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2007. 05.07
知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(原案)の公表
執筆者
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
PDF版は こちら
(本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。)
*この記事についての英語の解説-JFTC Publishes Draft Guidelines Concerning Use of Intellectual Property はこちら
1. はじめに
2007年4月27日、公正取引委員会(以下「公取委」といいます)は、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(原案)(以下、「新ガイドライン(案)」といいます)を公表し、パブリックコメントに付しました。これは、「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」(いわゆる「特許・ノウハウライセンスガイドライン」)(以下、「現行ガイドライン」といいます)を改定するもので、改定作業が始まってから長期間なかなか公表されずにいたものです。
今般公表された新ガイドライン(案)は、対象となる権利を特許・ノウハウから技術に関する知的財産権一般に広げるとともに、現行ガイドラインではあまり記述のなかったライセンスの拒絶についても言及しています。また、ライセンスに伴う個別の制限の類型について、一部解釈指針の変更を行っています。
2. 対象となる知的財産権の拡大
現行ガイドラインは、その対象となる権利を特許及びノウハウに限定していますが、新ガイドライン(案)は、特許法、実用新案法、半導体集積回路の回路配置に関する法律、種苗法、著作権法及び意匠法によって保護される技術1並びにノウハウとして保護される技術を対象としています2。
3. ライセンス拒絶について記述の拡大
現行ガイドラインは、特許又はノウハウをライセンスする際に付す条件についての公取委の独禁法の適用指針がその記述の中心でした。新ガイドライン(案)は、対象とする行為を、(1)ライセンスの拒絶(他者に技術を利用させないようにする行為)、(2)ライセンスの範囲の限定、及び(3)ライセンスに伴うライセンシーの活動の制限の3類型に分け、特に(1)のライセンスの拒絶について種々の記述をしています。例えば、多数の事業者が利用する有力な技術に関する権利について、その利用者の一部が当該権利を取得して他の事業者に対してはライセンスを拒絶したり、競争者が利用する可能性のある技術に関する権利を買い集めた上、自らは利用せず、競争者に対してもライセンスを拒絶する行為は、競争者の事業活動を排除する私的独占に該当する可能性があることを指摘しています。
現行ガイドラインにも特許等の集積行為(買い集め)について若干の記述はありましたが、このようなライセンス拒絶についての記述を増やしたことは、近年問題となっているパテント・トロールや技術標準・規格化等を特に意識したものと思われます3。
4. 競争減殺効果についての分析方法についての記述
新ガイドライン(案)は、競争減殺効果の分析方法について、その一般論を示すとともに、競争に及ぼす影響が大きい場合と競争制限効果が軽微な場合の例を挙げています。特に、技術の利用に係る一部の制限行為については4、当該技術にかかる事業者の製品市場におけるシェア(新ガイドライン(案)はこれを「製品シェア」と定義しています)の合計が20%以下である場合(事案によっては、当該技術以外に代替技術について権利を有する者が4以上存在する場合)には、原則として競争減殺効果は軽微であるとしています5。
他方で、不公正な取引方法に関しては、現行ガイドラインでは記述のあった「原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる」制限条項(黒条項)、「場合によっては不公正な取引方法に該当し、違法となる」制限条項(灰条項)、「原則として不公正な取引方法に該当しない」制限条項(白条項)の分類についての総論的な解説が、新ガイドライン(案)では削除されました。特に白条項に該当する制限について、現行ガイドラインでは、市場における競争秩序に及ぼす影響が小さいと考えられるので、原則として不公正な取引方法に該当しないとされていますが、新ガイドライン(案)では、その記述は削除され、具体的な制限の各類型(例えば、ライセンス期間に関する制限)に関する記述において、原則として不公正な取引方法に該当しないという結論のみが示されています6。
したがって、新ガイドライン(案)では、競争減殺効果が軽微であると、不公正な取引方法の観点からはどうなるのかという点が、記載されていないことになります。厳密には、現行ガイドラインの「市場における競争秩序に及ぼす影響が小さい」という表現と、新ガイドライン(案)の「競争減殺効果が軽微である」という表現が同義なのかどうかが明らかではありませんが7、少なくとも新ガイドライン(案)は、不公正な取引方法の観点からの検討においては、公正競争阻害効果(公正な競争を阻害する「おそれ」)があれば違法となり、具体的な競争減殺効果の発生は必要ないとしていますので、これを素直に読むと、競争減殺効果は軽微な場合であっても不公正な取引方法には該当することになります8。
5. 個別の制限類型についての指針の変更
新ガイドライン(案)は、現行ガイドラインでは記述されていなかった制限の類型について新たに解釈指針を示し、または現行ガイドラインで記述されていた制限の類型についての解釈指針を一部変更しています。その主なものは次のとおりです。
(1) 不争義務
現行ガイドラインでは、ライセンシーがライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務(不争義務)を課すことは、場合によって違法となる灰条項ですが、新ガイドライン(案)は、一部の権利の有効性を争ったことにより全部の権利のライセンス契約を解除する場合、契約終了後においても不争義務を課す場合などについて、公正競争阻害性を有するときは違法となる灰条項とし、それ以外は原則として適法な白条項としています。
(2) 権利消滅後の制限
現行ガイドラインは、技術に係る権利(特許権等)が消滅した後の制限(例えば当該技術を利用することの制限、ライセンス料の支払義務)は、公正競争阻害性を有するときは違法となる灰条項としながらも、特に違法となるおそれが強い類型と述べていますが、新ガイドライン(案)では、違法となるおそれが強いという指摘が削除されました。
(3) 技術への機能追加(プラットフォーム機能の濫用)
新ガイドライン(案)は、特定の技術の仕様や規格を前提として次の製品やサービスが提供される機能を、当該技術の「プラットフォーム機能」と定義し、当該プラットフォーム機能を前提に多数の応用技術が開発され、その間で競争が行われている状況(例えば携帯電話の付加機能などがこれに該当すると考えられます)において、既存の応用技術が提供する機能を当該プラットフォーム機能に取り込んだ上で新たにライセンスをする行為は、公正競争阻害性を有する場合には、公正な取引方法に該当する(灰条項)としています。これは現行ガイドラインにはない記述です。
(4) サブライセンスの制限
現行ガイドラインでは記載のないサブライセンス先を制限する行為について、新ガイドライン(案)では、原則として不公正な取引方法に該当しないこと(白条項)が明示されました。
6. 今後の動向
前述の点以外にも、新ガイドライン(案)には、不明確な点が多くありますが、今後、パブリックコメントの手続を経て、修正される可能性があります。
パブリックコメントの締め切りは、6月7日(木)の18:00です。パブリックコメントの状況にもよりますが、成案は7月ころに公表されるものと予想されます。
- 著作権はプログラムの著作権のみが対象です。
- 新ガイドライン(案)は、「技術」の利用とは「知的財産」の利用と同義であると指摘していますが、「知的財産権」という文言は用いていません。
- ライセンシーに課す制限の一つとして、仕様や規格を前提とした応用技術についての項目を設けたこともこの現われといえるでしょう。
- 当該技術を用いた製品の販売価格、販売数量、販売シェア、販売地域、販売先に係る制限、研究開発活動の制限、改良技術の譲渡又は独占的ライセンス義務「以外の」制限。
- この考え方は、自由競争基盤を侵害する制限にはあてはまりません。優越的地位の濫用は、通常自由競争基盤を侵害する類型の行為といわれており、例えばライセンスに伴う制限が、ライセンサーの優越的地位に基づいて行われる場合には、製品シェア20%以下とか、代替技術が4以上であっても当該制限の競争減殺効果が小さいとはいえないことになります。
- 一部の制限(例えば特定の商標を使用する義務や、最善実施努力義務等)については、「競争を減殺するおそれ」は小さいので、原則として不公正な取引方法に該当しないとされています。
両者が同義であれば、指針の変更ということになります。 - この意味で、製品シェアが20%以下(又は代替技術が4以上)であること(それゆえ競争減殺効果が軽微であること)は、不公正な取引方法の観点からはほとんど意味が無いことになります。共同研究開発ガイドラインの解説においても、製品シェア20%以下とか、代替技術が4以上であっても、不公正な取引方法となる場合があるとされています。
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