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2007. 07.01
米国最高裁判所が、最低再販売価格の拘束についての判断基準を変更しました
スティーブン・スミス
ジェフリー・ジャエケル
ジェニー・メイヤー
(訳) 弁護士 雨宮 慶
*この記事の原文Supreme Court Overturns Long-Standing Per Se Rule Against Vertical Minimum Price-Fixingはこちらをクリック
米国最高裁判所は、再販売価格の最低額を拘束する行為について、長期にわたって維持されてきた当然違法の原則(per se rule)を変更し、より柔軟な基準である合理の原則(rule of reason)を適用すると判断しました(Leegin Creative Leather Products v. PSKS, Inc., Case No. 06-480)。ケネディ判事によって書かれた5対4の判決は、1911年にDr. Miles Medical Co. v. John D. Park & Sons Co. 事件において出された、垂直的な取引関係における最低再販売価格の合意についての判断基準である当然違法の原則を変更したのです。
Dr. Miles事件判決を変更するに当たって、最高裁は、価格に関する垂直的な合意について当然違法の原則を適用することは、反トラスト法及び経済についての現代的な分析結果と整合しないと結論付けています。最高裁が新たに適用する合理の原則の下では、垂直的な最低再販売価格の合意の適法性は、市場を動態的に分析し、競争促進的効果と競争制限的効果を比較衡量して判断されます。
Leegin判決は、競争力を強化するための効果的な流通販売政策、ライセンス政策を立案するにあたって、企業により大きな自由度を与えるものです。例えば以下の点が挙げられます。
- メーカーや、知的財産権のライセンサーが、商品販売契約やライセンス契約において、明示の最低再販売価格の拘束(再販価格維持)を行うことの自由度が高まります 。
- 商品販売契約において、コルゲート理論、最低広告価格の拘束、排他的販売区域の設定といった、連邦反トラスト法の下で求められていた、効果の比較的低い他の流通施策による必要がなくなります。
他方、Leegin判決における合理の原則によって拡大された自由度は、少なくとも短期的には、不明確な部分を伴うことになります。特に以下の点が重要です。
- 再販価格維持の合意をしようとする当事者は、州の反トラスト法及び諸外国の競争法の下でのリスクを考慮に入れる必要があります。
- さらに、連邦裁判所は、合理の原則を適用する場合においても、競争制限的な再販売価格維持行為は認めませんので、下級裁判所が競争促進的な最低再販売価格維持の合意と、競争制限的な最低再販売価格維持の合意を区別する基準を発展させていく期間は、やはりある程度の不明確さが残るといえます。
事実の概要
Leegin社の製造する「Brighton」ブランドの小売店であるPSKSは、Leegin社が小売業者と「Brighton」製品の小売価格を拘束する違法な契約を締結したことにより、シャーマン法1条に違反したと主張してLeegin社を提訴しました。陪審員はPSKS勝訴の判断をし、第5巡回区控訴裁判所も、最低再販売価格の拘束についての当然違法の原則に基づいて陪審の評決を支持しました。
判例の要旨と解説
Dr. Miles事件判決を変更する最高裁の判決は、反トラスト法の現代的な分析や経済理論の蓄積を反映し、垂直的制限についての近時の他の反トラスト法の判断とも整合しており、最低再販売価格維持行為についての21世紀の取扱いを示すものといえます。特に、本判決は、最低再販売価格維持行為がしばしば消費者にとって有益であり、当該行為に際して多くの競争促進的な目的を有している場合があることを指摘しています。
- 最低再販売価格維持行為は、同一ブランドの製品を販売する小売店との間のブランド内競争についてのインセンティブを減少させることにより、他のブランドの類似の商品との競争を促進することがある。
- 最低再販売価格維持行為は、低価格・低サービスのブランド、高価格・高サービスのブランド、その中間にあるブランド、あるいはそれ以外の価格やサービスの組み合わせになるブランドの選択を容易にさせ、消費者の選択を増加させることがある。
- 最低再販売価格維持行為は、ただ乗り(フリーライド)についてのインセンティブを減少させ、小売業者に最適なサービスと選択を提供させるために十分な利潤を保証することにより、小売サービスの提供を促進することがある。
- 最低再販売価格維持行為は、新規参入に必要な投資を誘引することにより、ブランド間競争を促進することがある。
このような最低再販売価格維持行為に伴う競争上のメリットや、合理の原則によって判断すべきという結論にもかかわらず、最高裁は、最低再販売価格維持行為が場合によっては競争制限的である点も指摘しています。合理の原則は、ある合意が違法であると判断するために市場のあらゆる要因を考慮するわけですが、最高裁は、最低再販売価格維持行為が、例えば以下のような状況においては、なお競争制限のリスクを伴うと述べています。
- 最低再販売価格維持行為は、競争関係にある小売業者またはメーカーの共謀を促進するために用いられることがある。かかる場合、最低再販売価格維持行為を、競争者が当然違法である水平的なカルテルを行うために用いるのであるから、合理の原則の下でも違法となる。
- 支配的な小売業者は、新規の低コストの流通チャネルとの競争を阻害するために最低再販売価格維持行為を用いることがありうる。支配的な小売業者が、最低再販売価格維持行為により、実際に市場においてコストを増加させたり、供給量を減少させたりすることができる程度にシェアを有している場合には、最低再販売価格維持行為は、合理の原則の下でも違法となることがある。
- 支配的なメーカーは最低再販売価格維持行為により、競争事業者たるメーカーの製品を小売業者が取り扱わないことのインセンティブとして用いることがありうる。市場の状況によっては、かかる行為は――若干説得力に欠けるとはいえ――市場における競争全体を減殺する可能性がある。
上記のように、最高裁はかかる競争上の要因を考慮して、今後は最低再販売価格維持行為について、当然違法の原則によって判断するのは適切でなく、合理の原則により判断すべきと結論付けました。この判断は、最低再販売価格維持行為を、顧客や地域の割当、排他的商品販売契約、最高再販売価格維持行為等、メーカーが流通チャネルをコントロールする他の種々の行為と同列に論じるものです。
Leegin判決は、重要ではあるものの、この分野における法適用を合理化していく過程の単なる第一歩にすぎません。最高裁は、連邦下級裁判所が、最低再販売価格維持行為に対する合理の原則の適用について、より一層明確な基準を定める推定、証明の程度といった「訴訟の構造」を精緻化させ、ガイドラインを創出していくと考えています。同時に、以下の二つの分野も、未だそのような精緻化が必要な分野として残されています。
- 州法: 連邦法に加え、各州には州独自の反トラスト法と先例があります。多くの裁判所は、州の反トラスト法の解釈を連邦裁判所に委ねていますが、その程度は州により相当異なります。Leegin判決に鑑みると、多くの州が、州法の下でも最低再販売価格維持行為を当然違法ではないと判断すると思われますが、州裁判所でそのような運用が定着するまでにはまだ時間がかかると考えられます。
- 米国以外の競争法: 最低再販売価格維持行為は、他の法域においては異なる解釈、かつしばしば重要な問題を有しています。Leegin判決がそのような他の法域における法律に長期的にはどのような影響を与えるのかという点を論じるにはまだ時期尚早といえます。したがって、多くの国で製品を販売するメーカーやライセンサーは、最低再販売価格維持行為について各法域で法適用に十分注意を払う必要があります。
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