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2007. 03.01
三角合併
本年5月1日より会社法の「合併等対価の柔軟化」に関する部分が施行されます(会社法附則4条)。そこで、今回は、「合併等対価の柔軟化」1 により可能となる2 三角合併について、近時議論されている内容を解説します。
1. 概要
一般に三角合併とは、吸収合併における存続会社(a社)が消滅会社(B社)の株主に対して、存続会社自身の株式ではなく、存続会社の親会社(A社)の株式を交付する方法をいいます(下図参照)。
会社法の下では、日本の会社も三角合併を行うことが可能ですが3 、本稿では、外国会社が、日本の子会社を通じて、三角合併の手法を用いて他の日本企業を買収する場合を念頭において解説します。

2. 会社法上の問題:特殊決議の要否
吸収合併を行う場合、消滅会社においては、株主総会の特別決議4 による承認が原則として必要となりますが(会社法783条1項、309条2項12号)、消滅会社が公開会社であって、かつ対価の全部又は一部が「譲渡制限株式等」(譲渡制限株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもの)である場合には、特別決議よりも更に要件が厳格な特殊決議5 による承認が必要とされます(同法783条1項、309条3項2号)。そして、この譲渡制限株式に準ずるものとして、現行の会社法施行規則186条上、存続会社の取得条項付株式又は取得条項付新株予約権(いずれも、取得対価が存続会社の譲渡制限株式であるものに限ります。)が定められていますが、本条の規定については「施行後1年を目途として、合併等の対価に係る検討の結果に基づき、必要な見直し等の措置を講ずる」ものとされています(同法施行規則附則9条)。
現在、合併等対価の柔軟化に関する規定の施行を前にして、同法施行規則186条の見直しの必要性等に関し、自民党政務調査会法務部会の「商法に関する小委員会」において、検討が進められています。具体的には、国内の証券取引所に上場されていない外国会社の株式を新たに「譲渡制限株式等」に含めるかどうかが議論となっており、経済界の一部からは、消滅会社の株主保護等の理由から含めるべきであるという主張がなされています6 。
仮に、国内の証券取引所に上場されていない外国会社の株式が「譲渡制限株式等」に含まれるとされ、その結果、三角合併における消滅会社の株主総会において特殊決議が必要とされることになれば、三角合併が成立することは事実上極めて困難になるといわれています。もっとも、昨今の新聞報道7 等によりますと、決議要件の厳格化は見送られる方向で調整が進む見込みであるとのことです。
3. 証券取引法・金融商品取引法上の問題:開示義務
(1) 証券取引法上の問題点
現行の証券取引法上、三角合併における消滅会社の株主に対して存続会社の親会社株式を交付する行為には、有価証券の取得の申込みの勧誘が伴わないことから、当該親会社株式の交付は、「有価証券の売出し」(証券取引法2条4項)には該当せず、三角合併に際して交付される当該親会社株式については、有価証券届出書の提出その他の発行開示規制は課せられません。また、一般に会社の株主数が500名以上の場合には有価証券報告書の提出その他の継続開示規制が課されますが(同法24条1項4号、同法施行令3条の6第2項)、外国会社が発行する株式には当該規定の適用がないため、三角合併における消滅会社の株主に対し、外国会社である親会社の株式が交付されたとしても、当該親会社については有価証券報告書の提出その他の継続開示規制も課せられません。上記の点において、現行の証券取引法の開示制度は、組織再編成に関するディスクロージャーが不十分であり、投資家の保護に欠けるという指摘がなされていました。
(2) 金融商品取引法による開示義務
平成18年6月7日に成立8 した金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)では、組織再編成に関する新株発行等の開示制度が新設されました9 。
これにより、吸収合併における消滅会社の株券、新株予約権証券等の所有者の数が一定数以上である場合、会社法の規定に基づく契約書等の本店備え置きその他一定の行為が「特定組織再編成交付手続」として、「有価証券の売出し」に含まれることになります10 。かかる要件に該当する場合、三角合併において交付される有価証券の発行者である外国会社は、三角合併に先立って有価証券届出書を提出する必要があります(同法4条1項)。また、上記の発行開示義務を課された外国会社は、金商法上の継続開示義務を課せられ、有価証券報告書等を提出しなければなりません(同法24条1項3号)。
なお、外国会社による継続開示については、日本語による有価証券報告書等の提出に代えて、外国において開示が行われている有価証券報告書等に類する書類であって英語で記載されたもの(日本語による要約等の補足書類を添付することを要します。)を提出できる場合があります(同法24条8項及び9項等参照11 )。しかし、発行開示においては、継続開示と異なり、英文による開示が認められていないため、三角合併を行おうとする外国会社は、日本語による有価証券届出書を作成・提出するための準備期間を要することに注意する必要があります。
4. 税制改正の動向
(1) 現行税制上の問題点
現行税制上、合併が行われる場合には、原則として、消滅会社の株主に対する株式譲渡益課税及びみなし配当課税並びに消滅会社に対する資産の譲渡益課税が生じます。
もっとも、消滅会社の株主に交付される合併の対価が存続会社の株式のみである場合には、消滅会社の株主に対する株式譲渡益課税が繰り延べられます(法人税法61条の2第2項、租税特別措置法37条の10第3項)。また、適格合併の要件12 を満たした場合には、消滅会社の株主に対するみなし配当課税は発生せず(法人税法24条1項1号、所得税法25条1項1号)、消滅会社の資産の移転に伴う譲渡損益の計上が繰り延べられます(法人税法62条の2)。
しかし、三角合併においては、消滅会社の株主に交付される合併の対価が「存続会社の株式」ではなく、「存続会社の親会社の株式」であるため、現行税制上は株式譲渡益課税の繰り延べが認められないこととなります。また、三角合併は、現行税制上の要件の下では適格合併の要件を満たさないため、三角合併に際してみなし配当課税及び資産の譲渡益課税が生じることになります。
(2) 消滅会社の株主に対する株式譲渡益課税について
平成18年12月19日に財務省により公表された平成19年度税制改正大綱によると、平成19年5月1日以後に行われる合併等については、「被合併法人等の株主における旧株の譲渡損益の計上を繰り延べる要件のうち合併等の対価について、その範囲に、合併法人等の親法人(合併等の直前に合併法人等の発行済株式の全部を直接に保有し、かつ、当該合併等後にその発行済株式の全部を直接に継続して保有することが見込まれる法人をいう。)の株式のみが交付される場合の株式を加える。」という改正がなされることになりました13 。
したがって、上記改正により、三角合併における外国会社が存続会社の100%親会社であり、かつ消滅会社の株主に当該外国会社の株式のみが交付される場合には、消滅会社の株主に対する株式譲渡益課税が繰り延べられることになります。
(3) 消滅会社の株主に対するみなし配当課税及び消滅会社に対する資産の譲渡益課税について
(1)で述べたように、適格合併の要件を満たす場合には、消滅会社の株主に対するみなし配当課税は生じず、また消滅会社に対する資産の譲渡益課税については繰り延べが認められます。平成19年度税制改正大綱によると、適格合併の要件のうち、消滅会社の株主に存続会社の株式のみが交付されること、という要件については、上記(2)と同様に、外国会社が存続会社の100%親会社であり、かつ消滅会社の株主に当該外国会社の株式のみが交付される場合にはこれを満たすものとされることになりました。
他方、外国会社による三角合併が適格合併に該当し得るか否かについて現在問題となっているのは、適格合併の要件のうち、共同事業を営むための合併である場合に関する「合併に係る被合併法人の被合併事業と当該合併に係る合併法人の合併事業とが相互に関連するものであること」という要件についてです。
この点に関し、平成18年12月14日に自民党により公表された平成19年度税制改正大綱では、「『事業関連性』について、運用面での取扱いの明確化を図るため、その判断基準を法令上明記する方向で具体的に検討を行う。」とされています。もっとも、ここで大綱が述べているのは、合併法人と被合併法人との間において事業関連性が認められる場合について明確化を図るという意味であり、必ずしも、合併法人の親会社と被合併法人との間に事業関連性があることをもって適格合併の「事業関連性」の要件を満たすとすることまで想定していないという指摘があります。合併法人の親会社と被合併法人との間で事業関連性があれば足りるとする税法上の措置が取られない限り、外国会社が日本にペーパーカンパニーを新設して三角合併を行う場合には、適格合併の「事業関連性」の要件を満たさない可能性が高まり、このようなスキームを外国会社が利用することは難しくなると考えられます。
- 「合併等対価の柔軟化」については新会社法ニューズレター第12回(平成18年3月発行)をご参照ください。
- 三角合併は、これまでも、産業活力再生特別措置法に基づく認定を受ければ行うことが可能でしたが、会社法における合併等対価の柔軟化により、産業活力再生特別措置法上の認定を受けなくても可能となります。
- 会社法上、子会社による親会社株式の取得は原則として禁止されていますが、吸収合併の存続会社等になる際に消滅会社の株主等に対して親会社株式を交付するのに必要な限度での取得は例外的に許容されています(会社法800条1項、135条2項5号、同法施行規則23条8号)。なお、日本の子会社による外国親会社株式の取得が認められるか否かについては、日本法ではなく、外国親会社の設立準拠法により規律されると一般的に考えられています。
- 特別決議とは、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数による決議をいいます。
- 特殊決議とは、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数による決議をいいます。
- たとえば、日本経済団体連合会は、平成18年12月12日付けで「消滅会社が上場会社である場合、現金又は日本上場有価証券(あるいは日本の上場基準を満たす有価証券)以外を対価とする合併の決議要件は、たとえば特殊決議とするなど、厳格化すべきである。」という提言を公表しています。
- 平成18年12月13日付け読売新聞。
- 公布の日(平成18年6月14日)から起算して1年6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。
- この点に関しては平成18年12月発行のI&Mニューズレター「組織再編成に関する新株発行等の開示制度」をご参照ください。
- もっとも、消滅会社の株券について金商法上の開示が行われていない場合、又は消滅会社の株主に交付される外国会社の株券について金商法上の開示が既に行われている場合は、「有価証券の売出し」に該当しません(金商法4条1項2号)。
- 関連規定は、平成21年3月31日までの範囲内において政令で定める日から適用されます。
- 共同事業を営むための合併である場合、①消滅会社の株主に存続会社の株式のみが交付されること、②事業関連性があること、③事業規模が著しく異ならないこと、又は、特定役員の引継ぎ、④従業員の80%以上の引継ぎ、⑤事業の継続、⑥(消滅会社の株主数が50人未満である場合は)存続会社株式の80%以上の継続保有、が適格合併の要件です(法人税法2条12号の8、法人税法施行令4条の2第3項)。三角合併においては上記要件の中で特に①と②が問題であるとされています。詳細については本文4.(3)をご参照ください。
- なお、平成19年度税制改正に関する法案「所得税法等の一部を改正する法律案」が平成19年2月2日に閣議決定され、国会に提出されています。
執筆者
弁護士 高 賢一 kenichiko@mofo.com
本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。



