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2009. 01.28
株券電子化が少数株主権の行使に与える影響
執筆者
弁護士 合田 久輝 hgoda@mofo.com
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(本稿は執筆者個人の見解に関わる部分があり、当事務所の意見を代表するものではありません。)
2009年1月5日に実施された株券電子化により、上場会社の株式は全てペーパーレス化され、振替制度に移行しました。この新しい振替制度は、物理的な株券の存在を前提としない点で、これまでの株券等保管振替制度(以下「保振制度」といいます。)とは異なり、従来の株式実務にも変更が求められますが、その中の一つに少数株主権等の行使に関する手続きがあります。
1. 少数株主権等行使の手続き
「少数株主権等」とは、株主の権利のうち、基準日を定めて、基準日における株主名簿上の株主に行使することを認めることができる権利(議決権等)以外の権利をいい1、具体的には、株式買取請求権2、株主総会招集請求権3等があります。
保振制度下では、実質株主名簿は基準日ごとにしか書き換えられないこととなっており、期中に株式を取得し、実質株主名簿に記載されていない株主が少数株主権等を行使しようとした場合には、保振制度を離脱し、株券の交付を受けて株主名簿の名義書換をした上で、権利行使を行う必要がありました。これに対し、新しい振替制度下では、株券がないため保振制度下と同様の手続きを取ることはできないことから、少数株主権等を行使しようとする株主は、株主名簿の記載に基づくのではなく、個別株主通知という制度を利用することとなります4。個別株主通知の具体的な手続きは以下のとおりです。
2. 留意すべき点
(1)株主が口座を複数有する場合
上記④に先立ち、機構は、株主が直接申出を行った口座管理機関の振替口座簿の情報だけではなく、当該株主が他に口座を開設している場合には他の口座管理機関にも当該株主の情報を請求し、それらを一括した上で発行会社に対する個別株主通知を行います9。したがって、株主が複数の口座を有する場合でも、そのうちの一つの口座を開設した口座管理機関に対してのみ申出を行えば足ります。
(2)株主名簿制度の不適用
上記のとおり、保振制度では、株主名簿及び実質株主名簿の記載を基準としつつ、実質株主名簿は基準日ごとにしか書き換えられないこととなっていたため、期中に株式を譲り受けた場合でも基準日まで待たなければ少数株主権等が行使できず、さらに継続保有要件が課されている場合には、書換えの行われた基準日から当該期間が経過するまで待つ必要がありました。かかる取扱いを避けるためには、株主が保振制度を離脱し、機構名義の株券を自己名義に書き換えた上で、株主名簿上の株主として権利を行使しなければなりませんでした。
これに対し振替制度の下では、少数株主権等の行使に当たっては、株主名簿の記載により対抗要件を判断する会社法130条1項の規定の適用が排除されており(振替法154条1項)、株主名簿に記載のない株主であっても、個別株主通知により権利を行使できる一方、株主名簿に記載されている株主であっても、個別株主通知によらなければその権利を行使することはできません。また、少数株主権等のうち権利行使の要件として一定期間以上の株式の継続保有が要求されている場合(株主総会招集請求権等)の保有期間の計算も、個別株主通知に含まれる振替口座簿の増加・減少の記録がなされた日を基準に行われます10。これにより、期中に株式を取得した株主も、制度の枠内で、基準日における名簿書換に伴う制約を受けることなく少数株主権等を行使することができることとなります。
(3)受付票の添付
全国株懇連合会が2008年8月に公表した株式取扱規程モデル11条によれば、株主が少数株主権等を行使するに当たっては、署名又は記名押印した書面により、個別通知の受付票(上記②)を添付することが求められています。複数の株主が共同して少数株主権等を行使する場合には、個々の株主がそれぞれの口座管理機関に個別株主通知の申出を行い、受付票を受け取った上で、代表者に送付して発行会社に提出することが考えられます11。
(4)超過記載があった場合
振替機関等が振替口座簿において誤って株式数を多く記載し(例えば、100株と記載すべきところを1,000株と記載したような場合)、かつ当該超過記載が行われた株式について他の株主が善意取得12した場合、全ての株主が保有する振替株式の総数が、発行済株式総数を超える事態が発生し得ます。この場合、当該超過記載を行った振替機関等は、超過数(上記事例では900株)の振替株式を取得し、発行会社に対して、当該振替株式についての権利の全部を放棄する旨の意思表示をする義務を負います13。
さらに、振替機関等が上記の義務の全部を履行するまでの間、当該振替機関等及びその下位機関の加入者である各株主は、超過分に保有割合を乗じた部分14について、発行会社に対抗することができず、権利の行使ができないこととされています15。株主にとっては、自らの与り知らぬところでその保有株式数が縮減することで、少数株主権等の行使要件である保有株式数や保有期間が満たされず、少数株主権等が行使できないという事態が生じ得る点に注意が必要です。
なお、超過記載を行った振替機関等が上記の義務を全て果たした場合には、少数株主権等の継続保有要件との関係では、かかる超過記載は当初より存在しなかったものとして扱われるので16、少数株主権等の行使に影響はありません。
1. 社債、株式等の振替に関する法律(以下「振替法」という。)147条4項。
2. 会社法116条等。
3. 会社法297条1項。
4. 振替法154条。
5. 受付票には、株主の氏名・名称及び住所、振替機関等の名称、申出受付日、受付番号、対象銘柄等が記載される(株式等の振替に関する業務規程(以下「業務規程」という。)154条4項)。
6. 個別株主通知では、申出を行った株主の氏名・名称及び住所、振替口座簿に記載された株式数、増加・減少の記録(日付を含む。)等の事項が通知される(振替法154条3項、129条3項6号)。
7. 株式等振替制度に係る業務処理要領によれば、個別株主通知の請求後、最短で4営業日目に機構から発行会社宛てに個別株主通知がなされることになる。
8. 振替法154条2項、社債、株式等の振替に関する法律施行令(以下「振替法施行令」という。)40条。なお、2週間の期間要件については、個別株主通知(上記④)が発行会社に到達した日の翌日を起算日として計算する。
9. 業務規程154条。
10. 個別株主通知には、申出受付日の前日から起算して6か月と14日前の日から申出受付日の前日までの期間の保有株式数及びその増減履歴が記載される(業務規程154条19項、8項1号、株式等の振替に関する業務規程施行規則204条)ため、発行会社は、株式の継続保有要件のある少数株主権等の行使については、個別株主通知の内容をもって保有要件を確認することができる。また、個別株主通知の申出から少数株主権等が実際に行使されるまでには一定のタイムラグが生じることから、発行会社は、情報提供請求権を行使して、少数株主権等を行使した株主が当該権利行使時点においても株主であることを確認することができる(振替法277条後段、振替法施行令84条、社債、株式等の振替に関する命令61条2号。なお、日本証券業協会証券決済制度改革推進センターにより公表された「総株主通知等の請求・情報提供請求における正当な理由についての解釈指針」参照)。
11. 神田秀樹監修・著「株券電子化 その実務と移行のすべて」(2008年)151頁参照。また、本人確認用証明資料や委任状も必要になる(上記株式取扱規程モデル第10条)。なお、個別株主通知において機構が発行会社に対して提供する情報について6か月に14日を加算することとしている(注10参照)が、これは複数の株主が共同して少数株主権等を行使する場合、同時に複数の株主が個別株主通知の申出の取次ぎを請求しても、それぞれの個別株主通知が発行会社に同時に到達するとは限らないため、共同行使に必要な継続保有要件の確認が可能となるよう配慮したものとされる(同掲・154頁参照)。また、複数の株主が少数株主権等を共同して行使しようとする場合には、その旨を示して行うものとされている(株式等振替制度に係る業務処理要領第2章第10節)。
12. 振替法144条。
13. 振替法145条、146条。これによって、権利を有する振替株式総数と発行済株式総数が一致する。
14. 全体の超過数に、各株主が保有する株式数が当該振替機関等及びその下位機関が保有する全ての株式数に占める割合を乗じて算出される株式数。
15. 振替法147条1項、148条1項。
16. 振替法147条4項、148条4項。
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