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2007. 11.21
知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(成案)の公表
執筆者
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
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このニュースレターがご提供する情報は一般的なもので、いかなる個別の事案に対しても適用されることを保証したり、解決を提供するものではありません。具体的な事案においては、当該事案に対する個別の法的助言なくして、ご判断をなされないようにお願い申し上げます。
* この記事についての英語の解説-JFTC Publishes Final Guidelines Concerning Use of Intellectual Property はこちら
1. はじめに
2007年9月28日、公正取引委員会(以下「公取委」といいます)は、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(以下、「新ガイドライン」といいます)の成案(以下「成案」といいます)を公表しました。新ガイドラインは、その原案(以下「原案」といいます)についてのパブリックコメントの提出の締切から成案の公表までに約4か月を要し、当初の予定よりも大幅に遅れて公表されたものです(原案については、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(原案)の公表」をご参照ください)。
新ガイドラインは即日効力を生じ、従来の「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」(平成11年7月30日公表)(いわゆる「特許・ノウハウライセンスガイドライン、以下「旧ガイドライン」といいます)は廃止されました。
原案は不明瞭な部分が多く、パブリックコメントの提出締切後の検討期間の長さからも判るように、多くのコメントも出されましたが、今般公表された成案においても、細部の表現について若干の手直しがなされたものの、基本的な方針についての記述について大きな変更はありません。とはいえ、細部の表現の修正には、競争促進効果の考慮という重要な方針が示されており、特に原案に特有の不明瞭な問題とは別に公取委の新たな方針が表明されているといえます。以下では、原案との比較で重要な部分を概説します。
2. ライセンス拒絶について記述
原案は、対象とする行為を、(1)ライセンスの拒絶(他者に技術を利用させないようにする行為)、(2)ライセンスの範囲の限定、及び(3)ライセンスに伴うライセンシーの活動の制限の3類型に分け、特に(1)のライセンスの拒絶について種々の記述をしています。この分類は旧ガイドラインにはなく、原案で初めて行われたものですが、成案でも維持されています。
また、成案では、ライセンスを行わないことはライセンスの拒絶と同視できる程度に高額のライセンス料を要求する場合を含むという原案になかった記述が付加されました。さらに、不公正な取引方法の観点からの考え方において、原案は、ライセンシーが「他の技術に切り替えることが『著しく』困難になった後」でのライセンス拒絶は不当に権利侵害状況を策出すると述べていましたが、成案では「著しく」という文言が削除されました。これと前述のライセンスの実質的な拒絶と相俟って、成案は特に技術標準についてのホールドアップ問題を広くカバーするように修正されています。
3. 市場の考え方
市場画定についての記述は、原案から変更はありません。ただ、公取委は基本的な考え方は企業結合ガイドラインと同じだが、知的財産の利用に関する制限行為が対象となる新ガイドラインでは、企業結合において競争への影響を検討する市場とは異なる場合がある、当該技術が取引されていない分野が市場に含まれる場合があると解説しています。
4. 競争制限効果についての分析方法
競争制限効果の分析方法について、成案では新たに注が加えられ、ライセンスにより初めて競争関係が生じる場合があることが明示的に記述されるとともに、本文においてライセンスに付された制限の競争に対する影響は、その制限の合理的な理由の有無とともに、「研究開発意欲及びライセンス意欲への影響」を勘案するとの文言が付加されました。これは、制限を付した上でライセンスすることの競争促進効果を積極的に評価することを明示したもので、特に注目すべき部分です。
競争促進効果と競争制限効果の比較衡量において判断がなされることを明記すべきというコメント対して、公取委は態度を明確にしておらず、かえって「総合的に勘案し、判断する」と述べていますが、ライセンスの競争促進効果の評価を行うことを明示したことで、実質的には、総合評価と比較衡量の差があまりないことが明らかになったといえます。
他方で、競争減殺効果が軽微であると、不公正な取引方法の観点からはどうなるのかという点が記載されていないこと(詳しくは「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(原案)の公表」をご参照下さい)については、手当てがなされておらず、この点について不明瞭さは成案でも解決されませんでした。
5. 個別の制限類型についての指針
原案では、旧ガイドラインでは記述されていなかった制限の類型についての記述を新設したり、旧ガイドラインで記述されていた制限の類型についての解釈指針を一部変更しましたが、成案はそれをさらに一部修正しました。とりわけ次のものが注目されます。
(1) 不争義務
旧ガイドラインでは、ライセンシーがライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務(不争義務)を課すことは、場合によって違法となる灰条項ですが、原案は、一部の権利の有効性を争ったことにより全部の権利のライセンス契約を解除する場合、契約終了後においても不争義務を課す場合などについて、公正競争阻害性を有するときは違法となる灰条項とし、それ以外は「直接的には競争を減殺するおそれは小さい。したがって・・・ので原則として不公正な取引方法には該当しない」(白条項)とされました。ところが、原則合法化の弊害を指摘した批判が寄せられため、成案では、「直接的には競争を減殺するおそれは小さい」という記述は残したまま、けれども「不公正な取引方法に該当する場合もある」という灰条項に結論が変更されました。これにより、競争を減殺するおそれは小さい1が、不公正な取引方法となる場合があるという矛盾した記述になりました。他の制限の類型について「競争を減殺するおそれは小さい」ので、「(原則として)不公正な取引方法に該当しない」と述べている部分との一貫性もなくなりましたので、他の制限の類型についての解釈にも疑義を呼ぶかもしれません。
(2) 技術への機能追加(プラットフォーム機能の濫用)
原案は、旧ガイドラインにはなかったプラットフォーム機能についての記述を新設した上、既存の応用技術が提供する機能を当該プラットフォーム機能に取り込んだ上で新たにライセンスをする行為は、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(灰条項)としていました。しかし、成案では、かかる応用技術が提供する機能を当該プラットフォーム機能に取り込んだ上で新たにライセンスをする行為が不公正な取引方法となりうる場合について、「ライセンシーが新たに取り込まれた機能のライセンスを受けざるを得ない場合には、」という限定が付されました。他方で、そのような場合でも、「公正競争阻害性を有する場合には」という記載は残されていますので、ライセンシーが新たに取り込まれた機能のライセンスを受けざるを得ない場合であっても、公正競争阻害性を有するかどうかは再度判断するという難解な構造になっています。
6. 実務における注意点
総論的には、新ガイドラインの最大の特徴はライセンス拒絶や技術標準について記述を拡大したところにあります。ところが、これまで検討した経験や運用実績が蓄積されているライセンスの個別の制限類型についての考え方と異なり、ライセンス拒絶や技術標準という新しい問題については、原案で不明確な部分が成案でもすべて明確化されたわけではなく、未成熟の部分が多く残されています。その意味で、新ガイドラインの具体的な適用の方針について、公取委の担当者の発言等種々の情報を注意深く追っていく必要があります。
ライセンスに伴う個別の制限については、基本的な思想として、ライセンスの競争促進効果を見る方針が明確に打ち出されたことからすれば、適法と結論付けるための説明がしやすくなったといえると思います。しかしながら、公取委はライセンスに伴う制限について、事例ごとに具体的に判断するという姿勢を崩していませんので(パブリックコメントに対する解説において特にこの点が強調されています)、個別の事例における運用を注視することはもちろん、自社でライセンスの制限を付す場合には、制限条項の合理性と競争促進効果を説明できるように理論武装しておくことが大切です。
- 「競争減殺効果が軽微である」というのとは異なります。
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