2006. 06.01
課徴金減免申請は3ヶ月で26件 ―平成17年度の独占禁止法違反事件の処理状況―
弁護士 雨宮 慶
2006年5月31日、公正取引委員会(公取委)は、平成17年度(平成17年4月1日から平成18年3月31日まで)の独占禁止法違反事件の処理状況を公表しました。
中でも注目されるのは、メディアでも報道されているように、課徴金減免制度に基づく申請が本年1月4日から3月31日までの3ヶ月間で26件であったとされる点です。
課徴金減免制度とは、違反行為(カルテルや入札談合)を行っていても、公取委へ情報提供した者には、課徴金の減額または免除という恩典を与えて、駈込みを奨励するものです(詳しくは2005年改正独占禁止法のキーポイント及び関連するニュースレター1をご参照ください)
ご存知のとおり、独禁法改正に際して課徴金減免制度を導入することには、一部に強い反対があり、その理由の一つとして、仲間を裏切って密告する制度は我が国にはなじまないというものがありました。
ところが、本年1月4日の改正独禁法施行後3月31日までの3か月間で26件の申請があったというのです。
もちろん、26件の減免申請があったということは、26のカルテル・談合事件があったということではありません。この件数は、あくまで適法に申請書を受け付けた件数であって、例えば一つの談合事件について複数の企業が減免申請している場合などもありますので、必ずしも違反事件が26件ということではなく、のべ26通の申請書が適法にファックス送信されたということです(ちなみに、同じ違反事件について複数の企業が減免申請した場合、申請の順序によって減免される金額が異なるのみならず、その違反事件が仮に刑事告発相当事案であった場合には、申請の順序によって告発の有無についても明暗が分かれるわけです)。
とはいえ、例え26件の申請の一部には複数の企業が同一の違反事件について申請した場合が含まれているとしても、26件の申請がすべてが一つ二つの同じ違反事件についてのものということは考えにくいと思われます。そうすると、減免申請があったので公取委は検討中だが、まだ(立入検査という外に見える形では)調査を開始していない事件が少なくともいくつか、場合によっては20前後もあるということになります。
3か月で26件というのは、単純計算しますと1年で100件を超える申請があることになり、結構な数といえます。課徴金減免制度が施行された最初の3か月ですので、満を持して多くの申請があったので今後申請数は減少するという可能性もありますし、他方で当初は様子見で少なかったので今後申請が増えるという可能性もあります。もちろんそのどちらでもないということもありえます。したがって今後の申請のペースの予想は困難です。
ただ、報道されているところによれば、現在調査が行われている大規模違反事件は、この減免制度が契機になったとされています。それゆえ現在では、課徴金減免制度について——それが予想通りか予想に反してかはともかく——「実際に機能する」「他の違反行為者が申請することがある」ということが認知されたということがいえるでしょう。
つい先日公取委が公表した、上場企業に対するコンプライアンスに関する調査の結果では、半数以上の企業が独占禁止法違反は自社でも起こりうる不祥事で危機感を抱いていると回答しています2。この調査結果と前述の課徴金減免制度の利用状況を考えると、独禁法違反を行わないコンプライアンスに加えて、違反を見逃さないで発見する方法、そしてそれを発見し、もしくはそれが疑われるときの対処法を、今一度自社の状況を踏まえて確認してみる必要がありそうです。
このほか、平成17年度の処理状況として、私的独占違反事件についての排除勧告がなかったことや、不公正な取引方法の排除勧告があったのは優越的地位の濫用事件だけであったことなどが公表されました。しかし、平成17年度には橋梁談合事件をはじめとする大型刑事告発案件に人員をとられたこと、その前年度には私的独占事件について2件の排除勧告がなされていることや、本年4月以降には再販価格維持についての排除措置命令が出されていることなどからすると、平成17年度の公取委の事件処理の傾向が変化したというわけではないようです。
- 「改正法施行前から開始される課徴金減免制度に関する事前相談」
「改正独占禁止法の運用を定める規則(案)の公表」 - この調査結果は、公取委が記名式で行ったアンケート調査をもとにしています。また、課徴金減免制度を利用してみたいと回答している企業は全体の約1/4に過ぎず、多くの企業は制度を勉強してみたい、あるいは分からないという回答していましたが、アンケートが実施されたのは、まだ減免制度利用によって大規模談合事件が摘発されたという報道がなされる前でした。
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