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2009. 04.30

クライスラーの倒産申立に備えて:要検討事項-"Preparing for a Chrysler LLC Bankruptcy Filing: Issues for Your Consideration."(日本語訳)

クライスラーの倒産申立に備えて:要検討事項

* Please click here for English version, "Preparing for a Chrysler LLC Bankruptcy Filing: Issues for Your Consideration"

クライスラーが伊フィアット社との資本提携に向け労働組合および貸付人からの譲歩を得るか、または清算に追い込まれるかについて、米国政府が決定期限として提示した4月30日が目前に迫っています。4月26日(日)にクライスラーが全米自動車労働組合の譲歩を得る暫定合意に達したことで、主な障害はクリアされました。しかし、この進展はクライスラーによる倒産申立を回避するために十分といえるのでしょうか。
詳細な情報については、本文の末尾記載の当事務所弁護士、または東京オフィスの渡邉 嗣道 (twatanabe@mofo.com)、ランディ・ラクサーrlaxer@mofo.com)までご連絡ください。

(参考訳)

Chrysler LLC(関連会社と併せ、以後「クライスラー」と表記)は昨日、全米自動車労働組合(UAW)との暫定合意を公表しました。報道によると、この合意はUAW、クライスラー、米国財務省(以後、「財務省」)およびクライスラーの買収を検討しているFiat SpA(以後、「フィアット」)との間で交渉が行われたもので、オバマ政権が課した2009年4月30日の期限に向けた第一歩となりました。クライスラーはこの日までに、財務省の追加支援を受ける前提条件として、自社の組合、有担保債権者その他の利害関係者と経費・債務削減に係る取り決めについて合意に達するよう求められています。UAWとの暫定合意(具体的な条件は非公開ですが、組合員の投票によって決まります)は、クライスラーが2008年12月に受けた40億ドルの米国政府の融資パッケージにおいて財務省が課した条件を満たすものとされています。

UAWとの合意は、クライスラーの有担保貸付人(組合の譲歩がなければ約69億ドルの債権の代償として株式を受領することは考えられないと示唆しています)に更なる圧力をかけるだけでなく、フィアット(同社の代表者もいかなる合意についても組合の譲歩が前提条件となると述べています)によるクライスラー買収の可能性を高めるものです。オバマ政権はクライスラーが単独では持ちこたえられないと述べており、過去数ヶ月にわたり、フィアットとの合意を成立させるようクライスラーへの圧力を強めてきました。最近の報道では、オバマ政権が課した主な債権者グループとの合意期限を遵守するか否かにかかわらず、財務省はクライスラーに対し、今後数日中の倒産申立に向けて準備をするよう圧力をかけているとのことです。

本ニュースレターは、クライスラーの倒産申立により多数のクライアント(債権者および潜在的投資家を含みます)が直面すると予想されるいくつかの問題点に焦点を当てています。クライスラーの倒産申立における多くの複雑な問題は、ゼネラルモーターズ コーポレーション(関連会社と併せて、以後「GM」と表記)の倒産申立の可能性に関する当事務所のニュースレターの中でご説明した内容と類似したものになると思われますが、検討に値する若干の相違点があります。すなわち、米国政府の支援によるフィアットとの提携の可能性、米国およびカナダの占有継続債務者(DIP)ファイナンス・ファシリティの可能性、ならびにクライスラー清算の可能性です。2009年3月30日、オバマ大統領はGMとクライスラーを比較してこれらの相違点のいくつかに言及しています。

「クライスラーの立場はさらに厳しい状況にあり、我々は、綿密な検討の上、極めて不本意ながらもはっきりとした事実認識として、クライスラー存続のためには同社にパートナーが必要であると判断した。最近、クライスラーが救いを求めたところ、潜在的パートナーとなり得る企業を見つけた...フィアットの現経営陣は目覚ましい事業再建を実行した。同社はクライスラーに対し、同社が有する最先端技術を移転する用意があり、我々のチームとの密接な協議の末、ここ米国で新しい低燃費車やエンジンを作ることを約束した。我々はまた、フィアットによるクライスラーの過半数株式取得が許可される前に行われる新規の公的資金投入について、クライスラーが確実に返還する旨の合意を確保した。[1]

クライスラーとフィアットが今後数日以内で合意に達することができれば、財務省はクライスラーに対し、場合によってはフィアットによる買収のための資金調達への60億ドルを上限とする貸付を含む、同省が考える「事業継続のための適切な資本」を提供することになります。[2] このシナリオのもとで(かつ、報道されているUAWとカナダの自動車労働組合(CAW)との合意が承認されることを前提として)、フィアットは、クライスラーの倒産申立の一環として、提携を完了することを希望する可能性もあります。しかし、クライスラーが4月30日までに主な債権者団体との裁判手続外の合意に達することができなかった場合であっても、このほかに実行可能な提携が実現しなければ、米国政府は「クライスラーの事業継続のために税金を追加投入することを正当化できない」ことをオバマ政権は明らかにしています。[3] 実行可能な再建計画がなければ、クライスラーは倒産申立の一環として断片的にその資産を清算せざるを得ない可能性が高いでしょう。

米国政府がクライスラー存続の舵取りをする積極的な役割を負うというのは控えめな表現であり、GMの倒産申立と同様に、クライスラーの倒産申立には、膨大で複雑な問題、広範な当事者と米国倒産裁判所がかつて扱ったことのない数々の新たな法的問題が絡んでくると思われます。クライスラーの倒産申立の具体的な方針(すなわち戦略的パートナーとの提携による再建か、または清算か)に関係なく、鍵となる問題を早期に特定・把握したクライアントにとっては、重要な機会をもたらす可能性が高いと考えられます。

クライスラーのほとんど公表されていない再建計画の内容も依然として流動的であるため、本ニュースレターは、自動車産業関連のさまざまな問題に関する当事務所の総合的知見およびセカンダリーローン市場についての専門知識、ならびにさまざまな法域(米国内外)にわたる「巨大」倒産事件における幅広い専門知識に基づく予備的総括となります。本ブリーフィングは法的助言には該当せず、またクライスラーの倒産において生じる可能性のある問題や、当事務所の各クライアントに当てはまる問題のすべてに関する包括的な概要を示すことを意図するものではありません。

占有継続債務者(DIP)ファイナンスに関する問題

米国/カナダのDIPによる財政支援

クライスラーによる倒産申立の特徴のひとつとして、財務省またはカナダ政府が担うDIP貸付人(場合によってはDIPローンのストラクチャリングに経験を有するパイプとなる貸付人と共同して)、または信用補完提供者のいずれかの役割の範囲が挙げられます。ブルームバーグのレポートによると、DIPローンは総額200億ドルに上る可能性があります。DIP貸付人として、米国政府およびカナダ政府(以後、「二国政府」と表記)は、クライスラーの倒産事件の取扱に係る指示において重要な役割を果たし、おそらく、他の一切の共益債権および被担保債権に優先して弁済する必要のある「超優先」債権を付与されるでしょう。[4] 実際には、クライスラーのDIPファイナンスの必要性については疑いようがないように思われます。2008年12月6日時点で、クライスラーは、DIPによる資金提供を受けられなければ、29ヶ所の工場を閉鎖し、53,000人の従業員を解雇し、供給業者への支払70億ドルを帳消しにして清算しなければならないと述べています。[5] 

「超優先」の地位に加え、二国政府(およびパイプ役貸付人)は料金を徴収できるほか、関連する業績に関する重要事項や誓約事項など、借入条件の多くを決定することができるものと考えられます。二国政府は、抵当のついていないクライスラーの資産(その所在地を問わず、賃借権を含みます)について担保権の付与を求める可能性があります。抵当のついていない資産について二国政府による無制限の支配を認める条項をDIP契約に盛り込む場合もあります。DIPの条件は倒産申立後直ちに決定されるでしょう。したがって当事者は、提案されたDIPの仕組みがどのように機能するか、また、米国内外に所在するどの資産に担保設定を求めるか、ならびに提案されたリーエンは既存のリーエンおよび債権に「優先」するか否かを理解することが非常に重要です。

クライスラーの負債をめぐるローン取引関連問題

現在クライスラーの負債の取引を行っている(または二国政府の支援を受けたDIPローンの取引を行う可能性のある)金融機関は、クライスラーのDIPファイナンスについて包括的な理解を要します。これは特に、クライスラーのDIPファイナンスの条件による影響がクライスラーの負債の取引を継続する能力に及ぶ可能性があるためです。クライスラーのDIPファイナンスが最近の数十億ドル規模の倒産における裁判所の許可を得たDIPファイナンスを参考にしたものであるとすれば、これによりクライスラーの既存貸付人はDIPローンの資金提供に参加できるようになる可能性があります。この場合、DIPファイナンスには新規の資金融資とロールアップによる融資の両方の要素が含まれ、既存の適格な貸付人は追加融資を行い、有利な新規条件などDIP貸付人としての一定の恩恵を受けることができるようになります。

DIPファイナンス(先般のLyondell・Aleris間のDIPファイナンス等)における貸付人、代理人およびセカンダリー市場参加者への助言提供の経験に基づけば、DIPファイナンスへの参加は、CDO/CLOファンドなど特定の事業体にとっては問題をはらむ可能性があります。クライスラーのDIPファイナンスにおいて既存貸付人(または潜在的な新規投資家)の参加が求められる場合、セカンダリーローン市場の当事者は、申立前債権者としての権利にどのような影響が及ぶ可能性があるかに加え、参加にあたって必然的に生じる障害を取り除くことができるか否かを理解する必要があります。

また、既存貸付人はクライスラーのDIPファイナンスにおいて、既存の優先順位の高い有担保負債がどう扱われるかも理解する必要があります。クライスラーの倒産申立は、その前例のない性質により、既存および潜在的なDIP貸付人の双方に対し多くの新たな問題を提起します。例えば、DIPファイナンスにおいて既存貸付人の債権は、別の上位トランシェとして扱われるのでしょうか。またDIPファイナンスに関するほとんどの問題について完全な議決権を付与されるのでしょうか。クライスラーのDIPファイナンスのほとんどに対し二国政府が資金提供または保証を行う可能性を考慮すると、二国政府はクライスラーの倒産事件の舵取りの方法として、クライスラーの既存貸付人(その一部は米国政府の救済資金を受ける)に対し、どの程度圧力をかけるのでしょうか。ひとつ明らかなのは、DIPファイナンスにおいて提案される優先順位の構造は、どのようなものであれ倒産申立後一定の期間内に公表され、既存貸付人はその権利を守るために警戒しなければならないということです。

清算の問題および買収の機会

フィアットによる買収・再建 と清算の対比

今週、クライスラーとフィアットが合意に達した場合、フィアットは、クライスラーのチャプター11手続申立の一環として、「363条」に定める倒産時の売却(詳細は後述します)によりクライスラーの債権債務を買取ることができます。特に緊急を要する資金調達により、このような363条による大型買収を比較的短期間で承認した実績があります。例えば、昨年9月には、Barclays plc がLehman Brothers Holding Inc.(以後、「リーマン」と表記)の倒産申立後3日で、リーマンの銀行およびトレーディング部門の2億5,000万ドルでの買収に係る倒産裁判所の承認を得ています。これには及ばずとも迅速な例として、UBSによる数十億ドルでのエンロン社の貿易業務買収、およびアメリカン航空による数十億ドルでのTWAの買収があります。

一般に、チャプター11手続により企業は、再建戦略または「計画」を策定する一方で、その機能を再建し、継続する機会を得ることができます。同計画は、倒産裁判所による承認を得るためには、具体的に定められた基準の下で、さまざまな債権者団体の同意を要します。クライスラーが計画案について自らの債権者から十分な支援を獲得することができない場合であっても、クライスラーは、債権者の反対を押し切って、計画の承認を得ることが可能な場合もあります。いずれのシナリオでも、実施されるDIPローン契約は少なくとも、クライスラーがフィアットとの提携を完了し、クライスラーが再建計画に係る倒産裁判所の承認を得ることができるまでのつなぎ融資を受けることができるよう設計されたものとなると思われます。

但し、4月30日までに実行可能な再建計画または代替パートナーが浮上せず、クライスラーが総額約69億ドルの債権を有する貸付人との合意に至ることができなければ、クライスラーは、チャプター7手続申立による清算またはチャプター11手続の一環としての清算に直面する可能性が高いものと思われます。クライスラーがチャプター7による清算手続の申立を行った場合、除外対象とならない資産を売却して債権者に支払うことを余儀なくされます。チャプター7手続の管財人は裁判所が指名しますが、管財人は、担保対象資産の売却手取金が確実に有担保債権者に支払われるようにします。有担保債権者への支払後に資産または現金が残っている範囲内で、それらの資産および現金はまとめてプールされ、無担保債権者(取引債権者および株主(すなわち、2007年のダイムラー・ベンツからのクライスラー買収の結果クライスラーの80%の持分を所有するプライベート・エクイティ・ファンドのCerberus Capital Management)を含みます)への弁済に当てられます。

もう一つの案として、チャプター7手続による清算よりも資産売却により債権者の回収額が高くなることを立証できれば、クライスラーはチャプター11による清算手続申立を行うことができます。クライスラーが万一チャプター11手続の一環として清算計画を提出した場合、同計画によりクライスラーは、チャプター7手続による清算よりも経済的に有利な状況の下で事業を清算できる可能性が高いものと思われます。また、債権者はチャプター7手続よりも、資産の換価および売却手取金の分配を構築する上でより積極的な役割を演じることができる場合があります。

クライスラーの倒産時の清算形態に関係なく、投資家にとっては、倒産手続による売却におけるクライスラーの資産およびブランドの入札といった大きな機会が得られることとなります。クライスラーがフィアットとの取引を構築できた場合、フィアットは、無用のブランド、関係会社、工場および医療給付債務を含む望ましからざる資産を「古いクライスラー」に残したまま(それらは今後数ヶ月または数年をかけて清算することになります)、自らの望む資産およびブランドのみ(報道によれば、JEEPブランドとのことです)を買取るでしょう。この計画が確定すれば、古いクライスラーは、「倒産法第363条」における倒産時の一連の資産売却の規定に基づき、早急に資産を売却するという相当な圧力にさらされることとなりますが、潜在的投資家にとってはかなりの費用を節約してクライスラーの資産を買い取るとともに、他のさまざまな潜在的利益を取得する機会を与えるものとなります。

売却プロセス

363条に定める倒産時の売却は、有形資産、株式、技術、ブランド、その他知的財産等の無形資産の購入に注目している投資家(米国以外の投資家を含みます)にとって絶好の機会となる可能性があります。363条に基づく典型的な売却において、一般に資産は無保証で(但しリーエン、相反利益および請求権のない状態で)現状有姿にて譲渡されます。買主は実際に購入を希望する資産および関連契約のみを購入し、無用な資産は購入しません。例えば、資産は貸付人の担保権やその他大半の債権者の請求権のない形で売却できます(但し、貸付人の担保権は売主の売却益に付着する可能性が高いものと考えられます)さらに、倒産時の資産売却においては、ほとんどの場合買主は、倒産手続外での売却において生じる可能性がある「承継人の債務」に係る債権を切り離すことができます。但し、すべての債務が切り離されるわけではありません。例えば、特定の種類の環境に関するクレームが関連資産の譲受人に対し提起される場合があります。

363条に基づく典型的な売却において、関心を持っている買主は債務者との間で資産購入契約を締結します。その後債務者は倒産裁判所に契約の承認を求める申立を行いますが、契約承認のための審理前に、競売のような手続において、より高値・好条件での購入申込みが行われる場合もあります。関心のある買主は「ストーキング・ホース」として知られています。通常、ストーキング・ホースの買主は、他の入札者がより高値を付けた場合の補償を目的としたブレークアップ・フィー等、自らのためのさまざまな取引保護について協議します。さらに、ストーキング・ホースの買主は、競争入札の実施方法(競争入札のためのデューディリジェンスに係る制限など)を特定する競売手続について協議します。このような理由から、ストーキング・ホースの入札者となることには明白な利点があり得ます。

363条に基づく資産売却の多くは平均して30~45日間で完了しますが、中には90日かかる場合もあります。いずれにせよ、落札者は一般に購入を希望する資産を最も迅速に評価し、他者からの競争入札に最も迅速に対応することができる買主です(通常は同日中)。実際、戦略に適した機会の特定方法を把握することと、売却プロセスの管理に役立つ強力なツールとして倒産手続を利用することは、363条に基づく資産売却において恩恵を受けるための鍵となります。事前準備は非常に重要です。適切な保護と手続が整っていれば、投資家はクライスラーの倒産において、費用効率が高く比較的迅速な方法で、希望する資産を取得することができます。

年金制度の問題

クライスラーもGMと同様に、年金制度に大幅な赤字を抱えていると報じられています。利害関係者らは、倒産裁判所において大きな争点となるであろう事柄につき準備を進めています。2009年4月16日、米連邦議会が倒産企業の年金プログラム保護のために1974年に設立した特殊法人・米国年金給付保証公社(PBGC)が、クライスラーの未払の年金給付債務につき助言を受けるために法律事務所に依頼したと報道されました。

PBGCによるクライスラーの年金制度が廃止した場合の試算によると、2008年11月30日時点で、同社の未払年金給付債務は93億ドルに上るとされています。クライスラーが年金制度を廃止すれば、PBGCは約22億ドルの赤字を補填することとなり、残る73億ドルの給付が失われることとなります。GMの年金プラン単独でも、廃止された場合には、PBGCの破綻につながるおそれがあります。クライスラーの年金プランが廃止された場合にも同様の影響が考えられることから、クライスラーまたはGMの倒産事件の解決よりも前にPBGCの救済が必要となるおそれがあります。クライスラーは現在までに、UAWとの間で暫定合意に達したものと見られています。複数の報道によると、この合意では、2010年の退職者医療費の引受けを目的とした組合の運営する信託に対しクライスラーが支払義務を負う101億ドルの一部と引き換えに、UAWはクライスラー株式を保有することとなると考えられます。この合意条件の如何によっては、UAWはクライスラーの筆頭株主として再編されるようになる可能性もあります。

先般の報道によると、CAWもクライスラーとの間で、労務費削減に係る暫定合意に至ったものと見られます。同合意によりクライスラーは年間約1.98億ドルの費用を削減できるものと予想されます。医療給付の削減等に加え、CAW合意は退職者医療費を回収する基金の設立などが盛り込まれていると報じられています。

UAWとCAWの組合員が最終的にこれらの合意を承認したとしても、クライスラーの有担保貸付人が、倒産手続における回収金額が、倒産手続外で69億ドルの債務の一部を自発的に放棄した場合に得られる金額を上回ると考えた場合などに、クライスラーが倒産申立を行う可能性は依然として残されています。倒産申立が行われた場合、クライスラーもGMと同様に、倒産手続中/倒産手続後の年金プランの取扱に関する具体的な指針として、鉄鋼会社の代表的な倒産事例であるLTVコーポレーションなどの過去の倒産事例を参考にする可能性があります。この場合、倒産申立後にクライスラー/フィアットは年金制度についての責任を取り戻し、UAWおよびCAWと新たな条件を協議し、失われた給付金の大半を補償することに合意する可能性があります。[6] 一般債権者にとってこれは、クライスラーが年金制度の廃止を決めた場合、当該廃止に伴う多額の費用はクライスラーの倒産において弁済できない可能性があり、クライスラーはその費用を補うために米国政府またはDIP貸付人による追加の資金援助が必要となるおそれがあるということを意味しています。

サプライヤーの問題

基幹サプライヤーの地位

クライスラーの取引債権者およびサプライヤーは、クライスラーの倒産申立により、申立前の請求書の支払に大幅な遅れが生じるのではないかと考える可能性があります。しかしながら、基幹サプライヤー(事業継続に不可欠なサプライヤー)の法理に基づき、クライスラーは倒産手続開始後一定の期間、特定のサプライヤーについて、かかるサプライヤーが申立後も同等以上の条件でクライスラーに販売を継続することを条件に、クライスラーが倒産申立前の当該サプライヤーの債権(米国内外の債権に適用される)を直ちに支払うことを認めるよう倒産裁判所に求めることができます。

基幹サプライヤーに対する支払にかかる要求は慎重に精査されます。要求が認められた場合、優先順位の低い申立前債権であった当該債権が他の債権に優先され、全額支払がなされることが確実となります。基幹サプライヤーの申立前の債権の支払にかかる要求は、DIP貸付人、無担保債権者委員会その他の利害関係人を含む債権者への通知をもって行われる倒産裁判所の承認を条件とします。裁判所は、これを判断するにあたって、特に下記事項について細かく検討します。すなわち、(i) 当該サプライヤーの契約が倒産申立までに終了しているか否か、または、倒産手続上のオートマティック・ステイにより、当該サプライヤーは、申立前の請求書が不払であるにもかかわらず債務者に対して供給を継続しなければならないか否か、(ii) 当該サプライヤーは、申立前の請求書にかかる債権を満足させるためリーエンを主張できるような重要な製品の提供を受けてそれを保有しているか否か、また、(iii) 当該サプライヤーの管轄権は国外にあって、支払を受けていない場合に供給の継続を強制することはできないか否か。

商品返還請求権

基幹サプライヤーが保護される可能性に加え、クライスラーの納入業者も、倒産法の条項のうち、2005年に成立した商品返還請求権を優先させる条項を利用する可能性があります。これらの債権は州法に基づき生じ、倒産法546(c)条に準拠します。

商品返還請求権は通常、倒産者の倒産申立直前にかかる倒産者に対し信用取引で出荷された商品の返還を請求する、取引先である債権者の権利を指します。例えば、債務者が、支払不能に陥りつつも申立日前45日以内に商品を受領している場合、売主は、当該商品の受領後45日間はその返還を請求できます。この期間が債務者の倒産手続の開始前に満了する場合、売主は、申立日の後20日間は商品返還請求権を主張できます。商品の売主は、商品返還請求権の通知を行わなかった場合、申立日前の20日以内に債務者が受領した物品の代金について共益債権(すなわち、倒産裁判所の承認後全額支払われる債権)を主張することができます。したがって、債権者は、商品返還請求権により、申立日前の無担保債権について、通常の無担保債権者として受けるよりも良い条件でこれを回収できる可能性があります。

少なくとも、取引先である債権者は、クライスラーの倒産申立に備えて、各契約上クライスラー側の当事者(保証人を含む)を特定することができるはずです。商品返還請求権の恩恵を受けようとするのであれば、取引先である債権者は、迅速に行動し、クライスラーがその倒産手続上裁判所の承認を仰ぐ可能性のある具体的な商品返還請求手続(商品返還請求にかかる債権届出が必要であること等)を理解し、該当する物品のクライスラーへの出荷およびクライスラーによる受領について、詳細を正確に記録しておく必要があります。

未履行契約の取扱

倒産法に基づき、クライスラーは、負担となる未履行契約を履行拒絶し、有益な未履行契約を引き受ける(場合によっては譲渡も行う)ことにより、財団の価値を保全し、かつ、これを最大化する義務があります。基本的に、未履行契約とは、クライスラーと契約の相手方当事者の双方の義務に多少なりとも未履行があるものです。この例として、雇用契約、保守契約、サービス契約、供給契約、典型的な賃貸借契約およびフランチャイズ契約が挙げられます。[7]

未履行契約(または期間未了の賃貸借)の引受は、債務者が当該契約の条件に基づき継続して義務を負うのと引き換えに当該契約上の権利を享受することを選択する場合に行われます。契約の引受により、債権者の現在および将来の損害請求の地位は、共益債権の優先的地位(全額支払を受けられる地位)にまで高められます。個人的役務契約や知的財産にかかるライセンスに関する一定の状況を除き、未履行契約または期間未了の賃貸借の引受が行われた場合、申立前の支払債務不履行を治癒すること、および買主による将来の履行について適切な保証を提供することを条件として、これを第三者に譲渡することも可能です。未履行契約の履行拒絶は、債務者が当該契約を解除し、そのことにより当該契約上の権利を喪失することを選択する場合に行われます。倒産法上、特定期間内に引受または履行拒絶をしなければならない特定の種類の未履行契約(非居住者用不動産の賃貸借契約など)は別として、ほとんどの債務者は、再建計画が認可されるか、または363条の売却手続に従って未履行契約が売却されるまで、当該未履行契約の引受または履行拒絶を行いません。

供給契約の履行拒絶

米国、そして世界中のクライスラーのサプライヤーの多くもまた、財政状態は危うい状況です。クライスラーによる申立およびその供給契約の履行拒絶により、これらのサプライヤーは倒産に陥る可能性があります。[8] クライスラーは、自社の物品コストを下げるため、一定の供給契約について再協議または履行拒絶することはできますが、その場合、既にサプライチェーンにのし掛かっている財政圧力を鑑み、供給契約の履行拒絶を決定することで、納入業者を廃業に追い込み、生産を脅かすような「連鎖反応」が起きないよう確実を期す必要があります。

クライスラーが供給契約の履行拒絶を決定した場合、契約の解除、申立前の履行拒絶による損害賠償請求の発生という実務上の効果があります。クライスラーは、当該契約の全部を履行拒絶しなければならず、当該契約または賃貸借が特則(非居住用不動産の賃貸借契約にかかる特則など)の適用対象でない限り、クライスラーは、その再建計画が認可されるまでは何時でも、供給契約を引受または履行拒絶することができます。

自動車部品メーカー支援プログラム

クライスラーの部品メーカーを安心させる方法として、2009年4月8日財務省は、クライスラーとGMの、それぞれの自動車部品メーカー支援プログラム(ASSP)の立ち上げに関するステートメントを発表しました。現段階ではこれらのプログラムの具体的な詳細は不明ですが、ASSPは、2009年3月19日よりも後に出荷された製品に関して生じた、適格な取引条件に基づく一切の債権に適用されるようです。財務省の支援を受けて、ASSPは、自動車部品納入基盤の安定および自動車セクターへの信用のフローの回復に資するべく設計されています。財務省によれば、ASSPにより、部品メーカーが流動性を得られるようになって米国の雇用が確保される一方、クライスラーやGMが必要な部品を確保できるようになるということです。ASSPの進展状況についてご興味があれば当事務所までご連絡ください。

クライスラー関連会社に対するChrysler LLCの倒産申立の影響

クライスラーの倒産申立において、必ずしもすべてのクライスラーの国内外の子会社その他関連会社が対象となるわけではありません。非債務者である関連会社は、引き続き通常の業務を行うことができますが、倒産申請を行わない事業体の債権者であっても、その契約を評価し、クライスラーの倒産手続における救済要求に留意すべきです。上述のとおり、クライスラーは、自社の保有する国内外の関連会社の株式および/または資産の売却のため、裁判所の承認を求める可能性があります。さらに、DIPファイナンスの要求は、当該倒産手続にかかる債務者ではないクライスラーの関連会社の資産の質権設定および/または保証を条件とする場合があります。

結び

上記の問題は、クライスラーの倒産申立により生じる可能性がある多数の複雑な問題のごく一部です。今後の事態の進捗状況に応じ、重要な点について最新情報をお伝えいたします。ご質問、または、詳細な情報については、下記弁護士までご連絡ください。

East Coast:
Karen Ostadkostad@mofo.com) / Gary Leeglee@mofo.com) / Larren Nashelsky (lnashelsky@mofo.com) / Geoffrey Peckgpeck@mofo.com) / Charles Coleccole@mofo.com) / Alexandra Steinberg Barrageabarrage@mofo.com

West Coast:
G. Larry Engellengel@mofo.com) / Adam Lewisalewis@mofo.com

Japan:
Tsugu Watanabe (twatanabe@mofo.com) / Randy Laxer (rlaxer@mofo.com)

* このニュースレターがご提供する情報は一般的なもので、いかなる個別の事案に対しても適用されることを保証したり、解決を提供するものではありません。具体的な事案においては、当該事案に対する個別の法的助言なくして、ご判断をなされないようにお願い申し上げます。


[1] http://www.whitehouse.gov/blog/09/03/30/GM-and-Chrysler/参照。
[2] 同上。
[3] 同上。
[4] 現在までに総額40億ドルに上っているクライスラーの救済資金の相対的優先順位についての問題は未解決のままです。
[5] http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&refer=home&sid=aQvW8upjmfdg参照。
[6] LTVは最終的に再度倒産法による保護を求め2002年に清算し、PBGCは同社の年金給付債務を引き受けました。
[7] 労働協約は未履行契約とはみなされなくなりましたが、倒産法1113(b)条および1113(c)条は、労働契約についての裁判所の承認または履行拒絶に関する法的要件を定めています。
[8] 供給契約のほか、クライスラーは、負担となる販売代理店契約およびフランチャイズ契約について再協議または履行拒絶を行って、販売代理店網を合理化することもできます。クライスラーが363条に基づく売却で自社ブランドのいくつかを売却しようとする限り、契約の履行拒絶を受けた販売代理店は、クライスラーのプレ・パッケージ型の計画の一部として処理される可能性の高い無担保債権を有することになります。


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