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2007. 01.15
金融商品取引法における内部統制報告制度
今回は、金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)において導入される内部統制報告制度について、その概要及び近時の動向を解説します。
1.財務報告に係る内部統制報告制度
(1) 制度の概要
金商法の内部統制報告制度は、上場会社等1 に対し、企業の財務報告に係る内部統制が有効に機能しているかどうかを評価した報告書を有価証券報告書と併せて提出させ、また当該評価が適切であるか否かについて外部の公認会計士・監査法人による監査を求めるものです(金商法第24条の4の4、第193条の2第2項)。同規定は、平成20(2008)年4月1日以降に開始する事業年度より適用されます2 。
内部統制報告制度は、エンロンやワールドコム等による企業不祥事を受けて2002年に米国で制定されたサーベインズ・オクスリー法(以下「SOX法」といいます。)第404条に倣って導入されました。同制度は、法文上は上場会社等に内部統制の有効性に係る評価報告・監査を求めていますが、実質的には、上場会社等に内部統制を有効に機能させるための社内体制整備を促しているといえます。
(2) 内部統制報告の基準
財務報告に係る経営者による内部統制報告書の作成基準及び監査基準は、企業会計審議会内部統制部会において作成が進められています。平成17年12月8日、同部会より「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」(以下「評価・監査基準案」といいます。)がまとめられ、平成18年11月21日には、同基準の適用に関する具体的な指針を定める「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」案(以下「実施基準案」といいます。)が公表されています。
2.財務報告に係る内部統制評価報告の手順
(1) 金商法が対象とする内部統制 - 財務報告の信頼性
評価・監査基準案によれば、一般に内部統制とは、①業務の有効性及び効率性、②財務報告の信頼性、③事業等に関わる法令等の遵守及び④資産の保全の4つの目的の達成のために、企業内すべての者によって遂行されるプロセスを指します3 。これらの目的は相互に関連しますが、金商法の内部統制報告制度が直接の対象とするのは、このうち財務報告4 の信頼性についてです5 。
(2) 内部統制評価の流れ
経営者は、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性という観点から、必要な範囲について内部統制の有効性の評価を行います。評価に先立ち、予め財務報告に係る内部統制の整備及び運用の方針及び手続きを定め、それらの状況を記録し保存しておくことが求められています。
財務諸表が連結ベースで作成されるのに合わせ、金商法の内部統制評価報告・監査も連結ベースで行われます。評価・監査基準案及び実施基準案では、経営者が内部統制評価が必要となる範囲を決定する際には、国内の連結子会社(組合等を含む。)に限らず、持分法適用関連会社及び在外子会社等や、外部に委託した業務がある場合には当該委託業務も検討対象に含めることとしています6 。
内部統制の有効性評価に当っては、トップダウン型のリスク・アプローチに従い、まず全社的な会計方針及び財務方針、経営判断、経営レベルでの意思決定のプロセス等の「全社的な内部統制」の評価を行った上で、当該評価結果を踏まえた上で財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす統制上の要点に係る「業務プロセスに係る内部統制」の評価を行います。
評価の結果、統制上の要点等に係る不備が発見された場合、当該不備が、財務報告に金額的又は質的7 に重要な影響を及ぼす可能性が高いものであるか否かを判断します。かかる可能性が高いと判断される場合は、内部統制に「重要な欠陥」があるとされることとなります。
評価過程で発見された財務報告に係る内部統制の不備及び重要な欠陥については、適時に認識し、適切に対応しなければなりません。なお、内部統制評価は、期末日を評価時点として行われることから、重要な欠陥が発見されても、それが期末日までに是正されれば、財務報告に係る内部統制は有効であると認めることができます。なお、内部統制の有効性の評価手続及び評価結果、並びに発見した不備及びその是正措置についても、記録の作成・保存が求められます。
(3) 内部統制報告書
経営者は、上記の内部統制評価の結果を踏まえ、内部統制報告書を作成し、評価結果を表明します。内部統制報告書の記載内容は今後内閣府令で定められる予定ですが、具体的には①整備及び運用に関する事項、②評価の範囲、評価時点及び評価手続、③評価結果、④付記事項等が記載項目とされる予定です。金商法の規定に基づき、内部統制報告書は有価証券報告書と共に提出され、開示されます。
3.金商法における内部統制報告制度の特色
(1) 効率性の重視
SOX法第404条については、施行後2年間における運用状況に照らし、同条の遵守がもたらす利益がコストに見合っていないのでないか8 という疑問が投げかけられてきました。特に、中小の上場会社に対する負担が大きいことから9 、企業の新規株式公開の妨げになっているという指摘もありました。一般に、SOX法第404条の趣旨及び目的については意義が認められているものの、運用レベルでの基準が曖昧であったことが企業及び監査人の過剰反応を引き起こし、コスト増大を招いたという分析がなされています10 。
金商法における内部統制報告制度の設計に当たっては、当初から、米国における状況を参考として、効率的な運用を図ることに注意が向けられてきました。例えば、重要な虚偽表示のリスクに着眼したトップダウン型のリスクアプローチを採用することを明示した点、内部統制の不備を「重要な欠陥」と「不備」の2つに区分し簡素化した点11 、監査人の役割を経営者による内部統制評価の適切性を確認するものと位置付けた点12 、内部統制監査と財務諸表監査は同一の監査人が実施することとした点等が挙げられます。
さらに、実施基準案においても、実務の場面において具体的指針となり得る判断基準を提供することが目指されています。例えば、あくまで例示ではありますが、「重要な欠陥」に関する金額的な重要性の基準設定例として連結税引前利益の概ね5%という具体的数値や、また決算・財務報告以外の業務プロセスについて評価対象となる事業拠点の範囲を決定する際、売上高等の金額の高い拠点から合算し連結ベースでの売上高等の3分の2程度に達している事業拠点を評価対象とするといった具体的範囲が示されている点は注目に値します。
なお、金商法の内部統制報告制度については、現状、中小の上場会社等について適用時期を延期することは予定されていないようです。この点からも、今後さらに合理的かつ具体的な運用基準が策定されることが望まれます。
(2) 対応上の課題
実施基準において制度運用上の合理化が図られているとはいえ、財務報告に係る内部統制の整備、特に社内業務の文書化作業等には、多大な時間と費用を要すると考えられます。3月決算の会社であれば、平成21年3月末日までには内部統制整備及び評価を終え、問題があればこれを是正する必要がありますので、なるべく早い時期に検討を開始するのが望ましいと思われます。
4.内部統制報告制度に係る法的責任等
(1) 金商法上の民事責任・刑事罰
内部統制報告書に虚偽表示があった場合には、金商法上の民事責任が生じ得ます(金商法第24条の4の6、第22条)。不提出又は虚偽表示に係る刑事罰については、個人には5年以下の懲役又は500万円未満の罰金、法人には5億円以下の罰金(同法197条の2第5号、第6号、第207条第1項)が定められています。
なお、内部統制が不十分なことにより有価証券報告書の虚偽表示が生じた場合には、有価証券報告書の虚偽表示の責任も問題となります。
(2) 証券取引所による対応
東京証券取引所が公表した上場制度総合整備プログラム(平成18年6月22日)によれば、「企業の内部統制等に問題が生じた場合の対応」として、内部統制に係る監査意見において内部統制に重要な欠陥がある旨記載された場合において、翌々年になっても改善がなされず同様の意見が出された場合等には、上場廃止すること等を検討するとされています。今後、ルールの具体化については、有識者を交えた具体的な検討が予定されています。
- 上場会社及び政令で定めるものが提出義務を負うものとされている。政令では、上場会社及び店頭登録会社(優先出資証券を上場している協同組織金融機関を含む。)が提出義務者として定められる予定である(三井秀範・池田唯一監修「一問一答 金融商品取引法」(商事法務、2006))。
- 内部統制報告制度の導入と共に、金商法は、有価証券報告書等の添付書類として、同報告書等の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正であることを経営者自らが確認した旨の確認書を、同報告書と併せて提出することを上場会社等に義務付けている(金商法第24条の4の2第1項)。確認書制度も、平成20(2008)年4月1日以降に開始する事業年度から適用される。
- 評価・監査基準案によれば、内部統制は、6つの基本的要素(統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応)から構成されるものと説明されている。
- 評価・監査基準案によれば、ここにいう財務報告には、財務諸表に限らず、有価証券報告書等に記載される主要な経営指標等の推移、業績等の概要その他財務諸表に記載の金額・注記等を要約、抜粋等した情報も含まれる。
- 金商法の財務報告に係る内部統制報告制度とは別に、会社法も、取締役又は取締役会が、法令遵守、情報管理、リスク管理、効率性確保等のため内部統制システムの整備に関する事項を決定することを求めている(同法第348条第4項、第362条第5項、第416条第2項、同施行規則第98条、第100条、第112条参照)。会社法上の内部統制システムが対象とするのは会社の業務全般の適正性を確保するために必要な体制であり、金商法の内部統制報告制度の対象が財務報告の信頼性確保に限定されているのとは異なる。
- なお、ここで意味されているのは、あくまで財務報告に対する重要性が認められれば当該子会社・関連会社・委託業務等も具体的な評価対象に含める必要があるという意味であり、重要性のないものも含め、すべての子会社・関連会社・委託業務等について評価作業を行うことが要請されるわけではない。
- 実施基準案は、質的な重要性については、上場廃止基準や財務制限条項に係る記載事項等投資判断に与える影響の重要性や、関連当事者との取引や大株主の状況に関する記載事項等、財務諸表の作成に与える影響の重要性で判断するものとしている。
- 例えば、SOX法第404条施行後、企業の財務書類の訂正(restatement)の数が増えたものの、その内容の多くは、必ずしも投資家の投資判断に重要性を有するものではなかったという指摘がある。
- SOX法施行初年度において、収益に対するSOX法対応費用の割合は、時価総額7億ドル以上の会社が約0.09%であったのに対し、時価総額7億ドル未満の会社は0.46%(約5倍)であったとの調査結果がある。なお、これまで、中小の企業(non-accelarrated filer)についてはSOX法第404条の適用開始時期が延期されてきたが、平成18年12月15日、米国証券及び取引所委員会(SEC)は、かかる適用開始時期を再度延期することを決定した(なお、中小の企業に対する同条不適用の提案は採用されていない。)。
- かかる批判を受けて、平成18年12月19日、米国公開企業会計監督委員会(PCAOB)は、財務報告に係る内部統制に関する監査基準(Auditing Standard No.2)について大幅な修正案を公表した。
- 米国では不備を「重要な欠陥」、「重大な不備」及び「軽微な不備」の3つに区分している。
- 米国では、経営者による内部統制の評価に関係なく、監査人が直接内部統制を評価するダイレクトレポーティングが採用されている。
執筆者
弁護士 内田 光俊 muchida@mofo.com
本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。



