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2006. 01.15

米国特許出願に基づくライセンス売り込みへの対応方針について(「知財管理」Vol. 55 No.13 2005 掲載記事)

ブレット G. アルテン*
ジェームズ E. ハフ**
チャールズ D. ホランド***
長沢 幸男(和訳監修)****

*この記事についての英語の解説When Unsolicited Licence Requests Spell Dangerはこちらをクリック

抄 録 本稿は、企業が、公開又は非公開の米国特許出願に基づくライセンス売り込みを受けた際に、直面するリスクと、これに対する対応を、簡潔に説明するものである。また、本稿は、企業が、このようなリスクを検討するに際しての政策上の選択肢を、筆者らの助言を含めて提供するものである。
係属中の米国特許出願について、頼みもしないライセンスの売り込みを受ける企業は少なくない。未だ特許となっていないため、売り込まれているライセンスの価値が不明であり、また、このような売り込みは個人または小規模の非公開企業からの場合がほとんどであるため、単に煩わしい売り込みだとして安易に拒絶されることが多い。しかし、最近の米国特許法の改正に鑑みて、このような売り込みに対しては、かかる特許出願が後に特許として成立した場合に多額の損害賠償を命じられるリスクを抑えるべく、社内で対応方針を定めた上で体系的に処理する必要があると考える。
本稿では、関連米国法の概要とともに、米国特許出願に基づく一方的なライセンスの売り込みを受けて対応する際に直面することとなるリスクについて解説する。また、それらのリスクへの対抗策となるいくつかの社内方針案について、推奨策を含めて後述する。

目 次
  1.関連米国法とリスクの特定
    1.1 公開特許出願
    1.2 非公開特許出願
  2.対応方針案および推奨策
    2.1 全ての書簡の検討拒否
    2.2 全ての書簡の検討−評価契約の締結を条件として
    2.3 検討の対象を公開特許出願に限定

1. 関連米国法とリスクの特定
米国特許出願には、公開と非公開の2種類がある。米国法上の取扱いが異なるため、それぞれ特有の問題およびリスクが存在する。

1.1 公開特許出願
2000年11月29日に米国発明保護法*1が施行され、最先の優先日から18ヶ月経過後の米国特許出願が公開されることになった*2
特許が発行されるまで侵害が発生することはないが、特許出願の公開により、特定の場合に、特許成立の際は侵害に当たる行為に対して、出願人が実施料を請求できる。この「暫定的権利(provisional rights)」は、米国特許法第154条(d)項に規定されており、特許出願の公開から特許発行までの期間有効である。しかし、米国特許法第284条により、特許権者は特許発行前に(故意の侵害と判断された場合等でも)第154条に基づく加重賠償を受けることはできない*3
米国特許法第154条において、誘発行為や寄与侵害行為に対して実施料が課せられ得るかは不明りょうである。これらの行為については、制定法でも立法過程においても一切言及がなく、仮保護の権利との関連では判例もない。第154条に誘発行為および寄与侵害行為を盛り込む意図が米国議会にあったのなら、制定法中でこれらを明示的に包含させたはずであると解するのが合理的である。
第154条では、特許権者が特許出願で公開した発明に関する実施料について暫定的権利を行使できるのは、(i)出願人が公開された特許出願の「実際の通知」を潜在的侵害者に行った場合、かつ(ii)成立した特許のクレームが特許出願におけるクレームと「実質的に同一」である場合に限られる。これらの要件については、以下に詳述する。

(1) 実際の通知
米国特許法第154条(d)項(1)号(b)により、特許出願人は、侵害者に対し「公開された特許出願の実際の通知」を行うことが求められる。制定法では、「実際の通知」とは何かが規定されていないが、その立法過程によれば、「公開出願の出願人は、被疑侵害者に対して、公開された特許出願について実際の通知を行い、いかなる行為により暫定的権利が発生するかを説明する必要がある」*4
第154条の「実際の通知」の要件について解釈を示した判決で公表されているものは見当たらない。裁判所は実際の通知の要件を明確化するにあたり、米国特許法第287条(a)項の判例に依拠する可能性がある。第287条(a)項によれば、損害賠償の算定は、侵害者が侵害の実際の通知を受領した日付にまで遡る。連邦巡回区控訴裁判所は、この関連で、実際の通知とは、特許権者が特許を特定し、侵害に該当すると信じる行為につき、ライセンスその他による侵害排除の提案とともに通知することと解釈している*5。第287条(a)項を満たすためには、「[侵害したとされる者に対して]具体的な製品または装置による侵害について具体的な主張を積極的に伝えること」が必要である*6

(2) 実質的に同一
また、妥当な実施料を受ける暫定的権利は、発行された特許のクレームが公開された特許出願におけるクレームと「実質的に同一」でなければならないという要件により制限されている*7。「実質的に同一」という要件は、仮保護の権利の範囲を制限することを意図しているが、現在のところ、これに関する判例がないため、何をもってして「実質的に同一」と判断するかは不明確である。

(3) 潜在的リスク
このように、個人または非公開企業から1件以上の公開特許出願についての書簡が送りつけられた場合、受領企業に数々の潜在的なリスクをもたらす。
公開特許出願を特定した書簡が第154条の「実際の通知」に該当し、発行された特許に侵害されているクレームが含まれ、それが公開特許出願と実質的に同一である場合、実際の通知から特許の成立までの期間についての損害賠償が発生する可能性がある。また、特許の成立前にかかる書簡が届いた場合でも、当該書簡は第287条における侵害の「実際の通知」に該当するリスクがある。この場合、特許発行とともに損害賠償義務が発生する恐れがある。
さらに、特許発行前については、特許権者は加重賠償を得ることはできないが、特許発行後は認められる可能性がある。これは、当該書簡が特許発行前に届いていても、故意侵害の認定に当たって、受領企業は既に当該特許について知らされていたと解釈される可能性があるためである*8。例えば、当該個人から連絡を受けていて、侵害しているクレームが特許出願に含まれていたものと実質的に同一だったような場合には特に、陪審は、当該企業が、発行された特許を見ず、その影響も評価しなかったとは信用しないであろう。

1.2 公開特許出願
米国特許の出願人は、米国外での特許権取得を意図していない場合を除き、その特許出願を公開しなければならない*9。非公開の要請がされた場合は、米国特許商標庁はその特許出願の秘密を保持することになっている*10
出願人が出願内容を秘密情報とした場合、特許出願に含まれる情報は営業秘密に該当する可能性がある。企業にそのような営業秘密が開示されると、場合によっては、特に非公開特許出願に含まれる情報が秘密情報であると知っていたか、知っているべきだった場合、黙示の秘密保持義務を負わされるリスクがある。
例えばカリフォルニア州では、保護されうる対象であるか否かを問わず、アイディアを他者に秘密情報として提供し、提供先がそれを自主的に秘密情報として受領し、(1)当該アイディアは他者に対して非開示とする、かつ(2)提供先は提供者の承諾がなければ使用できないという理解があった場合は、「秘密保持義務違反」での提訴が可能となる*11。ただし、アイディアを他者に提供しただけでは、秘密保持義務は発生しない。秘密保持義務の発生を推察させる証拠がなければならない。しかし、残念ながら、情報提供者側が秘密保持を期待する旨を伝え、提供先がその期待に沿った行動を取っただけで、秘密保持義務の発生が推察され得る。例えば、ある企業が「アイディア」を探し求めていた、そして、ある単独の発明者が、承諾なしでは開示しない、または使用しないとの条件で「アイディア」を提供したとの証拠があった場合、それらは秘密保持義務が課されていたことの証拠であるとされる可能性がある*12
したがって、送りつけられた書簡に情報の秘密保持を求める旨が記載されている場合、特に他の証拠(当該書簡の受領後に秘密保持の要請にある程度従った行動を取る等)との組み合わせにより、受領企業はその情報を秘密に保持し、承諾を得なければ使用しないとの義務を負わされるおそれがある。また状況によっては、開発のために情報が「信託」され、当該企業はそれを受託した裁判所が判断する場合、当該書簡の受領により、発明者に対する信託受任義務を負わされる可能性もある。

2. 対応方針案および推奨策
個人または非公開企業から送りつけられる書簡の取扱い方法は色々あるが、それぞれに独自の長所・短所がある。

2.1 全ての書簡の検討拒否
一つの極端な方法としては、公開か非公開かを問わず、係属中の特許出願については一切ライセンスの協議に応じないとの方針を取ることである。この場合、個人または非公開企業から書簡が届いた際には、その書簡を返送するとともに定型の書面により、会社の方針として、一方的に売り込まれる特許化されていない技術の購入やライセンスは行わないことを述べる。その際、その個人に対して出願中の技術の特許が取得されたら後日連絡するよう要請するのも一案である。

2.2 全ての書簡の検討−評価契約の締結を条件として
また他方の極端な方法として、公開でも非公開でもすべての特許出願を検討するとの方針も、評価契約の締結を条件として可能である。ただし、この場合、まず最初に定型の書面で回答し、書簡を受領する前提を明記する。そして、一方的に送りつけられてきた書簡に対する当該企業の対応方針を説明し、出願人に、当該企業がより安全に当該技術を評価できるよう評価契約の締結を求める。

2.3 検討の対象を公開特許出願に限定
しかしながら、総合的に考えて、筆者らは中道的な方針を採用することを推奨する。後述の通り、それにより、すべての書簡を完全に拒否する場合や、実質的に全部を検討する場合に付随するリスクを軽減することができる。また同時に、将来性のある新規技術を早期に知ることができる。これは早期公開制度の主な目的の一つである。
ここで推奨したい方針は、二段階の手続きを有する。まず書簡が届いたら、すべて、定型の書面を添付した上で機械的に返送し、書簡の内容は未検討であり、評価契約を締結しないと一方的に送りつけられた書簡は受領しない旨を明らかにする(また当該書面において、インターネット上の当該企業認定の提出画面から公開特許出願を再提出するよう出願人に指示することも可能)。評価契約書案を添付して、当該書簡を返送する最初の書面を社外弁護士に発信させるのもそれなりの価値があるかもしれない。社外弁護士を使うことで、秘密情報の受領に内在するリスクの軽減にも役立つ場合がありうる。
次に、発行済みの特許または公開特許出願に関わる書簡が、適切な署名がされた評価契約書を伴って再提出された場合には、当該公開技術内容を検討する。いかなる場合でも、非公開特許出願は検討の対象としない。下記にそれぞれの手続について詳述する。
上記の通り、第一段階で使用する定型の書面により、書簡の内容は未検討であり、会社の方針として、一方的に送りつけられる書簡は受領しない方針を明らかにする。また当該書面には、会社方針として秘密保持義務を伴う可能性のある情報の受領には同意せず、かかる情報の秘密を保持する義務は負わないことを明記する。したがって、出願人がそれでも発明の利点について検討してもらいたい場合には、公開特許出願しか検討の対象にしないことを定型の書面で説明しておく。つまり出願人は、秘密情報に相当すると考えられる情報を取り除いた上で、署名済みの評価契約書を添えて公開特許出願を再提出する必要がある。かかる定型の書面に評価契約書のコピーを添付してもよい。
評価契約において、すべての情報を倫理的に扱い、当該個人が特許法・著作権法・商標法に基づいて有するか取得する権利を尊重することを約束する。さらに会社が当該個人とライセンスその他の契約を締結しないと決定した場合、または双方が契約条件を合意できない場合には、会社が提出書簡を破棄するか返送することを盛り込んでもよい。最後に、評価契約において、自社で契約開発を積極的に行っており、したがって従業員が最初の提出書簡に接した際に記憶したかもしれない残留情報の使用については法的責任を負わないこと、ならびに既に所有する情報、第三者から受領済みの情報および独自に開発した情報についてはなんらの義務も負わないことを規定することもできる。さらに評価契約には損害賠償を有利に制限する条項、法廷地選択条項、その他の「一般条項」を盛り込むこともできる。
上記の方針が望ましい理由はたくさんある。まず、非公開の特許出願は検討しないことで上記した「秘密保持義務違反」および不正使用の類の主張を受けるリスクを減らすことができる。第二に、少なくも、特許出願中の技術の侵害を回避する設計を行い、また恐らくは大幅な割引でライセンス供与を受ける選択ができるため、公開期間中の損害賠償義務の発生および特許期間中の侵害のリスクを抑えることができる。第三に出願中の特許について知っていれば、特に社外弁護士から非侵害または特許無効の鑑定を取得しそれに依拠していた場合には加重賠償命令のリスクも軽減できる。第四に、当該技術について早く通知を受けられるため、技術評価を行った上で、その技術が特定の市場での自社の活動を阻害する可能性があるか、事業計画上、高いライセンス料を将来支払う必要が出てくるかを判断できる有利な立場に立つことができる。上記の二段階の手続は、管理上も実施が容易で、かかる書簡の回答に携わる担当者の数も減らせる。このような書簡の数が増えた場合には、これは重要な要素となりうる。
上記の方針にはある程度のリスクもある。書簡を返送することで、当該企業は出願人から秘密情報を受領したことがなかったことを後で証明しようとした場合、証拠上の問題を生ずる可能性がある。しかし社外弁護士の利用でこのリスクも軽減できる。社外弁護士は、当該企業がその書簡に「汚染」されるリスクなしに、そのコピーをファイルに保管し得るためである。また、会社が同様の技術を独自に開発し実施した場合でも、当該出願人は情報が不正利用されたと勘違いして当該企業を提訴する可能性があり、その場合は防御に大変な費用を要する。設計担当または製品設計に影響力のある担当者が当該情報に接触した場合で、特に会社の秘密情報保護策が不十分と判断される場合には、上記のシナリオでこのようなリスクが特に起こりうる。このリスクを回避するためには、製品設計の影響力のある担当者は「第一段階」の手続に関わらないようにし、「第二段階」については適切な評価契約を締結することである。
公開特許出願に関する書簡については、出願人が評価契約の締結に同意しない場合でも、潜在的な損害賠償義務の可能性に鑑みて、当該書簡を検討する中間的な措置を考慮すべきである。最低でも、当該書簡が第154条の通知基準を満たすかを判断しなければならない。もしそれを満たすなら、その判断を、社内でより詳細な検討を行うか、米国特許商標庁での特許出願の現状をモニターする等、その他の措置を取る端緒とすることができる。一方的に送りつけられた書簡を受領しただけで、公開期間に対する実施料額支払責任や、特許発行後の侵害による損害賠償責任、さらには特許発行後の故意侵害による損害賠償責任についての通知を受けたとみなされる可能性があるため、これらの措置を取ることは賢明といえるであろう*13

注記

* モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 アソシエート Brett G. Alten
** モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 パートナー James E. Hough
*** モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 パートナー Charles D. Holland
**** 阿部・井窪・片山法律事務所 弁護士・弁理士 Yukio NAGASAWA
   
*1 American Inventor's Protection Act (AIPA)
*2 合衆国法典第35編(以下、「米国特許法」)第122条(b)項)
*3 米国特許法第284条
*4 提出法案および両院共同決議案に関する発言145 CONG. REC. S14,696, S14,719 (1999年)
*5 SRI International, Inc. 対 Advanced Technology Laboratories, Inc.事件。連邦控訴裁判所判例集第3シリーズ第127巻1462、1470頁(1997年、連邦巡回区控訴裁判所)。
*6 Amsted Indus. Inc. 対 Buckeye Stell Castings Co. 事件。連邦控訴裁判所判例集第3シリーズ第24巻178、187ページ(1994年連邦巡回区控訴裁判所)
*7 米国特許法第154条(d)項(2)号
*8 米国特許法第284条2項
*9 米国特許法第122条(b)項(2)号(b)(i)
*10 米国特許法第122条(a)項
*11 Tele-Count Engineers, Inc. 対 Pacific Tel. およびTelegraph Company他事件。カリフォルニア州上訴裁判所判例集第3シリーズ第168巻455、462頁(1985年)
*12 Arnie E. Thompson 対 California Brewing Co.事件。カリフォルニア州上訴裁判所判例集第2シリーズ第150巻469頁(1957年)
*13 本稿の原文である英語版は、本年10月、Managing Intellectual Property誌上に掲載された。

(原稿受領日 2005年7月6日)

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