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2007. 07.13
ブルドックソース地裁・高裁決定続報
執筆者
弁護士 穂高 弥生子
PDF版は こちら
(本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。)
6月28日、ブルドックソース株式会社の導入した買収防衛策に関し、スティールパートナーズが提起していた新株予約権の発行差止請求を却下する仮処分決定が東京地裁により下され、ついで7月9日には、東京高裁よりスティールパートナーズの抗告を棄却し地裁決定を維持する決定が下された。
以下、本件両決定にいたるまでのこれまでの判例の流れと両決定の特徴を概観してみることとする。
従来の考え方
従来、敵対的買収者に対する対抗策として新株又は新株予約権の発行による敵対的買収者の持分の希薄化が行なわれようとしている場合、これを「不公正発行」として差し止めることができるかという論点に関し裁判所がとってきた考え方は、いわゆる「主要目的ルール」である。すなわち、現経営陣の「支配権維持目的」と新株等の発行を正当化する理由-典型的には資金調達の必要性-を比較し、後者に一応の合理性があり、前者が新株等発行の「主たる目的」であるとは認められない限りは、不公正発行ではなく差し止められないとするものである。これに対し、ライブドア事件での東京高裁決定は、たとえ経営陣の支配権維持が「主たる目的」と認定できる場合でも、なお、「特段の事情」が認められる場合には、不公正発行ではないとするものであり、これを従来の主要目的ルールとは異なるものとみるか、なおその延長線上にあるいわゆる「新主要目的ルール」とみるかは別として、いささか毛色を異にしていた。やや詳しく述べると、ライブドア高裁決定は、たとえ現経営陣の支配権維持が敵対的買収者の持分を希薄化することを主たる目的とするものであっても、敵対的買収者による支配権獲得が会社に回復しがたい損害をもたらす事情があることを会社が立証すれば、「特段の事情」があるものとして「不公正発行」ではなくなるとする。そして、同決定は、そのような特段の事情が認められる具体的な場合として、買収者が①グリーンメーラーである場合、②焦土化経営を企図している場合、③敵対的LBOを企図している場合、④解体型買収を企図している場合、を挙げていた。ライブドア高裁決定が「特段の事情」が認められる場合は上記4類型に限られるとする趣旨なのかどうかは必ずしも明らかでないが、実際には、かかる4類型に該当することを会社が立証することは事実上はほぼ不可能であり、実際に導入される「事前警告型」の防衛策においても、会社が防衛策を発動できる場合は上記4類型には限らず、その他会社の企業価値が著しく減殺される場合といういわゆる包括条項が付加されているのがほとんどであった。
東京地裁決定
かかる状況下で出された地裁決定は、上記のような判断基準は取締役会がその判断で防衛策を発動する場合に妥当すべきものであって、株主総会の意思に基づき防衛策が発動される場合には妥当しないとした上で、だれが会社を支配すべきかの最終的な決定権は株主総会にあるから、株主総会が敵対的買収への防衛策を講じる必要があるかを判断すべきであり、かかる必要性の判断についてはこれが明らかに不合理であるか否かという点についてのみ司法判断を行なうとした。すなわち、株主総会の権限に基づき防衛策が発動された場合には、防衛策を発動する会社としては、敵対的買収者の属性等、その買収により企業価値が低下するのかどうかという点についての立証は不要であり、逆に、敵対的買収者の側で多数株主の判断が明らかに不合理であることの立証を行なわなければならないことになる。かかる「明らかに不合理」な場合としていかなる場合が想定されるのかについてはなお不明な点が多いといわざるを得ず、結局株主総会決議があればかなりの確率で防衛策発動の必要性が肯定されるとの結論を招来する可能性が大きいように思われる。
地裁決定は、株主の判断は、買収者と現経営陣双方の提案する事業計画の比較、従業員の意見、アナリストの評価等を踏まえて行なわれるべきであるとしている。よって、地裁決定によっても、たとえば、あらかじめ防衛策発動についてはこれを取締役会の判断に委ねるとする定款変更を行なっておき、その後は取締役会が防衛策発動の是非を判断するというような運用はできないものと思われる。また、防衛策発動が株主総会により決定されたというためには、過半数の普通決議で足りるのか、3分の2の特別決議が必要であるのかについて地裁決定は必ずしも明らかにしていない。しかし、地裁決定は敵対的買収者に対しては新株予約権の行使をさせず、会社がこれを強制的に取得して金銭を交付することができるとしている点が株主平等原則に反しないかという論点について、会社法が特別決議をもって少数株主をスクイーズアウトすることを認めていることなどを挙げ、少なくとも特別決議があり、かつ、経済的利益の面での平等が確保されている場合には株主平等原則に反しないとしている。したがって、いずれにせよ3分の2の多数決は必要と思われる。このような歯止めはあるにせよ、いままで議論が錯綜していた防衛策の有効性について、地裁決定は、防衛側にとってある種のセーフハーバーを示すものであるということは間違いない。従来、防衛策を導入したとしても実際にその発動を行なうことは、後にそれが裁判所により違法だと認定された場合、株主・敵対的買収者の双方から責任追及を受けるリスクを考えると、取締役にとってはかなり難しい判断を迫られる問題であった。地裁決定は、防衛策発動の実務に対して重大な影響を有するものと思われる。
このような地裁決定は、その結論には若干の疑義があるものの、防衛策発動が許される基準を実務に提示したという意味で意義を有するものであり、特定の買収者がグリーンメーラーであるかどうかというcontroversial な争点についての判断を避け、それ以外の論点で新株予約権発行差止を不可とする結論を導いたという点で、司法の謙抑性にも合致したオーソドックスな判断であったといえる。
東京高裁決定
これに対して、高裁決定は、正面からスティールパートナーズが濫用的買収者であるか否かの判断を行い、これを肯定した。地裁決定の判断枠組によれば裁判所として判断する必要のない事項についてまで踏み込んで判断している点で、結論は同じくするもののその判断にいたる思考過程は地裁決定のそれとは相当異なっており、また、実務に対する基準を提示するという意義は後退してしまったように思われる。
高裁決定が、スティールパートナーズを濫用的買収者であると判断するにあたり基礎とした事実は下記のとおりである。
a) ソトー、ユシロ、明星食品、サッポロといった過去の買収対象企業に対し、MBOを持ちかけたり又は公開買付けを行い、最終的に保有株式売却により多額の利益を得たことがある。
b) 本件公開買付け開始前、経営方針等についてまったく具体的な提案をすることなく突然公開買付けを開始した。
c) 公開買付届出書に、買付けの目的は証券売買による利益の獲得であり、将来的に保有株式を市場内外で処分する可能性があり、スクイーズアウト後に資産処分を見込んでいることが記載されている。
d) 質問回答書に、対象会社の経営の予定・意思がないこと、対象会社に提供すべき企業価値向上案を想定していないこと、支配権取得後の経営方針を有しないことが記載されている。
高裁決定は、これらの事実から、スティールパートナーズは「投資ファンドという組織の性格上、当然に顧客利益優先の受託責任を負い、成功報酬の動機付けに支えられ、それを最優先にして行動する法人であり」、「対象企業の経営には特に関心を示したり、関与したりすることもなく、当該会社の株式を取得後、経営陣による買取りを求める一方で突然株式の公開買付の手続に出るなど、様々な策を弄して、もっぱら短中期的に対象会社の株式を対象会社自身や第三者に転売することで売却益を得ようとし、最終的には対象会社の資産処分まで視野に入れてひたすら自らの利益を追求しようとする存在」であり濫用的買収者であると認定した。
前述のとおり、高裁決定はまず濫用的買収者か否かを判断した上で、その認定事実を株主平等原則に違反するか否か及び不公正発行に当たるか否かについての判断の前提とするという判断枠組をとっているように思われる。スティールパートナーズが濫用的買収者か否かの判断が正しかったかどうかはさておき、このような判断枠組を採用する場合、「濫用的買収者」であるか否かの判断基準が明確であれば、「濫用的買収者と認定されない限り防衛策を発動されることはない」という方向で、むしろ防衛策発動に抑止的に働く可能性もありうる。しかしながら、高裁決定が濫用的買収者であると認定するに至ったの理由付けを見ると、たとえば、株式を短中期的に保有しこれを市場内外で処分することにより売却益を得ようとすることはファンドの本質であるし、スクイーズアウトにより完全子会社化した後に資産を処分することについても不要資産等のリストラを念頭に置けば必ずしもネガティヴ評価を受けるべきものでもない。このような事情を理由として「濫用的買収者」との判断がなされるのだとすれば、一般的なファンドは、上記のうちいくつかの要素を自動的に満たすことになってしまう(上記a)、c))。また、高裁決定は、ある程度の多数の株式を取得しようとする株主に、「会社経営の意思はない、ただ株式を買いたいのだ」ということを認めず、買収後の具体的な経営方針、企業価値向上案の提示などを求め、これを示さなければ濫用的買収者と認定する可能性があることを示唆しており(上記b)、d))、これが所有と経営の分離という株式会社の理念と整合するのかどうかということも議論のあるところであると思われる。1
結局、高裁決定は、スティールパートナーズが濫用的買収者であるとの判断を基礎に新株予約権の無償割当ての適法性を論じているが、濫用的買収者であるか否かの判断基準が必ずしも明確でないこと、また、買収者の属性に関しいったんこのような判断がされると当該買収者はその後の投資行動を著しく制限される可能性もあり、当該公開買付が濫用的買収かという判断を超えて、当該買収「者」が濫用的買収「者」かどうかについての判断をする必要があったのかどうかということ2 、また、濫用的買収者とは認定されない場合の防衛策発動の可能性について明確でない点などから、少なくとも実務の依拠すべき指針という意味での先例的な価値は低いといわざるを得ないのではないかと考える。
最後に、地裁決定と高裁決定の判断ポイントの比較を一覧で示す。

- さらにいえば、今回スティールパートナーズは全株式の買収を目指した公開買付けを行なったのであり、もし当該公開買付けが成功した場合は、現在の株主は買付け後の対象会社の経営に何ら関わりがなくなることを考えると、買収後の具体的な経営方針、企業価値向上案の提案をしないことがなぜそれ程重要視されねばならないのかとの疑問もある。
- この点、判旨は「本件については」濫用的買収者であると認めるのが相当としているが、濫用的買収者であるか否かは買収者の属性の問題であるから、本来事案ごとに判断が異ならないのではないかと思われる。また、この点については、濫用的買収者であるとの認定をしなくても、経営陣の側にそのように信ずる合理的理由があったとの判断にとどめることもありえた。
- 但し、買収防衛策としての必要性及び相当性が存すると判断する理由は、SPが濫用的買収者であるとの認定が前提となっている。
- ①②双方を満たすことを株主平等原則違反とならないための要件として定立している地裁決定と比較した場合、高裁決定は、株主平等原則違反とならないための「要件」がなんであるのかは必ずしも明確でない。
- ここでも、濫用的買収者であるSPによるTOBが「容認し難い不当なものである」ことが相当であるとの判断を導く前提となっている。



