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2006. 02.14
新会社法ニューズレター 第4回 100%子会社の機関設計
執筆者
弁護士 吉村 龍吾
本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。この記事に関するお問い合わせは、tokyomarketing@mofo.com 宛にメールにてご連絡下さい。
今回は比較的大規模な日本の会社であるP社の100%子会社S社の機関設計を取り上げます1 。
ポイント1 多様な機関選択の自治
新会社法では多様な機関設計が認められています。大きな理由として旧有限会社を会社法に取り込むとともに閉鎖会社を会社の基本類型とする条文構造になったことがあげられますが、それだけではなく、ガバナンスを各会社の自治に委ねて多様な選択肢を用意したこともあげられます。可能な機関設計を網羅すれば幾通りにものぼりますが、そこには基本的な考えと法則があります。これについては別紙1をご覧ください。
ポイント2 大会社でなくなるという選択
S社の機関設計については、まず大会社か中小会社か2 、からスタートしましょう。
大会社であればS社には必ず外部の会計監査人を置かなくてはなりません(328条)。多くの場合P社も大会社として会計監査人を置いているので、S社は連結子会社としてP社の会計監査人による監査を受けています。またS社は通常は独自の信用に依拠するよりはP社のグループ内会社として外部的にも認識されているでしょう。したがってS社単独の会計監査人をなくしたいという要請は相当多いものと思われます。大会社かどうかは多くの場合所与の前提ですが、資本金5億円以上という要件のみによって会計監査人が強制されている場合には、無償減資を行うことにより中小会社となることが一案です。
資本金を減らせたとしても、負債200億円以上であるために大会社である場合は、通常負債を減少させることは困難なので、他の組織形態を検討する必要があるでしょう3 。
ポイント3 機関のスリム化
機関のスリム化を志向するなら、S社が公開会社でなければ、大会社でも「取締役1名+監査役1名+会計監査人」という構成が可能です。すなわち会計監査人を置く限り監査役は強制設置ですが(327条3項)、監査役会は不要です。また100%子会社であり公開会社である必要はないので、取締役会も不要です(327条1項)。したがって取締役1名でも可能ですし、取締役会を置かずに取締役を複数置くことも可能です。また中小会社では監査役も置かず「取締役1名」という構成も可能です。
スリム化に伴う実務的な論点は人事ポストの確保、あるいは業務執行者が実際に複数必要である、ということでしょう。これは現在多くの会社で採用している執行役員制度を採ることで相当程度対応可能です。
ポイント4 ガバナンスの法的構造①~取締役会の有無~
取締役会設置会社と非設置会社にはガバナンス上大きな考え方の相違があります。最も大きな違いは株主総会を万能絶対の機関と考えるかどうかの点です。

なお、実務的に重要な考慮点は、次の2点です。
① 新会社法では、定款規定があれば、取締役会を開かずに取締役全員の同意を得て(及び業務監査権限のある監査役の異議がないことを確認して)持回り書面決議(電子メール決議を含む)が可能です(370条)。したがって、これまでテレビ・電話会議による取締役会のアレンジ等が面倒であると考えていた会社であっても、定型的な決議事項については相当省略が可能になります。
② 100%子会社を前提にしていますので、取締役会非設置とした上で単独の取締役の専横を防ぐために定款により総会決議事項を拡大したとしても、株主全員の同意があるものとして常にみなし書面決議(電子メール決議を含む)(319条)を行うことが可能であり、総会の手続が面倒ということはありません。
ポイント5 ガバナンスの法的構造②~監査役の有無~
監査役を置かない場合(あるいは現在の小会社監査役のように監査役を置くが会計監査権限に限定した場合。なおこのような限定された権限の監査役を置いても「監査役設置会社」にはならない。2条9号、なお389条1項)、次のような特色があります。
① 取締役が会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合、株主に直接報告する義務がある(357条1項)4
② 6ヶ月前から継続保有する株主は、違法行為等のおそれにより会社に著しい損害が生じるおそれがあれば、取締役に対する違法行為差止請求権を行使できる(360条1項)(監査役設置会社では回復しがたい損害が生じる恐れが必要。360条3項)
③ 株主が一定の場合取締役会を招集できる(367条)
④ 株主はいつでも取締役会議事録等の閲覧謄写を請求できる(371条2項)(監査役設置会社では裁判所の許可を得ることが必要。371条3項。)
⑤ 計算書類等の監査がない
このように監査役を置かないということは株主の直接的監督権限の拡大を意味します。
ポイント6 連結経営とP社取締役の責任
子会社のスリム化はポイント4および5で述べたように株主監督権限の拡大を意味します。したがって、P社が全く関知しないS社で起きた不祥事等について、S社の役員の責任のみならず、S社に対する株主権の不行使についてP社の取締役の責任が問われる可能性があります。ただ、結局P社取締役はS社を含めたグループ全体について内部統制体制を構築する責任その他監督責任があり、S社のことはS社に任せておりP社は投資者に過ぎない、という抗弁はいかなるガバナンス形態をとっても通用しません。結局はP社としてS社の機関設計をグループ全体の監督監査をどのように行うのが最も実効的か(ある程度S社の機関に委ねるか、直接監視監督をしていくか)という視点から考える必要があります。
ポイント7 取締役の任期
公開会社でない取締役の任期は定款で最大10年まで伸長可能です(332条2項)。よく役員の重任手続および重任登記の手間とコストを省くために取締役の任期を延ばすことが検討されます。しかし取締役を任期期間中正当な理由なく解任すると(解任自体は手続を踏めば常に可能)残存任期期間中の報酬を損害賠償として請求される可能性があります(339条2項)。したがって取締役の任期の定めは一種の身分保障として機能する(これをcontract outできるかどうかは一つの論点です)ので、慎重に検討するべきでしょう。

機関設計のルール
① 大会社は会計監査人を置くべし
② 会計監査人を置く場合は、監査役(公開会社の場合監査役会)を置くべし(委員会設置会社を除く)
③ 公開会社は取締役会を置くべし
④ 取締役会を設置した場合は、監査役を置くべし(委員会設置会社、及び会計参与をおいた非公開会社を除く)
- いわゆる外資系日本子会社については、機関設計を巡って別異の考慮が必要であるので本稿では直接の対象としない。
- 新会社法では中会社と小会社の区別はなくなった。大会社か中小会社かの基準は現行法と同じく、最終事業年度のBSで資本金5億円以上、負債200億円以上かどうかである(2条6号)。
- 組織変更をして合同会社(LLC)にすることが考えられる。LLCの詳細は別途取り上げるが、規模等にかかわらず会計監査人の強制要件はない。債権者が計算書類の閲覧請求権を持っている(625条)、法人であるP社が業務を執行する社員となり職務を行うべき者を選任する(598条)等考慮を要する点があるが、大規模な100%子会社に合同会社が不適当である絶対的な理由はないように思う。アメリカでは上場会社の子会社でLLC形態を取る例が相当見受けられる(もっとも構成員課税がその主たる動機で、我が国ではこのメリットはない)。ただし日本ではLLCは新しいコンセプトであり、取締役が存在しないことともあいまって事業会社としての普及にはある程度時間を要するだろう。なお株式会社からLLCへの組織変更には債権者保護手続が必要である(779条2項)。
- この報告義務に違反した場合の取締役の責任は、損害及び因果関係との関係で難問である。



