2006. 03.07
新会社法ニューズレター 第9回 社外取締役に関する規制
執筆者
弁護士 松村 佳奈
今回は、新会社法における社外取締役への規制について説明します。ポイント4に述べますが、新会社法のもとでは、社外取締役について事業報告等で開示すべき事項が拡大されました。
ポイント1 社外取締役の定義はどう変ったか?
新会社法における「社外取締役」とは、株式会社の取締役であって、
(1)(現に)当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役1、執行役又は支配人その他の使用人ではなく、かつ、
(2)過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役、執行役又は支配人その他の使用人になったことがない者
をいうと定義されています(会社法2条15号)。
社外取締役の定義は、現行商法の下における定義から大きな変更はありませんが、新たに「業務執行取締役」という概念が盛り込まれたこと、及び「子会社」の範囲が現行商法と新会社法では異なることの2点において変更がありました。このうち、「社外取締役」の範囲に実質的に変更をもたらすのは「子会社」の範囲の変更です。
すなわち、新会社法では、「子会社」の範囲が次のとおり実質支配基準に基づき拡大されたので、現行商法よりも社外取締役として認められる要件が厳しくなり、社外取締役の確保はより困難になることも予想されます。
ポイント2 社外取締役の登記の要否
新会社法の下では、会社が社外取締役の存在を必要とする以下の(1)ないし(3)の制度を導入する場合を除いて、社外取締役である旨の登記は原則として不要になりました。
(1) 取締役会の決議に関して定款に特別取締役による議決の定めがある場合
これは取締役会の定足数及び決議要件に関する特別の定めで、現行の重要財産委員会に代わる制度です。?取締役が6名以上、かつ、?取締役の1名以上が社外取締役の株式会社(委員会設置会社を除く。)に導入が認められ、?重要な財産の処分及び譲受け、及び、?多額の借財の2つの事項に限り決議できるものとされています3。
(2) 委員会設置会社である場合
委員会設置会社においては、各委員会(指名委員会、監査委員会、報酬委員会)の委員の過半数は社外取締役でなければなりません。各委員会の最小構成員数は3名です。取締役が複数の委員会を兼務することも認められていますが、合計3名の取締役が全委員会を兼務するとしても、最低2名の取締役が社外取締役でなければならないことになります。
(3) 社外取締役に関する責任限定契約の締結について定款の定めがある場合
責任限定契約とは、社外取締役等(会計参与、社外監査役、会計監査人を含む。)の任務懈怠責任(423条1項)について、当該社外取締役が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定款で定めた額の範囲内で予め株式会社が定めた額と最低責任限度額4とのいずれか高い額を責任の限度とする旨の契約です。新会社法は、会社が責任限定契約を締結した社外取締役に損害賠償請求を行う場合等に関し、株主総会への開示や承認等の手続についての規定を置いています(427条1項以下)。
ポイント3 社外取締役の責務とは?
ポイント1で述べたとおり、社外取締役は、業務執行取締役でないことが要件とされているため、当該株式会社の業務執行を行うことはできません。従って、取締役の責務のうち、会社の業務執行以外の責務を果たすことになります。社外取締役の具体的な責務は別紙(1)のとおりで、非委員会設置会社(取締役会設置会社)と委員会設置会社とでは、若干異なっています。
ポイント4 社外取締役について開示すべき事項とは?
会社法施行規則では、社外取締役を含む社外役員に関し、当該役員の取締役会への出席状況や、取締役会における発言状況、不当な業務執行を予防するために講じた措置、事後に行った措置など、従前と比べて広い範囲の事項を事業報告5に記載することを義務付けています(435条2項、施行規則124条)。また、株主総会参考書類にも同様に社外役員に関する記載を行うことが求められています。参考書類及び事業報告の記載事項の詳細(施行規則124条)については別紙(2)をご覧ください。
なお、新会社法の下における開示とは異なりますが、上場会社においては、既に下記のとおり社外取締役に関する事項の開示が必要とされています。
?有価証券報告書による開示
会社は、昨年から、有価証券報告書のコーポレート・ガバナンスの状況に関する記載の中で、社外取締役及び社外監査役と会社との人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係について、具体的に、かつ、分かりやすく記載する必要があることになりました6。
?コーポレート・ガバナンスに関する報告書
東京証券取引所に上場している会社は、平成18年3月1日より、新規上場が承認された後、東証に対してコーポレート・ガバナンスに関する報告書を提出しなければならなくなりました7。同報告書の記載事項には、「経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」や「内部統制システムに関する基本的な考え方及びその整備状況」等が挙げられているところ、コーポレート・ガバナンスや内部統制の観点から導入の要請のある社外取締役に関する記載もこれに含まれるものと考えられています8。報告書の記載事項に変更があった場合には、変更後遅滞なく、東証に対して変更内容について記載した書面を提出する必要があります9。この報告書は東証のホームページ上で閲覧できるよう準備が進められています。
ポイント5 社外取締役の独立性
現行商法と同様、社外取締役は、大株主や主要取引先から派遣されている者であっても、取引関係がある者であっても適格性を失いません。この意味で社外取締役はいわゆる独立取締役とは異なります。ただ社外取締役の独立性に関する開示を一定程度要求したことが新しい点です。敵対的買収防衛策の発動の判断が合理的であるか否かの審査が行われる際、社外取締役の判断が「独立社外者」の判断として司法審査上の一定の尊重を受けるためには、会社法上社外取締役としての要件を満たしているということのみならずその実体的な独立性が問題とされることに注意を要します。
- 「業務執行取締役」とは、?代表取締役、?代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定された取締役、及び、?上記??以外の取締役だが実際に当該株式会社の業務執行を行った取締役をいうが(363条1項各号)、現行商法においても、これらの取締役については社外取締役の要件を満たさないとされており、「業務執行取締役」という概念が盛り込まれたことによる社外取締役の範囲の実質的な変更はない。
- 施行規則3条1項は、経営を支配している法人とは、「(その株式)会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等」をいうとし、「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」とは同規則3条3項に規定されている。実質支配基準の採用により、会社法上の子会社概念と財務諸表等規則上の子会社概念は実質的には同一となったとされる。
- 現行商法特例法における重要財産委員会に代わる制度であることに基づく。整備法54条は、現在重要財産委員会を置いている会社について、特別取締役選任の取締役会決議があったものと擬制するので、重要財産委員会を組織する取締役は特別取締役とみなされることになる。
- 最低責任限度額とは、以下の?と?の合計額(425条1項)をいう。?当該社外取締役がその在職中に株式会社から職務執行の対価として受け、または受けるべき財産上の利益の1年間当たりの額に相当する額として法務省令(施行規則113条)で定める方法により算定される額の2倍の額、?当該社外取締役等が当該株式会社の新株予約権を有利な条件で引き受けた場合における当該新株予約権に関する財産上の利益に相当する額として法務省令(施行規則114条)で定める方法により算定される額
- 事業報告とは、現行商法の下における営業報告書に相当(436条)し、株式会社の状況に関する重要な事項及び内部統制システムに加えて、公開会社においては、株式会社の現況、株式や新株予約権に関する事項の他、役員に関する事項(氏名、地位や担当等)等が記載事項とされている(施行規則118条以下)。社外取締役については、役員に関する記載事項に加えて、社外役員特有の事項の記載が必要となる。
- 企業内容等の開示に関する内閣府令 第三号様式
- 有価証券上場規程7条の5。なお、平成18年3月1日時点において既に上場している会社は、平成18年5月31日までにコーポレート・ガバナンスに関する報告書を東証に提出する必要がある。
- 社外取締役の人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係の概要について記載を要求していた旧上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則2条11項は、削除された。
- 上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則4条の5
【別紙】
(1)社外取締役の具体的な責務10
10.この表は、参考として主要な責務を記載したのみで、包括的な記載ではない。
12. 362条4項
13. 施行規則99条
14. 施行規則112条
(2)社外役員に関する株主総会参考書類及び事業報告の記載事項
15. 598条1項の職務を行うべき者とは、持分会社において法人が業務執行する社員である場合に、当該法人において選任された職務執行者をいう。
16. 「特定関係事業者」とは、?親会社、親会社の子会社及び関連会社、?主要な取引先をいう(施行規則2条3項18号 )
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