規則は、日本においては省令に相当するものです。
- 独占禁止執行機構をはじめ、事業者結合以外の中国独禁法の執行を行う当局がどのようになるのかについては様々な情報が錯綜していますが、商務部、国家発展改革委員会(NRDC)及び国家工商行政管理総局(SAIC)が分担または共同して行うこととなるようです。
© 2008 Ito & Mitomi/Morrison & Foerster LLP All Rights Reserved



