2007. 01.16
金商法が不動産ファンドの組成・運用に与える影響(1)
平成18年6月7日に成立した金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)の施行1により、有価証券の範囲が拡大され、またこれまで規制の範囲外とされてきた集団投資スキーム持分の自己募集やファンド資産の投資運用など、不動産ファンドの組成・運用についても、新たに一定の規制が及ぼされることとなります。同時に金商法は、過度の規制を避けるために、プロ投資家等を相手方とする業務については規制を緩和して、バランスを図っています。今回は、金商法が不動産ファンドの組成・運用に与える影響の概要について説明します。なお、その詳細については、金商法がいわゆるシングルTKスキームおよびダブルTKスキーム2 に与える影響として、次回および次々回に説明する予定です。
ポイント1 有価証券の範囲の拡大
金商法では、有価証券などに投資するスキームに限らず、いわゆる集団投資スキーム3 に関する権利(以下「集団投資スキーム持分」といいます。)を、包括的に有価証券とみなしています(金商法2条2項5号)4 。また、金商法では、不動産信託受益権を含む信託受益権全般も有価証券とし(金商法2条1項14号、同条2項1号)、有価証券の範囲を拡大しています。
ポイント2 集団投資スキーム持分の自己募集についての規制
金商法においては、集団投資スキーム持分の募集5 ・売出しの取扱い6 または私募の取扱い(金商法2条8項9号)を業務として行う場合のみならず、集団投資スキーム持分の募集または私募(自己募集7 )を業務として行う場合についても、原則として「金融商品取引業」に該当することとなり(金商法2条8項7号へ)、第二種金融商品取引業者としての登録が必要になります(金商法28条2項1号)。第二種金融商品取引業者としての登録を受けるためには、資本要件等の充足や営業保証金の供託等が必要となり(金商法29条の4、31条の2等)、これまで実務的に行われていたスポンサー会社からの出向者等により集団投資スキーム持分の自己募集を行うことは事実上困難になるものと思われます8 。
ポイント3 ファンド資産の投資運用についての規制
金商法においては、集団投資スキームの財産の投資運用9 を業務として行うにあたっては、原則として「投資運用業」の登録が必要になります(金商法28条4項3号、2条8項15号ハ、29条)。投資運用業の登録を受けるためには、資本要件等のほか、「取締役会及び監査役又は委員会を設置した株式会社」であること、純資産額が一定の額以上であること、兼業規制等を充たすことが必要となります(金商法29条の4等)10 。
現行証券取引法では、不動産信託受益権は有価証券に含まれていないため、SPCが匿名組合出資などの集団投資スキームを通じて拠出を受けた資金を用いて不動産信託受益権への投資を行う場合、かかるSPCからアセット・マネジメント業務の委託を受けたアセット・マネジャーには、有価証券投資の助言・運用に関する許認可は要求されていません。これに対して金商法では、前述のとおり信託受益権も有価証券に含まれるため、かかるアセット・マネジャーには原則として投資運用業11 の登録が新たに必要とされると思われます。
なお、SPCが登録を受けた投資運用業者に対して運用に関する権限のすべてを委託した場合であっても、SPC自身も投資運用業者としての登録が必要となる可能性がありますが(金商法42条の3参照)、このように解するとSPCが上記投資運用業の登録要件を充足することは極めて困難であり、多くの不動産ファンドに与える影響が大きいため、今後公表される政令・内閣府令およびパブリックコメントの動向を注視する必要があります。
ポイント4 プロ投資家等のみを相手方とする業務についての規制緩和
上記にかかわらず、金商法においては、適格機関投資家等12 のいわゆるプロ投資家等を相手方として行う集団投資スキーム持分の私募の自己募集にかかる業務および投資運用業については、「適格機関投資家等特例業務」として、登録義務が適用除外される一方、最低限の実態把握を行う観点から、届出制とされるとともに、簡素な行為規制等13 とされています(金商法63条?63条の4)14 。
以上のように、金商法においては、不動産ファンドの組成・運用について、規制の横断化がなされるとともに、規制の柔軟化が図られています。
- 金商法は、その公布日である平成18年6月14日から1年6ヶ月以内に施行されることになっています。
- 親SPCを営業者とするマザーファンドと子SPCを営業者とするベビーファンドの二重の匿名組合により構成される投資スキームをいいます。
- 民法上の任意組合契約、商法上の匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約、有限責任事業組合契約その他いかなる形式によるかを問わず、?他者から金銭などの出資・拠出を受け、?その財産を用いて事業・投資を行い、?当該事業・投資から生じる収益などを出資者に分配する仕組みをいいます。
- 但し、現物不動産に投資する任意組合や匿名組合については、現行法同様、不動産特定共同事業法の対象として「みなし有価証券」には該当しないなど、一定の例外があります(金商法2条2項5号イ?ニ)。
- 金商法では、集団投資スキーム持分について「相当程度多数の者が」当該持分を「所有することとなる場合」に「募集」に該当すると定義されました(金商法2条3項3号)。ここにいう「相当程度多数の者」とは政令で定められるところ、500人以上と考えられています(谷口義幸・野村昭文「企業内容等開示制度の整備」(商事法務1773号43頁))。また、金商法においては、かかる「相当程度多数の者」は「被勧誘者数」ではなく「所有者数」を基準に判定されます。
- 「取扱い」とは第三者が勧誘する場合をいいます。
- 集団投資スキーム持分の発行者自身による勧誘をいいます。
- なお、第二種金融商品取引業者に対しては、顧客に対する誠実義務、契約締結前の書面の交付義務、契約締結時の書面の交付義務等の各種行為規制が課されます(金商法34条?45条)。
- 具体的には、集団投資スキーム持分を有する者から出資を受けた金銭その他の財産について、当該組合の投資対象が有価証券またはデリバティブ取引にかかる権利である場合に、金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて当該金銭その他の財産の運用を行うことをいいます。
- なお、投資運用業者については、金融商品取引業者に共通に課される行為規制のほか、集団投資スキーム持分を取得した顧客に対する忠実義務・善管注意義務、自己取引や利益相反取引等の禁止、運用報告書の交付義務等の規制が課されます(金商法42条?42条の7)。
- アセット・マネジメント業務が投資運用業に該当する場合を前提にしていますが、アセット・マネジメント契約の内容および実体によっては、有価証券等の価値等に対する助言を行う場合として、投資助言・代理業(金商法28条3項1号、2条8項11号)に該当することも考えられます。
- 「適格機関投資家等」とは「適格機関投資家以外の者で政令で定める者(その数が政令で定める数以下の場合に限る)および適格機関投資家をいう」とされており(金商法63条1項1号)、1名以上の適格機関投資家および政令で定める人数以下(49人以下と考えられています(三井秀範、池田唯一監修「一問一答 金融商品取引法」217頁))の一般投資家と規定される予定です。
- かかる届出をした者(特例業務届出者)が適格機関投資家等特例業務を行う場合は、金融商品取引業者の行為規制のうち、?金融商品取引契約の締結またはその勧誘に関して、顧客に対して虚偽のことを告げる行為の禁止(金商法38条1項)、?損失補填の禁止等(金商法39条)、および?これらに関する罰則規定のみ適用されます(金商法63条4項)。
- 但し、いわゆるダブルTKスキームにおいて、親SPCを営業者とする匿名組合契約における匿名組合員の中に1名でも適格機関投資家以外の者が含まれている場合には、子SPCを営業者とする匿名組合契約における匿名組合員の中に適格機関投資家が含まれていたとしても、子SPCは「適格機関投資家等特例業務」の適用は受けられないなど、「適格機関投資家等特例業務」のさらに特例があります(金商法63条1項)。
執筆者
弁護士 高須 成剛