Home > Topics > Newsletter > Legal Updates
2006. 02.14
新会社法ニューズレター 第3回 取締役の報酬と賞与
執筆者
弁護士 穂高 弥生子
本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。この記事に関するお問い合わせは、tokyomarketing@mofo.com 宛にメールにてご連絡下さい。
ポイント1 報酬と賞与~商法での取扱い~
取締役に対する報酬および賞与の支払について、現行商法では下記のように取り扱われています。
1) 報酬については、商法269条により、定款に定めないときは株主総会決議をもって定めるものとする。
2) 賞与は報酬とは異なるから、商法269条の適用は受けない。
すなわち、「報酬」は、定款ないし総会決議でいったん定めればその額を変更しない限りその後当然に支払を受けられるのに対し、「賞与」は、支払のたびに定時総会決議を要する利益処分であると考えられています。したがって、賞与は多くの場合利益処分案に含めて株主総会で決議されています(283条1項)。
但し、下記の場合は、例外として、賞与も「報酬」として株主総会(または報酬委員会)で決議されていました。
例外①
委員会等設置会社では利益処分権限が委員会に移行したので、お手盛りの危険から利益処分に賞与を含めることは許されなくなった(特例法21条の31第2項)⇒賞与を含めた報酬を報酬委員会で決定。
例外②
また、賞与=業績連動型報酬と考えて、発生時に費用として会計処理する方法をとる場合には、商法上も「報酬」としての総会決議を要する。この点に関し、企業会計基準委員会は、平成16年3月公表した「役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い」において、「役員賞与は、発生時に費用として会計処理することが適当であると考えられる。但し、当面の間、これまでの慣行に従い、費用処理しないことも認められる。」としており、多くの会社はこれに従い費用処理せず未処分利益を減少させていた。
ポイント2 新会社法での賞与の取扱い
平成17年11月29日に公表された「役員賞与に関する会計基準」(企業会計基準第4号)では、役員賞与は費用として処理するものとされ、報酬と賞与の会計処理が一本化されることになりました。会社法でも下記の通り整理され、会計処理と法律上の処理が統一化されることになります。1
会社法452条以下においては、財産が社外流出する剰余金処分は株主に対する剰余金配当のみ(役員賞与は含まない)とされています。他方、会社法361条では、「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」について下記の事項を定款に定めないときは株主総会決議をもって定めるとされています。2
①額が確定しているものはその額
②額が確定していないものは具体的算定方法(業績連動型報酬など)
③金銭でないものは具体的内容(社宅など)
なお、使用人兼務取締役は収入の大部分を給与として得るのが通例であり、使用人部分の給与については規制が及ばないという不都合があるとされていますが、この点については新会社法についても手当てはされていません。3
会社法施行後も、報酬総額を枠として決議し、枠自体が増加しない限り改めて総会決議を要しないという実務にも変更がないものと思われますが、賞与分も報酬に含めて決議が必要となる以上、従来の報酬枠を拡大し、かつ、月額での規定を年額での規定に改める決議を行う必要があると思われます。さらに、賞与が業績連動型で支給されるのであれば、従来の報酬とは別枠で上記②の決議が必要となります。
また、整備法100条により施行日前に到来した最終決算期(直前決算期)の利益配当は旧法によりますので、平成18年6月総会では、利益処分として賞与を支給することが可能です。
ポイント3 ストックオプションについて
ストックオプションについて、商法では、実質的には職務執行の対価として付与するものでありながら、労務出資が認められていないことから、常に「無償」で付与を受けたものとみなし、第三者への有利発行(無償発行)として株主総会の特別決議がとられてきました。その代わり、重ねて報酬としての普通決議は要しないと考えられています。
これに対し、新会社法でもストックオプションの付与について新株予約権発行手続をとれば重ねて報酬決議は要しないとする立場がある一方、新会社法では公開会社(全株式譲渡制限会社でない会社)が有利発行ではなく公正な価格で新株予約権を発行するときには株主総会の特別決議を要しないこと、また、新会社法では前記の通り「報酬」の概念が拡大化しており、「取締役が職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」からストックオプションを除外する理由がないことから、報酬決定手続と新株予約権発行手続の双方を要するとする説も有力で、立法者はこれによっているようです。4 この考え方のもとでは、ストックオプションは公正価額が発行時に算定できることから、報酬等のうち額が確定しており(361条1項1号)、かつ金銭でないもの(361条1項3号)と整理され、具体的な価格およびその内容につき総会決議を要することになります。5
なお、新会社法におけるストックオプションについては、平成17年12月27日に公表された「ストック・オプション等に関する会計基準」およびその適用指針の解説において改めて取り上げます。
ポイント4 報酬・賞与の開示について
現行商法下では取締役の報酬・賞与は以下の方法で開示の対象とされていました。
- 利益処分とする場合には利益処分案に記載
- 取締役の責任軽減の定款の定めをした場合には、営業報告書に記載
- 「取締役及び監査役に支払った報酬その他の職務遂行の対価(その取締役が使用人を兼ねる場合の使用人としての報酬その他の職務遂行の対価を含む)である財産上の利益の額」(財産上の利益にはストックオプションを含む)は、営業報告書または附属明細書に記載
- ストックオプションを取締役に付与した場合は、営業報告書に氏名、割当新株予約権数等を記載
上記に対し、新会社法ではそもそも計算書類の定義自体が変化します。すなわち、商法では、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益処分案を「計算書類」と称していましたが、新会社法では、従前利益処分案に含まれていた事項は決算手続とは無関係に随時行われることになったため、「利益処分案」はなくなり、貸借対照表、損益計算書及び株主持分変動計算書を「計算書類」と定義し、その他従前の営業報告書に代わるものとして「事業報告」を作成することが義務付けられています(435条)。6 したがって、新会社法では、利益処分としての開示はなくなり、営業報告書で開示されていたものは事業報告で開示されることになります。
会社法施行規則121条4号によれば、公開会社においては、「当該事業年度に係る取締役、会計参与、監査役又は執行役ごとの報酬等の総額」を事業報告の記載事項とするとされ、また、社外役員を設けた場合には同124条6号により社外役員分の報酬総額を別途記載する必要があるとされています。この報酬等には当該事業年度に付与されたストックオプションとしての新株予約権を含みます。従来より論議のあった役員報酬の個別開示義務は新会社法では強制適用されていませんが、会社役員の全部又は一部について当該会社役員ごとの報酬等の額を掲げることとすることもできます(施行規則121条条4号括弧書き、124条6号括弧書き参照)。また、事業年度末において会社役員が保有する新株予約権等の残高について社外取締役、社外取締役以外の取締役(執行役を含む。)、その他役員に区分して開示することが必要です(施行規則123条1号)。
なお、証券取引法上は、平成15年3月31日内閣府令28号による開示府令の改正により、コーポレート・ガバナンスの状況に関する情報として、役員報酬の内容が有価証券報告書の記載事項とされており、この点は会社法の成立によっても変更ありません。7
- 役員賞与に関する会計基準によれば、役員賞与は発生した会計期間の費用として処理するものとし、同会計基準適用後は役員賞与を剰余金の額の減少として処理することはできない。適用時期は、平成18年5月期決算会社の中間財務諸表から(すなわち平成18年11月中間期から)となる。
- 但し、委員会設置会社については報酬委員会で決定するので総会決議は不要である(404条3項前段)。
- 会社法においても、取締役については、執行役が使用人を兼務する場合のような規定(404条3項後段)がないので、使用人としての報酬は361条1項の「報酬」には含まれないと解されている。
- 会社法238条3項1号が無償発行の場合であっても有利発行に該当しない場合があることを前提とした規定であることを根拠とし、ストックオプションの場合、取締役の将来の報酬の割引分を織り込んで発行されるので、その報酬割引分を加味すれば無償であっても有利発行でないことがありうるとする。商事法務1744号102ページ参照。なお、ストックオプションを費用計上できるのであれば、無償発行ではないはずであり、報酬債権をもってする相殺等と法律構成できる余地があるが、実質的に労務出資を認めたことになるのではないかとの議論がある。また、有利発行でないとすれば、公開会社においてはあらかじめ総会決議を経た報酬枠の範囲内である限り取締役会決議のみで発行可能となることになる
- 「具体的な価格」としてはオプション価格評価モデルによる理論値を、「内容」としては新株予約権の発行概要を各々決議することになるものと思われる。
- 計算書類、事業報告、附属明細書は、本店に5年間備置され、株主および債権者の閲覧に供される(442条)。また、貸借対照表は定時総会の終了後遅滞なく公告される(440条。但し、有価証券報告書を提出している株式会社についてはEDINETで閲覧可能なため公告は不要)
- 平成18年度税制改正において、業績連動型報酬についても一定の要件を満たせば損金算入できることとされたが、この要件の一部として、算定方法につき報酬委員会等における決定等の適正な手続がとられていること、有価証券報告書等において個別報酬額が計算できる程度の算定方法の開示がされていることが挙げられている。



