home > topics > legal updates > legal updates
2007. 05.17
著作権法の一部を改正する法律
執筆者
弁護士 山野 弥咲
PDF版は こちら
(本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。)
平成18年12月15日に著作権法の一部を改正する法律(以下「改正法」といいます。)が成立し、同月22日に法律第122号として公布されました。
改正法の柱は、①放送のIPマルチキャスト放送による同時再送信の円滑化(実演・レコード製作者の権利制限等)、②情報化等に対応した権利制限規定の追加等(機器の保守・修理における一時的複製に係る権利制限等)及び③著作権等保護の実効性の確保(輸出行為の取締り、罰則強化)の3つから成ります。改正法の施行日は、平成19年7月1日ですが、①の実演・レコード製作者の権利制限については公布の日から起算して20日を経過した日(平成19年1月11日)から施行されています。
1. 放送のIPマルチキャスト放送による同時再送信の円滑化
(1) 問題の所在
IPマルチキャスト放送1は、平成13年に制定された電気通信役務利用放送法に基づき、登録事業者が電気通信役務を利用して行う放送の一形態です2。視聴者に対して常時番組を送信するという点で有線放送(CATV等)とほぼ同様のサービスを実現するものであり、総務省の情報通信審議会第二次中間答申により、平成23年の地上テレビ放送の全面デジタル化に向け、IPマルチキャスト放送が難試聴地域における伝送路として期待され、平成18年末には放送番組の同時再送信を開始すること必要であると提言されました。
同時再送信とは、放送事業者又は電気通信役務利用放送事業者のテレビジョン放送若しくはテレビジョン多重放送又は電気通信役務利用放送を受信し、そのすべての放送番組に変更を加えないで同時にこれらを再送信することをいいます。これに対し、自主放送(事業者の自主制作番組の放送)については、放送事業者に与えらえている著作隣接権のIPマルチキャスト事業者に対する付与の可否など論ずべき点が多いこと、同時再送信の実態を見極める必要があること、自主放送の実体が未だ存在しないこと等から、本改正における見直しは先送りされました。
(2) 著作権法上の取扱い
著作権法上、IPマルチキャスト放送と有線放送とは、伝達方法において、前者は視聴者の求めに応じて番組をIP装置から送信するのに対し(上記脚注1参照)、後者は常に視聴者の受信装置まで番組が流れているという点で異なるため、区別されています。すなわち、有線放送は「有線放送」(2条1項9号の2)3、IPマルチキャスト放送は「自動公衆送信」(2条1項9号の4)4として、著作権法上は別の概念に該当します。
そして、有線放送の公共性等から、有線放送事業者には有利な取扱いが設けられており、同時再送信については、実演家やレコード製作者の許諾の取得は不要とされています(92条2項1号、97条)。他方、自動公衆送信を行う者にはこのような規定は設けられておらず、同時再送信のためにも実演家やレコード製作者の事前の許諾取得が必要であるため(92条の2第1項、96条の2)、IPマルチキャスト放送による番組送信の障害となっていました。
(3) 改正法の概要
改正法では、放送番組の同時再送信に関し有線放送と自動公衆送信(IPマルチキャスト放送)を同様に取り扱うこととし、自動公衆送信(IPマルチキャスト放送)については実演家及びレコード製作者の権利を制限し(102条3項)、他方、有線放送については実演家及びレコード製作者に対価請求権を付与しました(94条の2、95条、97条)。
【放送の同時再送信における権利関係】
(改正前)

(改正後)
自動公衆送信に関し新設された102条3項は、①著作隣接権の目的となっている実演であって放送されるものは、②専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として、③送信可能化(公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものに限る。)を行うことができる、と規定します。すなわち、IPマルチキャスト放送事業者を含む自動公衆送信事業者は、放送の同時再送信について5(①)、放送対象区域内6においては7(②)、入力型8による自動公衆送信を著作隣接権者の許諾を得ることなくできる(③)こととされました。ただし、放送事業者の許諾を得ることは必要とされています(102条3項ただし書)。
2. 権利制限の追加等
改正法により、情報化等に対応した権利制限が追加されました。主なものは以下のとおりです。
(1) 同一構内の無線LANによる送信
公衆送信(2条1項7号の2)の定義が見直され、同一構内の無線LANによる送信は、同一構内の有線LANによる送信と同様に、公衆送信権の対象から除外されました。
(2) 行政手続における複製権の制限
行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続における複製について、著作権者の許諾が不要とされました(42条2項1号)。
薬事に関する審査若しくは調査又は行政庁若しくは独立行政法人に対する薬事に関する報告に関する手続における複製も同様に許諾不要とされました(42条2項2号)。
(3) 保守、修理等のための一時的複製
携帯電話等の記録媒体を内蔵する機器(記録媒体内蔵複製機器)の保守、修理の際に、そこに記録されている著作物を他の媒体に一時的に記録し、元の記録媒体に戻すことについて、著作権者の許諾が不要とされました(47条の3第1項)。保守、修理の前に利用者においてバックアップを取っておくことは困難であるところ、著作権者の懸念であるコンテンツの流出についても、保守、修理の場面に限定し、保守、修理後は複製物を保存してはならないとの義務を置くことにより(47条の3第3項)、回避することができるからです。
なお、初期不良により機器を交換する場合にもこのような複製が可能ですが(47条の3第2項)、劣化や好み等による機器交換については本条の対象外であり、複製には権利者の許諾を得ることが必要となります。
3. 著作権保護の実効性の確保
(1) 輸出取締りの強化
著作権等の侵害とみなす行為に、侵害物品を業として輸出し、若しくは業として輸出の目的をもって所持する行為が追加されました(113条1項2号)。意匠法等の一部を改正する法律(平成18年6月7日法律第55号)により産業財産権4法について同様の改正が行われたたこと、海賊版等の国際的な取引が問題になっていることに鑑み、税関における取締りを強化したものです。これを受け、関税法においても、著作権、著作隣接権の侵害物品が輸出してはならない貨物として追加されました(関税法69条の2)。
(2) 罰則の強化
電子化により著作物が容易に複製等されるようになり、また広範囲において流通するようになったため、著作権侵害が拡大しています。意匠法等の一部を改正する法律(平成18年6月7日法律第55号)により産業財産権4法について権利侵害に対する罰則が強化され、著作権についても同程度に罰則を引き上げることとされました。著作権、出版権及び著作隣接権の侵害に関して、懲役10年以下、罰金1000万円以下に引き上げられました(119条1項)。また、法人については、(a) 著作権・出版権・著作隣接権の侵害、(b)著作権・出版権・著作隣接権の侵害物品の頒布目的の輸入、所持、業としての輸出又は輸出目的の所持、(c)プログラムの違法複製物の電子計算機における使用、並びに(d)秘密保持命令違反について、3億円以下の罰金に引き上げられました(124条1項)。
4. 今後の検討事項
平成19年1月文化審議会著作権分科会報告書等によれば、今後の課題として、本改正で見送られたIPマルチキャスト放送による自主放送に関し、IPマルチキャスト事業者にも有線放送事業者と同様に著作隣接権を与えるべきか、同様の有利な取扱いすべきかという点について、「(有線)放送」、「自動公衆送信」の定義の整理を含めた検討が行われています。
また、現行法では私的使用を目的とする複製は著作権者等の許諾を要しない(30条1項、102条1項)とされていますが、ネットワークを介した音楽・映像事業の急速な発展に伴い、私的複製に関する権利保護についての検討が進められています。平成19年1月文化審議会著作権分科会報告書によれば、立法上の検討事項として、私的録音録画補償金制度(30条2項)の範囲等の見直しや、違法なネット配信等による違法複製物の私的複製を30条から除外することが挙げられています。
その他、著作権の保護期間についても、EU等に調和させ著作者の死後50年間から70年間に延長することも検討課題として挙げられています。
以上
- 通常の1対1の送信(ユニキャスト)ではなく、1対複数の送信(マルチキャスト)であり、1回のコンテンツ送信により、ネットワーク上のIPマルチキャストルータにおいて複製されながら、複数の指定された利用者へコンテンツを配信できる。IPマルチキャスト放送の特徴は、①通常のインターネット網から独立したクローズドネットワークを用いていること、②放送センターからIP装置までは常に番組が配信されていること及び③IP装置から視聴者へは視聴者のリクエストにより番組が配信されることである。

(上図:文化庁「著作権法の一部を改正する法律の制定について」改正法Q&Aより引用) - 現在利用可能なサービスとして、ビー・ビー・ケーブル㈱(BBTV)、KDDI㈱(光プラスTV)、㈱オンラインティーヴィ(4th MEDIA)及び㈱アイキャスト(オンデマンドTV)がある。
- 有線放送とは、公衆送信(同上)のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信をいう(2条1項9号の2)。
- 自動公衆送信とは、公衆送信(公衆によって直接受信されることを目的として行う無線通信又は有線電気通信の送信をいう。2条1項7号の2)のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く)をいう(2条1項9号の4)。
- 「放送された」ではなく「放送される」と規定しているため、過去に放送されたものの実演はふくまず、放送の同時再送信のみが想定されている。
- 原則として、放送法による放送対象区域をいう。
- IPマルチキャスト放送は回線を県内等の地域局内のIP装置に限定してつなぐことにより、技術的に放送対象地域の限定が可能であるが、インターネット放送は、技術的に放送対象区域を限定することは困難であるため、現実的には著作隣接権者の権利制限の対象となるケースはほどんどないと考えられている。
- 入力型(ストリーミング放送等)のみを対象とし、蓄積型(公衆送信用記録媒体に情報を記録する等によるもの。ビデオ・オン・デマンド等)は対象とされない。
© 2007 Ito & Mitomi/Morrison & Foerster LLP All Rights Reserved



