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2005. 03.15
公正取引委員会のインテルに対する排除勧告の内容とその意義を解説します
雨宮 慶
ジョナサン・ガウディ
*インテル事件についての英語の解説 JFTC Challenges Intel's Rebate and Marketing Programs: Key Implications for Doing Business in Japan はこちらをクリック
2005年3月8日、公正取引委員会(以下「公取委」といいます)は、インテル株式会社(米国インテル・コーポレーションの日本法人。以下「インテル」といいます)に対して、国内パーソナル・コンピュータ・メーカー(以下「国内PCメーカー」といいます)のうち5社との取引条件が独占禁止法3条(私的独占の禁止)の規定に違反するとして、排除勧告を行いました。本書では、この排除勧告の内容と意義を簡単に紹介します。
(勧告に言及されている事実の概要)
公取委は、概要以下の事実を指摘し、これが独占禁止法の禁止する私的独占に該当するとしています。
すなわち、日本においては、インテル、日本エイ・エム・ディ(米国アドバンスド・デバイセス・インクの日本法人。以下「AMD」といいます)、トランスメタ・コーポレーション(以下「トランスメタ」といいます)の3社が、パーソナル・コンピュータ(PC)に用いるセントラル・プロセッシング・ユニット(以下「CPU」といいます)の販売のほとんどすべてを占めていたところ、3社のうちでもトップシェアを誇るインテルは、平成3年(1991年)ころから、国内PCメーカーの米国インテル製(以下単に「インテル製」といいます)CPUを搭載するPCの販売を促進するため、「インテル・インサイド・プログラム」と称する広告宣伝活動に対する支援を行っていました。これに関連して、インテルは、国内PCメーカーに対し、インテルから購入したCPUの数に応じて割戻金を提供したり、あるいは米国インテルを通じて、マーケット・デベロップメント・ファンド」という資金(以下「MDF」といいます)を提供したりしていました。ところが、平成12年(2000年)ころ以降、AMDがインテル製CPUと競合するCPUをインテルより安く発売したことなどから、CPUの国内総販売量に占めるAMD製(米国AMD製)CPUのシェアが平成12年(2000年)から14年(2002年)にかけて17%から22%にまで上昇しました。そこでインテルは、平成14年(2002年)5月ころから、日本国内でインテル、AMD、トランスメタ3社からの全CPU購入量の77%を占める国内PCメーカー5社との間で、前記割戻金またはMDFの提供を行うためには、次のいずれかを条件とすることを約束し、競争事業者のCPUを採用しないようにさせていました。
(1) インテル製のCPUを搭載する率を100%にして、インテル製以外のCPUを採用しない。
(2) インテル製のCPUを搭載する率を90%にして、競争事業者製のCPUの割合を10%以下に抑える。
(3) 生産量の多い複数の商品群(シリーズ)について、競争事業者製のCPUを採用しない。
これにより、日本AMD及びトランスメタの販売量が国内総販売量に占める割合は平成14(2002)年に24%であったものが、翌平成15(2003)年には11%に減少しました。
(勧告された排除措置)
勧告された排除措置の主な内容は、(i) 上記(1)と(2)の行為を取りやめること、(ii) 将来上記(1)ないし(3)の行為を再び行わないこと、(iii) 上記の行為を取りやめており、競争事業者のCPUを採用しないことが割戻や資金提供の条件ではないことを、自社と取引のある国内PCメーカーすべてと、自社の従業員に周知徹底すること、(iv) 自社のCPUの営業担当役員及び従業員に対する独占禁止法の研修と法務担当者による定期的な監査を行うための措置を講じることです(特に(iii)と (iv)を行うにあたっては公取委の承認が必要です)。
(本件勧告の意義)
- 本件は、近時公取委が独占禁止法の積極的な運用を行っていること、特にそれが世間の注目を集める大企業に対してなされていることの一例といえます。ここ数年、公取委は、マイクロソフト、NTT東日本、ジェイフォン(ボーダフォン)、二十世紀フォックスといった著名な多国籍企業に対して勧告あるいは処分を行っており、今回はインテルがその対象となりました。積極的な法運用という文脈では、昨年の企業結合ガイドラインの改訂、今国会で成立が見込まれる独占禁止法の改正も例に挙げることができます。
- 本件において公取委は、インテルが競争事業者を「排除」する「私的独占」を禁止する規定に違反したと結論づけています。独占禁止法上「私的独占」というためには、他の事業者の事業活動を排除(または支配)し、それによって一定の取引分野の競争を実質的に制限することが要求されます。本件の勧告書には、インテルの競争事業者であるAMDとトランスメタがシェアを奪い返されたことは記載されていますが、国内PCメーカーがインテル製のCPUを不本意ながら購入せざるを得なかったのかどうかは明示されておらず、インテルの行為と競争事業者のシェアの減少の因果関係は必ずしも明確にされていません。米国の反トラスト法違反事件などでもこの論点がたびたび問題とされますが、勧告書の記載のみからは競争業者と取引をしないことを条件とする割戻金またはMDFの提供(取引自体の拒絶するわけではありません)が当然に競争を制限したと判断しているようにも見えます。仮にそうだとすると、リベートなども含めて総合的に安い商品を提供するのであっても、場合によっては私的独占とされる可能性を示唆するものといえましょう(もっとも、本件の場合には、競争業者と取引をしないことを条件としたという点が否定的な判断を受けたようです)。
- 本件はまた、近時増加している私的独占、不公正な取引方法の規定を適用する事件の流れの一つの例ということができます。これまで、公取委はカルテルや入札談合などの「不当な取引制限」の事例を多く立件してきましたが、最近になって、NTT東日本事件や有線ブロードネットワークス事件といった「私的独占」の禁止、マイクロソフト事件やジェイフォン(ボーダフォン)事件、20世紀フォックス事件といった「不公正な取引方法」の禁止の規定を適用する事件を多く取り上げています。私的独占や不公正な取引方法は、通常の取引における条件で適法なものとの違いがはっきりせず、不当な取引制限よりも競争に対する影響の判断が難しいといわれています。それにもかかわらず、近時は本件を含め公取委が私的独占や不公正な取引方法の規定の適用に積極的ですので、本件のようにリベートやマーケティング支援策などを実施し、あるいはしようとしている企業が独占禁止法の問題を検討しなければならないのは勿論、企業が日ごろ当然のように考えている他の取引条件についても常に注意深く点検する必要があるといえます。
- 最後に、今回勧告された排除措置には、独占禁止法の研修と法務担当者による定期的な監査というものが含まれていますが、これが排除措置の中に盛り込まれるようになったのは比較的近年のことです。ただ、本来企業が独自の方針に基づいて行うべきコンプライアンス体制の構築に公取委の相当程度の関与が要求される一方で、いかなる事件にかかる排除措置が命じられるのかは、必ずしも明らかではありません。
連絡先
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
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