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2007. 04.02
新しい信託法(3)
平成18年12月8日に成立し、同月15日に公布された信託法(以下「新信託法」といい、従前の信託法を「旧信託法」といいます。)の改正の最後のポイントとして、多様な信託の利用形態に対応するための制度の整備という点が挙げられています。具体的には、(1)信託の併合、分割の制度の創設、(2)受益証券発行信託の整備、及び(3)限定責任信託、自己信託等の新しい類型の信託の創設が挙げられます。今回は、その中で特に流動化 • 証券化ビジネスにおいて利用が期待される信託の分割制度、限定責任信託、目的信託につき概説します。
信託の分割制度
1)意義及び趣旨
信託の分割には、「吸収信託分割」と「新規信託分割」があり、「吸収信託分割」とはある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする他の信託の信託財産として移転することをいい、「新規信託分割」とはある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする新たな信託財産として移転することと定義されています(新信託法第2条第11項)。
旧信託法においては信託の分割については規定がなく、そもそもこれを行うことが法律上可能であるのか、さらに可能であるとしてもどのような手続に基づくべきなのかが明らかではありませんでした。他方、信託の効率的な運用等の観点から実務上このような制度を認めるニーズは増大しています。また近年、不動産の流動化のストラクチャーにおいて、複数の保有不動産を1つの信託財産とする受益権を譲り受けたSPCが、その後複数の不動産のうちの一部のみを信託財産とする信託の分割を行い、一部の不動産にかかる受益権を第三者に再譲渡するニーズが顕在化しています。
このような実務上のニーズに対応し、新信託法は信託の分割の手続及び効果等につき規定を設けました。
吸収信託分割と新規信託分割の手続及び効果等はほぼ同じであるため、以下まとめて説明いたします。
2)手続
新信託法においては、信託の分割は、委託者、受託者及び受益者の合意により行うことができます(新信託法第155条第1項、第159条第1項)。例外として以下の場合にはそれぞれに記載する者のみの合意または意思表示により分割を行うことができます(同法第155条第2項、第159条第2項)。
① 信託目的に反しないことが明らかなとき:受託者及び受益者
② 信託目的に反せず、かつ受益者の利益に適合することが明らかなとき:受託者のみ
その場合、受託者は、①の場合には委託者に対し、②の場合には委託者及び受益者に対し、遅滞なく、法律に定める一定の事項につき通知しなければなりません。
以上はデフォルトルールであり、信託行為において別段の定めがある場合にはそれに従うことができます(新信託法第155条第3項、第159条第3項)。
3)債権者保護手続
債権者保護手続として異議申立手続があり、受託者は、債権者が異議を述べることができる場合には、分割に関する一定の事項を公告し、かつ債権者のうち知れているものには各別の催告をしなければなりません(新信託法第156条、第160条)。
4)分割の効果
信託の分割がなされると、分割の合意において承継信託に帰属するものとされた債務は承継信託の信託財産を引当てとすることになります(新信託法第157条、第161条)。但し、異議を述べることができる債権者に債権者異議申立手続に従った催告がなされなかった場合には、当該債権者は双方の信託の信託財産に強制執行等を行うことができます(新信託法第158条、第162条)。
旧信託法下においては債権者異議申立手続がなかったため、個別の同意をとらない限り、分割前の信託の債権者は全ての信託財産を引当てにできると考えられていましたので、上記改正は実務上大きな変更点であるといえます。
限定責任信託について
1)意義及び趣旨
限定責任信託とは、受託者が信託に関して負担する債務1 (以下「信託財産責任限定債務」という。)について信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託をいいます(新信託法第2条第12項)。原則として、信託における受託者は受託者信託事務として行った取引から生じる債務につき、信託財産のみならず固有財産によっても履行責任を負います。しかし、常に受託者の責任を固有財産にまで広げると、財産の管理運用技術は益々高度化した中で、受託者が信託財産の価格下落等により当該信託が債務超過になるリスクを意識し、受託を躊躇する事態を招きかねません。そこで、専門的な技術、能力を有する人材を受託者として幅広く活用することを可能にする観点から、受託者の履行責任の範囲を信託財産に限定する限定責任信託が創設されました。
2)流動化スキームにおける利用
従来の流動化スキームのもとでも受託者と債権者との間で責任財産限定特約が締結されるのが一般であり、かかる契約が有効に締結される限りで受託者の責任は信託財産に限定されます。もっとも、限定責任信託を用いれば、責任財産限定特約を付さなかった債務についても受託者の責任を限定できる可能性があり、信託のビークルとしての利用可能性を高めるものと考えられています。
しかし後述するとおり、同制度を利用するためには債権者保護の観点から様々な要件があり、実務上利便性があるのかにつきましては必ずしも明らかではありません。
3)限定責任信託の要件等
新信託法は受託者の責任を限定する制度を認める一方、債権者の保護の観点から次のような規律が設けています。
① 成立要件
限定責任信託は、信託行為において、すべての信託財産責任負担債務について信託財産に属する財産のみをもって受託者が履行責任を負う旨の定めをし、かつ新信託法第232条に定める事項(限定責任信託の目的、限定責任信託の名称、受託者の氏名または名称及び住所等)を登記することによって効力が生じます(新信託法第216条)。
② 名称規制、名称明示義務等
限定責任信託を用いる場合には、名称中に限定責任信託という文字を用いなければならず(新信託法第218条第1項)、また第三者を保護するため取引の相手方に限定責任信託である旨を明示しなければ、限定責任信託であることを対抗できないとされています(新信託法第219条)。
③ 会計帳簿等の作成義務、会計監査
限定責任信託の場合には、信託に関する財産状況を明らかにするため、受託者は、会計帳簿、貸借対照表、損益計算書等を必ず作成しなければならないとされています(新信託法第222条)。
④ 固有財産に対する強制執行等
前述のとおり、限定責任信託においては、信託財産責任負担債務にかかる債権の責任財産は信託財産に属する財産に限定されますが、受託者が信託事務を処理するについてした不法行為によって生じた権利にかかる債務は、信託財産に責任が限定されず、固有財産に対しても強制執行等ができるとされています(新信託法第217条第1項、第21条1項8号参照)。
⑤ 受益者に対する信託財産の給付の制限等
信託財産を確保するために、受益者に対する給付は、純資産額の範囲内において法務省令で定める方法により算定される額を超えてはならないとされています(新信託法第225条)。そして、受託者が受益者に対して信託財産にかかる給付をした場合において、直後における貸借対照表の作成基準日に欠損額が生じたときは、原則として、受託者、受益者は連帯して填補義務等を負うこととされています(新信託法第228条)。
目的信託
1)目的信託とは
受益者の定めのない信託(いわゆる目的信託)とは、信託財産の給付を受ける受益者を予定しない信託をいいます。旧信託法のもとでは、公益信託を除き、信託が有効に成立するためには信託設定時に受益者が確定しうることが必要と解されていましたが、このような目的の制限は必ずしも必要ないと考えられ、今回の改正に至りました。
目的信託は、証券化スキームの中で特別目的会社の持分を信託することにより倒産隔離を図る手段として活用が期待されています。
2)制度の概要
①信託の設定方法等
目的信託は契約または遺言により設定することができますが、自己信託による設定は認められていません(新信託法第258条)。また、受益者を置くことはできません。
②信託管理人等
遺言により目的信託を設定する場合には信託管理人を定めなければなりません(新信託法第258条)。
③信託期間
目的信託の存続期間は20年間を超えることはできません(新信託法第259条)。20年を超える場合には信託は終了しなくてはいけないため、信託期間が20年で制限されることで委託者の本来のニーズを実現できないときには目的信託は選択すべきではありません。
④委託者の権利等
目的信託には受益者が存在しないため、委託者の信託に対する監視、監督機能が強化されています。契約による設定の場合、委託者は、強制執行等に対する不服申し立ての権利、受託者の権限違反行為の取消権、受託者の利益相反行為の取消権等を有し、受託者は、受益者、信託管理人に通知すべき事項を委託者に対しても通知、報告する義務等を負うとされており、信託契約の変更によりこれを変更することはできません(新信託法第260条第1項)。
終わりに
上記のとおり、今回の信託法の改正により多様な類型の信託が認められることにより、資産流動化 • 証券化の場面においても信託銀行のビークルとしての利便性が高まることが期待されています。もっともその利用に際しては様々な新たな規制が設けられていることに十分留意し、また各専門家のアドバイスを適宜取り入れながら、実務の積み重ねを行っていくことが必要といえます。
- 新信託法においては信託財産責任負担債務と定義されている(新信託法第2条第9項、第21条参照)。
執筆者
弁護士 伊能 優子 yino@mofo.com
本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。



