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2007. 05.08
三角合併(アップデート版)
執筆者
弁護士 高 賢一 kenichiko@mofo.com
PDF版は こちら
(本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。)
本年5月1日より会社法の「合併等対価の柔軟化」に関する部分が施行されました1 。そこで、今回は、「合併等対価の柔軟化」2 により可能となった3 三角合併について、近時改正された会社法施行規則等の内容を踏まえて解説します。
1. 概要
一般に三角合併とは、吸収合併における存続会社(a社)が消滅会社(B社)の株主に対して、存続会社自身の株式ではなく、存続会社の親会社(A社)の株式を交付する方法をいいます(下図参照)4 。
合併等対価の柔軟化は外国会社のみを対象にした制度ではありませんが、本稿では、外国会社が、日本の子会社を通じて、三角合併の手法を用いて他の日本企業を吸収合併する場合を念頭において解説します。

2. 株主総会における決議について
吸収合併を行う場合、消滅会社においては、原則として、株主総会の特別決議5 による承認が必要となりますが(会社法783条1項、309条2項12号)、消滅会社が公開会社であって、かつ対価の全部又は一部が譲渡制限株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもの(以下「譲渡制限株式等」といいます。)である場合には、特別決議よりも更に要件が厳格な特殊決議6 による承認が必要とされます(同法783条1項、309条3項2号)。
そして、この「譲渡制限株式等」の内容を定める会社法施行規則186条については「施行後1年を目途として、合併等の対価に係る検討の結果に基づき、必要な見直し等の措置を講ずる」ものとされていたため(同法施行規則附則9条)、合併等対価の柔軟化に関する規定の施行を前にして、経済界の一部からは、消滅会社の株主保護等の理由から、国内の証券取引所に上場されていない外国会社の株式を新たに「譲渡制限株式等」に含めるべきであるという主張がなされていました7 。
しかし、結局、三角合併における決議要件の厳格化は見送られることになり、消滅会社の合併承認決議については、通常の合併の場合と同様に、特別決議で足りることとなりました。8 9
3. 会社法施行規則の一部改正による事前開示事項の拡充について
吸収合併の各当事者は、吸収合併契約等備置開始日から効力発生日の後6箇月を経過する日までの間(消滅会社は、効力発生日までの間)、吸収合併契約の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録(以下「事前開示書類」といいます。)をその本店に備え置かなければなりません(同法782条1項1号、794条1項)。また、各当事者は、吸収合併の承認に関する議案を株主総会に提出する場合には、株主に対し、議決権の行使について参考となるべき事項を記載した書類(以下「株主総会参考書類」といいます。)を交付しなければなりません(同法301条、302条)。
この度改正された会社法施行規則10 では、合併等対価の柔軟化に関する規定の施行により、合併の対価が存続会社の親会社の株式となる場合には、消滅会社の株主を保護する観点から、それらの株主が当該吸収合併への賛否等を的確に判断することを可能とするため、消滅会社における事前開示書類及び株主総会参考書類の記載事項について以下の事項を新たに追加することとされています。
(1) 合併等対価の換価方法に関する事項として、存続会社の親会社の株式について、①取引が行なわれている市場(証券取引所等)、②媒介業者(証券会社等)、③譲渡その他の処分に制限があるときは、当該制限の内容、④市場価格等に関する事項(改正会社法施行規則182条4項2号リ、同項1号ロ及びハ、86条)。
(2) 合併等対価の発行会社に関する事項として、存続会社の親会社の最終事業年度に係る、①計算書類その他これに相当するものの内容、②事業報告に記載すべき事項(会社法施行規則118条各号及び119条各号)に相当する事項の内容の概要(改正会社法施行規則182条4項2号ヘ及びト、86条)。
(3) その他の事項として、①存続会社の親会社が会社法上の会社11 でない場合には、消滅会社の株主が有することになる権利(剰余金の配当を受ける権利や株主総会における議決権等)の内容、②存続会社の親会社が株主等に対する情報の提供に使用している言語、③吸収合併の効力発生日における存続会社の親会社の総議決権その他これに相当するものの見込み数(改正会社法施行規則182条4項2号ロ、ハ及びニ、86条)。
4. 証券取引法・金融商品取引法上の開示義務について
(1) 証券取引法上の問題点
現行の証券取引法上、三角合併における消滅会社の株主に対して存続会社の親会社株式を交付する行為には、有価証券の取得の申込みの勧誘が伴わないことから、当該親会社株式の交付は、「有価証券の売出し」(証券取引法2条4項)には該当せず、三角合併に際して交付される当該親会社株式については、有価証券届出書の提出その他の発行開示規制は課せられません。また、一般に会社の株主数が500名以上の場合には有価証券報告書の提出その他の継続開示規制が課されますが(同法24条1項4号、同法施行令3条の6第2項)、外国会社が発行する株式には当該規定の適用がないため、三角合併における消滅会社の株主に対し、外国会社である親会社の株式が交付されたとしても、当該親会社については有価証券報告書の提出その他の継続開示規制も課せられません。
上記の点において、現行の証券取引法の開示制度は、組織再編成に関するディスクロージャーが不十分であり、投資家の保護に欠けるという指摘がなされていました。
(2) 金融商品取引法による開示義務
平成18年6月7日に成立12 した金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)では、組織再編成に関する新株発行等の開示制度が新設されました13 。
これにより、吸収合併における消滅会社の株券、新株予約権証券等の所有者の数が一定数以上である場合、会社法の規定に基づく契約書等の本店備え置きその他一定の行為が「特定組織再編成交付手続」として、「有価証券の売出し」に含まれることになります14 。かかる要件に該当する場合、三角合併において交付される有価証券の発行者である外国会社は、三角合併に先立って有価証券届出書15 を提出する必要があります(同法4条1項)。また、上記の発行開示義務を課された外国会社は、金商法上の継続開示義務を課せられ、有価証券報告書等を提出しなければなりません(同法24条1項3号)。
なお、外国会社による継続開示については、日本語による有価証券報告書等の提出に代えて、外国において開示が行われている有価証券報告書等に類する書類であって英語で記載されたもの(日本語による要約等の補足書類を添付することを要します。)を提出できる場合があります(同法24条8項及び9項等参照16 )。しかし、発行開示においては、継続開示と異なり、英文による開示が認められていないため、三角合併を行おうとする外国会社は、日本語による有価証券届出書を作成・提出するための準備期間を要することに注意する必要があります。
5. 税制の改正
(1) 消滅会社の株主に対する株式譲渡益課税について
合併が行われる場合には、原則として、消滅会社の株主に対する株式譲渡益課税が生じます(法人税法61条の2第1項、租税特別措置法37条の10第1項)。ただし、例外として、平成19年度税制改正前は、消滅会社の株主に交付される合併の対価が存続会社の株式のみである場合には、消滅会社の株主に対する株式譲渡益課税が繰り延べられていました(改正前法人税法61条の2第2項、改正前租税特別措置法37条の10第3項1号)。
しかし、三角合併においては、消滅会社の株主に交付される合併の対価が「存続会社の株式」ではなく、「存続会社の親会社の株式」であるため、平成19年度税制改正前の税制上は、株式譲渡益課税の繰り延べが認められないこととなっていました。
平成19年3月23日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」により、平成19年5月1日以後に行われる合併等については、消滅会社の株主に交付される合併の対価が存続会社の株式のみである場合に加え、存続会社の100%親会社の株式のみである場合にも、消滅会社の株主に対する株式譲渡益課税が繰り延べられることになりました(法人税法61条の2第2項、租税特別措置法37条の10第3項1号)。
(2) 消滅会社の株主に対するみなし配当課税及び消滅会社に対する資産の譲渡益課税について
合併が行われる場合には、原則として、消滅会社の株主に対するみなし配当課税(法人税法24条1項1号、所得税法25条1項1号)及び消滅会社に対する資産の譲渡益課税(法人税法62条)が生じます。ただし、例外として、適格合併の要件17 を満たした場合には、消滅会社の株主に対するみなし配当課税は発生せず(法人税法24条1項1号括弧書き、所得税法25条1項1号括弧書き)、消滅会社の資産の移転に伴う譲渡損益の計上が繰り延べられます(法人税法62条の2)。
しかし、三角合併は、平成19年度税制改正前の税制上の要件の下では適格合併の要件を満たさないため、三角合併に際してみなし配当課税及び資産の譲渡益課税が生じることとなっていました。
ア 合併の対価
平成19年税制改正前は、適格合併の要件のひとつとして、「消滅会社の株主に存続会社の株式のみが交付されること」という要件があり、消滅会社の株主に存続会社の親会社の株式を交付する三角合併は、この要件を満たさず、適格合併にならないとされていました。
しかし、この要件は、「所得税法等の一部を改正する法律」により、「消滅会社の株主に存続会社の株式又は存続会社の100%親会社18 の株式のいずれか一方の株式のみが交付されること」という要件に変更にされ、三角合併の場合にも、この要件を満たしうるようになりました(法人税法2条12号の8)。
イ 事業関連性
適格合併の要件のうち、共同事業を営むための合併である場合に関する「合併に係る被合併法人の被合併事業と当該合併に係る合併法人の合併事業とが相互に関連するものであること」(事業関連性)という要件については、平成19年4月13日に制定された「法人税法施行規則の一部を改正する省令」により判定基準が明確化されました。
具体的には、まず、事業関連性の判定は、存続会社の親会社と消滅会社との間ではなく、従来どおり、存続会社と消滅会社との間において行うこととされています。
そして、事業関連性については、「事業性」と「関連性」に分けた上で、①存続会社に「事業性」が認められるためには、存続会社が合併の直前において、(i)事務所、店舗、工場等の固定施設を所有または賃借していること、(ii)従業員がいること(役員の場合は、存続会社の業務に専従するものであることが必要です。)、及び(iii)法人税法施行規則3条1項1号ハに列挙されたいずれかの行為(商品販売等、広告又は宣伝による商品販売等に関する契約の申込み又は締結の勧誘、商品販売等を行なうために必要となる資料を得るための市場調査等)をしていることが必要とされることとなりました(法人税法施行規則3条1項1号)。
また、②「関連性」があると認められるためには、合併の直前において、(i)存続会社の事業と消滅会社の事業が同種、(ii)存続会社の事業と消滅会社の事業に係る商品、資産、役務、経営資源が同一または類似、(iii)存続会社の事業と消滅会社の事業とが、合併後に消滅会社の事業に係る商品、資産、役務、経営資源を活用することが見込まれていることのいずれかの関係にあることが必要とされることとなりました19 (法人税法施行規則3条1項2号)。
したがって、外国会社が日本に特別目的会社(SPC)など事業実態のないペーパーカンパニーを新設して三角合併を行う場合には、「事業性」が認められないため、適格合併の「事業関連性」の要件を満たさず、消滅会社の株主に対するみなし配当課税及び消滅会社に対する資産の譲渡益課税が生じることとなります。
- 会社法749条1項2号等及び同法附則4条。
- 「合併等対価の柔軟化」については新会社法ニューズレター第12回(平成18年3月発行)をご参照ください。
- 三角合併は、これまでも、産業活力再生特別措置法に基づく認定を受ければ行うことが可能でしたが、会社法における合併等対価の柔軟化により、産業活力再生特別措置法上の認定を受けなくても可能となりました。
- 会社法上、子会社による親会社株式の取得は原則として禁止されていますが、吸収合併の存続会社等になる際に消滅会社の株主等に対して親会社株式を交付するのに必要な限度での取得は例外的に許容されています(会社法800条1項、135条2項5号、同法施行規則23条8号)。なお、日本の子会社による外国親会社株式の取得が認められるか否かについては、日本法ではなく、外国親会社の設立準拠法により規律されると一般的に考えられています。
- 特別決議とは、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数による決議をいいます(会社法309条2項)。
- 特殊決議とは、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数による決議をいいます(会社法309条3項)。
- たとえば、日本経済団体連合会は、平成18年12月12日付で「消滅会社が上場会社である場合、現金又は日本上場有価証券(あるいは日本の上場基準を満たす有価証券)以外を対価とする合併の決議要件は、たとえば特殊決議とするなど、厳格化すべきである。」という提言を公表しています。
- 会社法施行規則186条。
- 平成19年4月24日に株式会社東京証券取引所(以下「東証」といいます。)により「合併等対価の柔軟化に係る会社法施行に伴う上場制度の整備等について」が公表されました。これによれば、上場会社が非上場会社と合併することによって解散する場合等に、その非上場会社が発行する株券等(効力発生日等から6ヶ月以内に上場申請するものに限る。)について、株券上場廃止基準に定める流動性基準への適合状況を中心に確認し、速やかな上場を認める制度(テクニカル上場)を、三角合併の場合にも適用する等の制度整備を行なうものとされています。なお、存続会社の親会社が発行する株券等を交付する三角合併において、当該親会社が外国会社であるときは、東証が適当と認める場合に限ってテクニカル上場を適用するものとされています。そして、「東証が適当と認める場合」とは、当該外国会社の本国における諸制度の整備・運営状況等に照らして、当該外国会社の株券等の円滑な流通・決済が確保される見込みがある場合をいうとされています。
- 平成19年4月25日に「会社法施行規則の一部を改正する省令」が公布され、同年5月1日より施行されています。
- 会社法上の会社とは、日本法に準拠して設立された会社のみを指します。
- 公布の日(平成18年6月14日)から起算して1年6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。平成19年4月13日の金融庁の発表によると、本年9月を目途に施行が予定されています。
- この点に関しては平成18年12月発行のI&Mニューズレター「組織再編成に関する新株発行等の開示制度」をご参照ください。
- もっとも、消滅会社の株券について金商法上の開示が行われていない場合、又は消滅会社の株主に交付される外国会社の株券について金商法上の開示が既に行われている場合は、「有価証券の売出し」に該当しません(金商法4条1項2号)。
- 平成19年4月13日に金融庁により「企業内容等の開示に関する内閣府令案等の一部を改正する内閣府令案」が公表されました。これによれば、外国会社が特定組織再編成交付手続を行なうため、有価証券届出書を提出しようとする場合には、特定組織再編成発行手続及び特定組織再編成交付手続を除く「有価証券の募集又は売出し」の際に必要とされる記載事項に加え、①当該組織再編成の目的等、②当該組織再編成の当事会社の概要、③当該組織再編成に係る契約、④当該組織再編成に係る割当ての内容及びその算定根拠、⑤組織再編成対象会社の発行有価証券と組織再編成によって交付される有価証券との相違、⑥組織再編成対象会社の発行する証券保有者の有する権利、⑦当該組織再編成に関する手続、⑧組織再編成対象会社の情報等を記載するものとされています(改正企業内容等の開示に関する内閣府令案8条1項5号、第7号の4様式)。
- 関連規定は、平成21年3月31日までの範囲内において政令で定める日から適用されます。
- 平成19年度税制改正前は、共同事業を営むための合併である場合、①消滅会社の株主に存続会社の株式のみが交付されること、②事業関連性があること、③事業規模が著しく異ならないこと、又は、特定役員の引継ぎ、④従業員の80%以上の引継ぎ、⑤事業の継続、⑥(消滅会社の株主数が50人未満である場合は)存続会社株式の80%以上の継続保有、が適格合併の要件でした(改正前法人税法2条12号の8、改正前法人税法施行令4条の2第3項)。三角合併においては、以下で述べるとおり、上記要件の中で特に①と②が問題であるとされていました。
- 親会社は、①当該合併の直前に、存続会社の発行済株式の全部を直接に保有するとともに、②当該合併後も、その発行済株式の全部を直接に継続して保有することが見込まれる法人である必要があります(法人税法施行令4条の2第1項)。
- なお、存続会社の事業と消滅会社の事業とが、合併後に消滅会社の事業に係る商品、資産、役務、経営資源を活用して一体として営まれている場合には、「関連性」があると推定されます(法人税法施行規則3条2項)。
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