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2004. 09.01

出願経過禁反語の新しいCAFC判決の分析と実務ガイド(知財管理 Vol.54 No.7 2004 掲載)

アレックス・シャトーヴ (Alex Chartove)*
訳者 伊東忠彦*
伊東忠重*

抄録: 米国特許法において、均等論と出願経過禁反言との間には、基本的な問題がある。均等論は、特許権者が特許クレームの文言上の範囲を超えて特許権を行使することを許容するものである。一方、出願経過禁反言は、権利行使を当該クレームの文言上の範囲に厳格に制限するものである。近年、米国の裁判所は、2つの対立する理論における基本的な問題に取り組んできた。本論文は、この対立に影響を与える最も最近の米国の判決、即ち、Festo Corporation v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Companyにおける米国連邦巡回控訴裁判所の判決から実務的な検討のガイドを報告するものである。

目次

1.序
2.問題となっている特許
3.出願経過禁反言の分析
3.1 問題1
3.2 問題2
3.3 問題3
(1) 予見可能性
(2) 希薄な関連性
(3) その他の理由
4.特許に適用する分析的手順
4.1 「磁化可能」の補正
(1) 予見可能性
(2) 希薄な関連性
(3) その他の理由
4.2 「一対」のシール・リングの補正
(1) 予見可能性
(2) 希薄な関連性
(3) その他の理由
5.結論

1.序

均等論の下では、特許発明と同一でない製品又はプロセスであっても、当該製品又はプロセスと当該特許発明とが、十分な近似性を有すれば、米国特許の侵害は成立し得る。しかしながら、特許権者は、常に均等論を適用できる訳ではない。出願経過禁反言論の下では、特許権者は、特許出願審査過程で放棄した事項についての特許保護を得るために、訴訟において均等論を適用することはできない*1。従って、特許出願過程において特許権者によってなされた特許クレームの補正は、特許権者が後に均等論の下で認められる均等の範囲を制限する。
均等論と出願経過禁反言との関係について、幾つかの基本的な問題を提起する。例えば、どのような状況下で、特許クレームに対する補正は禁反言を引き起こすのか?出願経過禁反言が存在する場合に、特許権者は均等論の下で侵害を主張することを完全に阻まれるのか?出願経過禁反言が存在するにもかかわらず、特許権者が均等論の下で侵害を主張できる状況はあるのか?
これらの基本的な問題の幾つかは、Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co. (344 F. 3d 1359 (Fed. Cir. 2003). 判決日:2003年9月26日。以下、「Festo VIII」という。).*2における米国連邦巡回控訴裁判所(以下、「CAFC」という。)*3の最近の判決において考察されている。このFesto VIIIにおけるCAFCの判決に対する詳細な説明を、以下に記す。続いて、出願経過禁反言は特許権者が均等論の下で侵害を主張することを妨げるのかどうか、及びどの程度妨げるのかを評価する際に考えなければならない幾つかのガイドラインについて述べる。

2.問題となっている特許

Festo VIIIでの議論は、移動品用の機械装置に関する2つの特許、即ち、米国特許第4,354,125 号(以下「'125 特許」という)及び米国特許第3,779,401号 (以下「'401 特許」という)に関するものである。'125 特許において、議論は、「磁化可能材料から成るスリーブ」に加え、「第1のシール・リング」及び「第2のシール・リング」というクレームの用語に焦点を当てた。'401 特許における重要なクレームの用語は、「一対の弾性シール・リング」である。
'125 特許として発行された出願のクレーム1は元々、被駆動部品を備えたモータを記載していた。出願手続において、特許権者は、被駆動部材は「磁化可能材料から成る」スリーブを含むという限定を加えてクレーム1を補正した。
侵害被疑品は、アルミニウム、即ち、非磁化可能材料から成るスリーブを含んでいた。訴訟において、特許権者は、非磁化可能なアルミニウムのスリーブは、クレームの磁化可能材料から成る」スリーブと均等であり、従って、'125 特許のクレーム1は均等論の下で侵害されていると主張した。侵害被疑者は、スリーブは磁化可能材料から成ることを必要とするクレーム1の補正は出願経過禁反言を形成し、侵害被疑品であるアルミニウムのスリーブの均等物によって侵害であるとの主張は成り立たないと応答した。
加えて、'125 特許として発行された出願のクレーム1は元々、各端部にシール手段を備えたピストンを含むモータを記載していた。出願手続において、拒絶への応答で、特許権者はクレーム1を補正し、「第1のシール・リング」及び「第2のシール・リング」を記載した。'401 特許として発行された出願のクレーム1はシール・リングについて言及していなかった。出願手続において、特許権者はクレーム1を補正し、「一対の弾性シール・リング」を追加した。
侵害被疑品は、単一のシール・リングを備えたモータを含んでいた。訴訟において、特許権者は、侵害被疑品の単一のシール・リングは、クレームの一対のシール・リングと均等であり、従って、均等論の下で侵害であると主張した。侵害被疑者は、「第1」及び「第2」のシール・リング又は「一対」のシール・リングを要求するクレーム1の補正は、出願経過禁反言を形成し、侵害被疑品たるシール・リングの均等物によって侵害であるとの主張は成り立たないと応答した。

3.出願経過禁反言の分析

Festo VIIIにおいてCAFCが行った主な論点は、出願経過禁反言は、特許権者が均等論に頼ることを妨げるものか否かである。CAFCは、裁判所が出願経過禁反言が成立するか否かを決定するために使わなければならない手続、及び出願経過禁反言が成立する場合の均等論に対する禁反言の影響について説明している。この手続では、以下の3つの問題を扱う。

3.1 問題1

問題のクレームの補正は、当該クレームの範囲を減縮する効果を与えるものか?もし、答えが「ノー」であれば、当該補正はクレームの範囲を減縮せず、出願経過禁反言は成立せず、特許権者は侵害を主張するために均等論に頼ってもよい。逆に答えが「イエス」であれば、当該補正はクレームの範囲を減縮し、問題2につき検討しなければならない。

3.2 問題2

クレームの補正の理由は何か?補正がクレームの特許性に関連する理由のために為されたことが明らかであれば、出願経過禁反言が成立する。残された唯一の問題は、均等論における禁反言の効果に関係する(以下の問題3参照)。
補正の理由が不明確であれば、裁判所は、最初に、当該補正はクレームの特許性に関連する理由のために為されたと、推定しなければならない。この推定は反駁可能なものである。特許権者は、当該補正はクレームの特許性に関連しない理由のために為されたことを論証する証拠及び主張により当該推定を覆すことができる。この推定を覆そうとするのに、特許権者が用いるのは、内部(intrinsic)証拠、即ち、特許、特許出願経過、及び出願経過で引用された先行技術文献に限定された証拠に制限される。
特許権者が、当該補正はクレームの特許性に関連しない理由のために為されたことを論証することに成功した場合は、当該推定は反駁されたことになる。当該推定が反駁されれば、出願経過禁反言は成立せず、特許権者は、侵害を主張するために均等論に頼ることができる。しかしながら、特許権者が当該推定を反駁できなければ、出願経過禁反言は成立し、問題3につき検討しなければならない。

3.3 問題3

禁反言の効果は何か?この問題は、出願経過禁反言が、特許権者が均等論の下で侵害を主張する可能性を制限する度合に焦点を当てている。換言すれば、クレームの範囲を減縮する補正の結果として、どの主題が放棄されるのか?
この問題に答えるにあたり、裁判所は、最初に、当該補正は、補正前のクレームと補正後のクレームの範囲の差異を100%放棄するという効果があることを推定しなければならない。この推定は反駁可能なものである。特許権者が100%放棄の推定を反駁できなければ、完全な出願経過禁反言が成立する。換言すれば、特許権者が100%放棄の推定を反駁できなければ、特許権者は、権利主張された均等な要素によって侵害が成り立つための均等論に頼ることができない。一方、特許権者が100%放棄の推定を反駁できれば、出願経過禁反言は成立しない。100%放棄の推定が反駁されれば、特許権者は、権利主張された均等な要素が実際は問題のクレーム制限と均等であることを証明することが認められる。
100%放棄の推定が反駁されたか否かの問題は法律の問題であり、裁判官によって判断され、陪審員によっては判断されない。
CAFCは更に、特許権者が100%放棄の推定を反駁できる以下の3つの状況を述べている。

(1) 予見可能性

特許権者は、均等であると権利主張する対象が、補正時において、当業者に予見可能ではないことを論証することによって100%放棄の推定を反駁できる。この質問は客観的なものであり、予見可能性は、補正時における仮の当業者の観点から判断されるものであることを意味する。予見可能性は、発明者の観点から判断されるものではない。権利主張されている均等物の予見可能性を調べるにあたり、裁判所は、専門家証人の証言を含む内部証拠及び外部(extrinsic)証拠の双方を考慮することができる。例えば、裁判所は、補正時における技術水準、業界のレベル、及び仮の当業者の理解レベルについての専門家証人の証言を考慮することができる。

(2) 希薄な関連性

特許権者は、補正の理由が、権利主張されている均等物と殆ど関係がないことを論証することによって100%放棄の推定を反駁できる。換言すれば、 100%放棄の推定は、補正の理由が、クレーム発明を権利主張された均等物とは区別することに関係していないことを論証することによって反駁できる。例えば、補正が、権利主張された均等物を包含する先行技術を回避するためにされたものである場合は、上記関係は希薄であるとは言えない。希薄な関連性のテストは、内部証拠に基づいて評価されなければならない。しかしながら、裁判所が内部証拠の理解及び解釈にあたり助けが必要な場合には、裁判所は当業者の証言を聞くことができる。

(3) その他の理由

特許権者は、権利主張された均等物を特許出願中に記載していなかったその他の理由を論証することによって100%放棄の推定を反駁できる。例えば、技術が極めて新しく異なっている場合に、文章で発明の全てをクレームするために適切な英語での用語を用いることができないことは、理論的にはあり得る。理論的には、この適切な用語の欠如は、特許権者が権利主張された均等物を特許出願中に記載していないことを説明する理由になる。その他の理由のテストは、比較的漠然としており、従って比較的狭い。権利主張された均等物が実際には先行技術中に示されている場合には、特許権者はその他の理由のテストに頼ることができない。その他の理由のテストを評価するに当たり、事実審裁判所は、内部証拠を基に評価をする。

4.特許に適用する分析的手順

特許権者が100%放棄の推定を反駁できる3つの方法を説明したが、CAFCはFesto VIIIにおいて特許権者が当該100%放棄の推定を反駁できるか否かを検討している。

4.1 「磁化可能」の補正

'125 特許として発行された出願のクレーム1は元々、被駆動部品を備えたモータを記載していた。出願手続において、特許権者は、クレーム1に対して、被駆動部材は「磁化可能材料から成る」スリーブを含むという限定を加える補正を行った。
この補正が、(1)クレームの範囲を減縮すること、及び(2)特許性に関係する理由でなされたことは明白であった。従って、特許権者は、元々の補正されていないクレームと補正後のクレームの範囲との差異の100%を放棄したことが推定される。換言すれば、特許権者は非磁化可能材料から成る全てのスリーブを包含する特許を放棄した、ということが推定される。
侵害被疑品は、アルミニウム、即ち、非磁化可能材料から成るスリーブを備えていた。論点は、特許権者が100%放棄の推定を反駁できるか否かであった。 100%放棄の推定を反駁できないと、特許権者は、権利主張されたアルミニウムのスリーブの均等物によって侵害を主張するために均等論に依拠することができない。100%放棄の推定を反駁するために特許権者は、侵害被疑スリーブは「磁化可能材料から成る」スリーブと均等であることを証明するために証拠を導入することができる。
CAFCは、下記の理由から、希薄な関連性のテスト及びその他の理由のテストの双方の下で、特許権者は100%放棄の推定を反駁できなかったと結論付けた。予見可能性のテストに関しては、CAFCは、追加的証拠なしに判断できないと結論付けた。CAFCは、本件を事実審裁判所に差戻し、当事者は上記の如き証拠を導入することになる。

(1) 予見可能性

特許権者は、「磁化可能」の補正時において、アルミニウムのスリーブは当業者に予見可能ではなかったと主張した。
CAFCは、その問題、即ち、「補正時において、アルミニウムのスリーブは当業者に予見可能であったか」は事実問題であると述べている。この事実問題に対する答えは、両当事者から示された証拠及び専門家証言に依拠する。Festo VIIIにおいて、CAFCは、何れの当事者とも、この事実問題に対する証拠及び専門家証言を導入するための機会がなかった、と結論付けた。従って、CAFCは本件を事実審裁判所に差戻したので、両当事者はそのような証拠を導入することができ、予見可能性の問題はその証拠に基づいて判断されることになった。

(2) 希薄な関連性

特許権者は、「磁化可能」という限定は、米国特許法112条第1パラグラフを根拠とする拒絶への対応としてなされたものと主張した。即ち、特許権者は、「磁化可能」という限定は、先行技術との差異を出すために又はクレームの範囲から特別な主題を除くために入れられたものではなかったと主張した。
CAFCは、特許権者が誤って主張をクレームの限定と当該限定の理由に焦点をあてたことを述べ、この主張を却下した。しかしながら、希薄な関連性のテストの下では、議論は、クレームの限定と権利主張されている均等物(当該限定の理由ではない)の関係について焦点をあてなければならない。Festo VIIIでは、特許権者は、如何にして「磁化可能」という限定は、権利主張されているアルミニウム・スリーブの均等物に対して関係がないという説明ができていない。CAFCは、法律の問題として、特許権者は、希薄な関連性テストを満足していないと結論付けた。

(3) その他の理由

特許権者は、アルミニウム・スリーブの設計は、劣っていて許容できず、特許権者に、劣っていて許容できない設計を文言上包含するクレームを作成することを要求することは不合理だと主張した。
CAFCは、特許権者はアルミニウム・スリーブの均等物を文言上包含するクレームを作成できたはずであるとし、この主張を却下した。しかしながら、補正時において、特許権者は、アルミニウム・スリーブは劣っていて発明の一部ではないとみなしているため、アルミニウム・スリーブの均等物を包含するクレームを作成しないことを選択している。CAFCは、特許権者がアルミニウム・スリーブの均等物を文言上包含するクレームを作成することを妨げる他の理由を見出していない。従って、CAFCは、法律の問題として、特許権者は、その他の理由テストを満足していないと結論付けた。

4.2 「一対」のシール・リングの補正

'125 特許として発行された出願のクレーム1は元々、「各端部にシール手段」を備えたピストンを含むモータを記載していた。出願手続において、拒絶理由への応答で、特許権者はクレーム1を補正し、「第1のシール・リング」及び「第2のシール・リング」を記載した。
'401 特許として発行された出願のクレーム1はシール・リングについて言及していなかった。審査過程において、特許権者はクレーム1を補正し、「一対の弾性シール・リング」を追加した。侵害被疑品は、単一のシール・リングを含んでいる。
この補正が、(1)クレームの範囲を狭めること、(2)特許性に関係する理由でなされたことは明白である。従って、特許権者は、元々の補正されていないクレームと補正後のクレームの範囲との差異の100%を放棄したことが推定される。換言すれば、特許権者は2つのシール・リングよりも少ないシール・リングを備えた全ピストンをカバーする特許を放棄した、ということが推定される。
侵害被疑品は、単一のシール・リングを備えている。論点は、特許権者が100%放棄の推定を反駁できるか否かである。100%放棄の推定を反駁できないと、特許権者は、権利主張された単一のシール・リングの均等物により侵害を成立させるために均等論に頼ることはできない。100%放棄の推定を反駁できれば、特許権者は、実際には侵害被疑の単一シール・リングはクレームの「一対の」シール・リングと均等であることを証明する証拠を導入することができる。
CAFCは、下記の理由から、希薄な関連性のテスト及びその他の理由のテストの双方の下で、特許権者は100%放棄の推定を反駁できなかったと結論付けた。予見可能性のテストに関しては、CAFCは、追加的証拠なしに判断できないと結論付けた。CAFCは本件を事実審裁判所に差戻し、当事者は上記の如き証拠を導入することになった。

(1) 予見可能性

特許権者は、「一対の」の補正時において、単一のシール・リングは当業者に予見可能ではなかったと主張した。
CAFCは、その問題、即ち、「補正時において、単一のシール・リングは当業者に予見可能であったか」は事実問題であると言及している。この事実問題への答えは、両当事者から示された証拠及び専門家証言に依拠する。Festo VIIIにおいて、CAFCは、何れの当事者とも、この事実問題への証拠及び専門家証言を導入するための機会を与えられていない、と結論付けた。従って、CAFC は、本件を事実審裁判所に差戻したので、両当事者はそのような証拠を導入することができ、予見可能性の問題はその証拠に基づいて判断され得る。

(2) 希薄な関連性

特許権者は、「一対の」という限定は、米国特許法112条第1パラグラフを根拠とする拒絶理由への応答としてなされたものと主張した。即ち、特許権者は、「一対の」という限定は、先行技術に打ち勝つために又はクレームの範囲から特別な主題を除くためになされたものではないと主張した。
CAFCは、出願経過では、ゼロ・シール・リングを開示する先行技術文献が明らかにされているとして、この主張を却下した。CAFCは、「一対の」という限定を入れた1つの理由は、クレームされた発明は複数のシール・リングを必要とし、先行技術はゼロ・シール・リングを必要とするというように、シール・リングの数に基づいてクレームされた発明と先行技術とを区別するためであると結論付けた。Festo VIIIでは、特許権者は、如何にして「一対の」という限定が、権利主張されている単一のシール・リングの均等物の範囲外であるかという説明ができていない。CAFCは、法律の問題として、特許権者は、希薄な関連性テストを満足していないと結論付けた。

(3) その他の理由

特許権者は、単一のシール・リングの設計は、劣っていて許容できず、特許権者に、劣っていて許容できない設計を文言上包含するクレームを作成することを要求することは不合理だと主張した。
CAFCは、特許権者は単一のシール・リングを文言上包含するクレームを簡単に作成できたはずであるとし、この主張を却下した。CAFCは、特許発行時の「一対の」というクレームの限定と、権利主張されている単一のシール・リングとの差異は、単純に量の相違であるとした。特許権者にとって、「一対の」シール・リングを要求するよりも、「少なくとも1つのシール・リング」を要求するクレームを作成することはずっと容易である。しかしながら、特許権者は、補正時において、単一のシール・リングは劣っていて発明の一部ではないと考えているため、単一のシール・リングを包含するクレームを作成しないことを選択している。CAFCは、特許権者が単一のシール・リングを文言上包含するクレームを作成することを妨げる他の理由を見出していない。従って、CAFCは、法律の問題として、特許権者は、その他の理由テストを満足していないと結論付けた。
要約すれば、CAFCは、特許権者は、希薄な関連性テスト及びその他の理由テストの双方の下で、100%放棄の推定に反駁していないと結論付けた。予見可能性テストに関しては、CAFCは、追加的証拠なしに結論はだせないとしている。従って、CAFCは、本件を事実審裁判所に差戻したので、両当事者はそのような証拠を導入することができ、予見可能性の問題はその証拠に基づいて判断され得る。

5.結論

米国特許を取得又は権利行使を試みる者と、均等論の下での特許権侵害の主張に対して防御を求める者は、Festo VIIIを研究し、以下のガイドラインを慎重に考慮することを強くお薦めする。

(1)100%放棄の推定を反駁するための3つの方法のうち、予見可能性テストは、特許権者に多大な実務的効果が得られると思われる。これは、CAFCが外部証拠及び専門家証人の使用を明白に奨励するという、3つのテストのうち唯一のものである。

(2)希薄な関連性テスト及びその他の理由テストを内部証拠の使用に制限することにより、CAFCは、特許権者にとってこれらのテストの実務的価値を著しく制限した。理論的には、特許権者は、3つのテストのうち、単独でも組合せでも、どれかに依拠することにより、100%放棄の推定に反駁することができる。しかしながら、実務的には、Festo VIIIの決定中で説明された例に基づき、特許権者がその他の理由テストだけに基づいて100%放棄の推定を反駁することができる状況を予見することは難しい。

(3)訴訟においては、100%放棄の推定は、均等論の下で侵害を証明しようとする特許権者に戦略的負担を課すものである。特許権者にとってこの推定に反駁することは可能であるが、反駁には、時間がかかり高い費用がかかる。従って、出願手続において、特許出願人は、クレームに対する補正の効果を慎重に考慮しなければならない。各補正についてのこのような慎重な考慮は、出願手続における費用の増加を招くが、この増加する費用は、100%放棄の推定を反駁するために必要な費用に対して重要であることは間違いない。
Festo VIII判決においてCAFCによって提案され、本論文において示されたガイドラインを熟考することによって、出願経過禁反言は特許権者が均等論の下で侵害を主張することを妨げるのか、どの程度妨げるのかという問題に対する幾つかの有用な答えを得ることができる。

註記

*1 本論文では、「出願手続」は、特許が出願され獲得されるためのプロセスを意味し、「出願経過」は、特許出願審査処理中に特許権者と米国特許庁との間で行われた文書の記録を意味する。
*2 Festo Corporation v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Company, 344 F. 3d 1359 (Fed. Cir. 2003)参照。この事件は、連邦最高裁判所の差戻しにより、CAFCの大法廷で判決がなされた。1988年以来、Festo Corporationと燒結金属工業株式会社(SMC Corporationとしても知られている)との間の特許権侵害論争では、均等論と出願経過禁反言を取り上げて8つの判決が出た。これまでのフェスト判決は以下のものを含む。Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., No. 88-1814-PBS (D. Mass. Oct. 27, 1994) (Festo I); Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., 72 F.3d 857 (Fed. Cir. 1995) (Festo II), vacated and remanded, 520 U.S. 1111 (1997) (Festo III); Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., 172 F.3d 1361 (Fed. Cir. 1999) (Festo IV); Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., 187 F.3d 1381 (Fed. Cir. 1999) (Festo V); Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., 234 F.3d 558, 563 (Fed. Cir. 2000) (大法廷) (Festo VI); Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., 533 U.S. 915 (2001) (Festo VII).
*3 法律により、米国連邦巡回控訴裁判所の判決は、全ての米国特許の論争をコントロールする。28 U.S.C. § 1295(a)参照。従って、米国連邦巡回控訴裁判所(「Federal Circuit」、「Fed. Cir.」又は「CAFC」とも言われる)は、一般的に、特許法の問題に関し、もっとも重要な米国裁判所として認識されている。

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