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2005. 04.01
2005年改正独占禁止法のキーポイント
弁護士 雨宮 慶
*改正独占禁止法成立についての英語の解説-Amendments to Japanese Anti Monopoly Act: Japan Significantly Strengthens Its Antitrust Lawsはこちらをクリック
1. 総 論
昨年の臨時国会に法案が提出され、本年の通常国会へ継続審議とされていた独占禁止法の改正法が4月20日に成立しました。改正法案について国会審議の過程で大きな修正はなされておらず、成立した法律の内容は、法案と実質的に異なるところはありません。ただ、法案提出後、大きな動きがいくつかありました。ここでは改正法の概要と、法案提出後の重要な情報について再確認します。
改正法の柱は、ご存知のとおり、大きく分けると四つあります。第一は課徴金の引上げ・対象範囲の拡大、第二は課徴金の減免制度の導入、第三は排除措置を命じる手続と審判制度の改正、第四は犯則調査権限の導入です。改正法はペナルティを拡大し、公正取引委員会(以下「公取委」といいます)の権限の拡大させている一方で、公取委は、課徴金減免制度における最初の申請者に対して刑事告発しないという方針を発表しました。
2. 各 論
(1) 課徴金算定率の引上げ・対象範囲の拡大
課徴金の引上げに関連する改正事項は、?@金額(算定率)の引上げ、?A再犯・早期離脱の際の増減及び刑事罰との調整、?B対象となる違反行為の範囲の拡大です。
(課徴金算定率の引上げ)
現行の独禁法は、価格カルテル(入札談合を含みます)と供給量カルテルについて、違反行為の対象商品または役務の合計売上額の1ないし6%(中小企業の場合は1ないし3%)の課徴金を賦課するものとしています1。改正法では、その課徴金を算定するための率を引上げています。現行法と改正法の算定率の比較は以下のとおりです。
| 現行法 | 改正法 | |
| 卸・小売業以外(製造業やサービス業など) | 6%(3%) | 10%(4%) |
| 小売業 | 2%(1%) | 3%(1.2%) |
| 卸売業 | 1%(1%) | 2%(1%) |
( )内は中小企業
(再犯における加重と早期離脱の場合の軽減・刑事罰との調整)
改正法では、10年以内に再び違反行為を行った場合には5割増となる代わりに、公取委の調査開始より1ヶ月前までに違反行為をやめた場合には2割減となります。また、同一の事件について刑事手続で罰金刑の判決を受けている場合には、その罰金額の二分の一が課徴金から控除されます。
(課徴金の対象となる違反行為の範囲の拡大)
現行法で課徴金が賦課される違反行為は、対価に係るカルテル(価格カルテルや入札談合)か、または供給量を制限するカルテルの二類型のみだったのですが、改正法では、購入量、市場占有率、取引の相手方を制限するカルテルと、さらには私的独占(他の事業者を支配する型の私的独占のみ)で、支配された他の事業者の対価に係るものか、または供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方を制限するものも対象となっています。
(2) 課徴金減免制度(日本版リーニエンシー)の導入
(改正法における課徴金減免制度)
課徴金減免制度とは、違反行為を行っていても、公取委へ情報提供した者には、課徴金の減額または免除という恩典を与えて、駈込みを奨励するものです。併せて、競争当局の証拠の収集を容易にすることも意図されています。
改正法では、公取委の立入検査前に単独で申告、情報提供をした場合には(以下、そのように申告・情報提供を行う者を「申請者」といいます)、最初の申請者が100%課徴金を免除、2番目の申請者が50%、3番目の申請者が30%、それぞれ減額されます。また、調査開始日後の申請者であっても、三者までは一律に30%減額されます。
(改正法案提出後の重要な情報)
改正法では、課徴金の減免制度をあくまで行政手続における課徴金についての制度と位置付けており、申請者及び申請者の役員や従業員を公取委が刑事告発することに制限はありません。しかしながら、改正法案の国会審議において、公取委の竹島委員長は1番目の申請者に関しては、役員・従業員を含めて刑事告発をしないという方針を表明しました。他方、2番目、3番目の申請者の取扱いはケース・バイ・ケースで刑事告発もありうるということです。これについて法務省(検察庁)も、一つの事件における複数の違反行為者のうち、一部をあえて告発しないという公取委の判断がなされた場合、それを尊重すると答弁しています。
また運用面では、申請の順序の決定に公平性と信頼性をもたせるために、申請をファックスに限り、それに用いるファックス回線を一本に限定するとともに、申請者の第一報では公取委規則に規定する必要最小限の事項のみを記載したファックスを送信し、他の情報は後から追完できる方向で検討が進められています。
(3) 排除措置、審判制度の改正
排除措置と審判制度をめぐる改正については、違反行為の認定・排除措置にいたる手続と、課徴金についての手続とを分けて考えるのが便宜です。
(違反行為の認定・排除措置にいたる手続の変更−勧告の廃止)
現行法の下では、正式な行政処分(審決といいます)の前に、公取委は事業者に対し、違反行為の排除をするための措置(排除措置といいます)をとることの勧告を行いますが、行為事業者に勧告を応諾するかしないかの自由があります2。事業者が勧告を任意に応諾するときは、勧告と同内容の「審決」が出され、応諾しない場合には、審判3が開始されて、訴訟に類似した手続で違反事実の有無や排除措置を命じるかどうかを争うことになります。
これに対して改正法は、勧告の制度を廃止して、公取委がいきなり排除措置命令という処分を行うことを可能とし、事業者側の応諾は不要としています。排除措置命令を行う前には、事業者に、意見を述べ、証拠を提出する機会を与えなければならないとしていますが、現在行われているような審判は、排除措置命令が出されて効力を生じた後でしか行われなくなります。つまり、公開、当事者対立構造、審判官の関与の下で、公取委の持つ証拠の開示を受けてそれに反駁する手続は、正式な処分の前には行われなくなるわけです。
(課徴金納付命令についての手続の変更−納付命令の時期の変更と延滞金)
課徴金納付命令の手続について、改正法では、違反行為について審判が終了するまで、課徴金の納付を命じることができないという規定と、課徴金審判4の手続が開始されると納付命令が効力を失うという規定の双方が削除されました。
この結果、企業が違反行為自体が無かったことを主張して、それを審判で争っている途中でも、公取委は違反行為があることを前提にした納付命令を出すことが可能になります5。また、課徴金納付命令が出されると、それについて不服があって審判を請求しても(それどころか、前提となる違反行為が無いことを主張して争っているとしても)、命令された支払いをしておかないと、審判の結果、納付命令の全部を取り消されない限り、延滞金を徴収されることになります。
(4) 犯則調査権限の導入
現行法の下でも、公取委が立入検査を行うことがありますが、それはすべて行政手続です。
改正法は、この行政手続としての調査に加えて、公取委の職員が裁判所の令状に基づく捜索差押ができることとしています。刑事告発調査事案であると判明した場合には、令状に基づいて調査するという公取委の説明を見る限り、当初は行政調査を行っていた事件について、後に犯則調査権限を行使することがありうるようです。
(5) その他の改正
上記の4つの柱の他に注目すべきものとして、改正法では排除措置命令ができる期間(いわゆる時効のようなもの)が違反行為がなくなった日から3年に延長されていること(現行法は、勧告または審判開始決定について1年以内)、行政調査に対する検査拒否罪及びその他の審尋、報告等の義務違反についての罰則の強化6、確定審決違反罪における法人の罰金額の引上げ7などがあります。
また、価格の同調的引上げについての報告制度が廃止されます。
3. 施行と見直し
改正法は4月27日に公布される予定で、施行は公布後一年以内とされています。公取委は、来年(2006年)の1月から施行することを前提として、改正法の運用を定める規則の整備を進めています。規則の案を6月末までに公表してパブリックコメントに付し、それを踏まえて秋には規則を確定する意向です。
また、改正法は、附則において、施行後2年以内に、新法の施行状況や社会情勢の変化を勘案して、課徴金制度、排除措置命令の制度、審判手続きの制度などについて検討し、所要の措置を講ずることとされており、2年以内に見直しがなされることを前提としています。
- 売上額は、違反行為の実行期間について、最長で3年分計算されます。
- 法律上は勧告を行わずにいきなり審判を行うことも可能ですが、勧告を行うのが通例です。逆に現行法の下では、勧告も審判も行わずに処分(審決)を行うことはできません。
- 審判は、公取委の職員が審査官として違反行為を主張・立証し、事業者側(被審人といいます)がそれに反論、反証を提出して争い、それらを公取委の審判官が判断するという公取委内部の手続です。
- 課徴金納付命令に不服があれば、現行法でも改正法でも、違反行為についての審判とは別に納付命令自体についての審判(いわゆる課徴金審判)を請求することができます。
- 実際には、違反行為についての排除措置命令と同時に課徴金納付命令を行うことが検討されているようですが、法律上は同時に行うことが義務とされているわけではありません。
- 現行法は検査拒否罪について6か月以下の懲役又は20万円以下の罰金、その他の審尋、報告等の義務違反については20万円以下の罰金のみであるのに対し、改正法ではいずれも1年以下の懲役または300万円以下の罰金。
- 現行は300万円以下の罰金であるのに対し、改正法では3億円以下の罰金。
連絡先
弁護士 雨宮 慶 kamemiya@mofo.com
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