2006. 06.07
新会社法ニューズレター 第26回 自己株式の取得
執筆者
弁護士 高須 成剛
今回は、新会社法における自己株式の取得規制について解説します。
自己株式の取得にかかる新会社法における改正前商法からの主要な改正点は、以下のとおりです。
? 株式会社が自己株式を取得することができる場合を明文で列挙
? 自己株式の有償取得全般に及ぶ手続規制
? 自己株式の取得にかかる財源規制の統一的適用
? 改正前商法における自己株式の消却についての整理
ポイント1 自己株式取得事由
株式会社が自己株式を取得することができる場合につき、改正前商法においては纏まった規定は設けられていませんでしたが、新会社法においては155条各号に以下のとおり列挙されています。
? 取得条項付株式の取得(1号)
? 譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合の買取り(2号)
? 株主との合意による取得(3号)
? 取得請求権付株式の取得(4号)
? 全部取得条項付種類株式の取得(5号)
? 相続人等に対する売渡しの請求をした場合(6号)
? 単元未満株式の買取り(7号)
? 所在が不明となっている株主の株式の買取り(8号)
? 端数が生ずる場合の株式の買取り(9号)
? 事業全部の譲受けによる取得(10号)
? 合併による承継(11号)
? 吸収分割による承継(12号)
? その他法務省令で定める場合(13号)1
改正前商法においては、営業譲渡、合併及び会社分割に伴う自己株式の取得の可否につき議論がありましたが、新会社法においては、この点が条文上明らかになりました。すなわち、事業全部の譲受け、合併及び会社分割の場合については、自己株式の取得が可能となりました(155条10号?12号)。これに対し、事業の一部譲受けの場合については、自己株式を当然に取得することができる場合とはされていません。したがって、かかる場合には、156条以下に規定する株主との合意による取得の手続を同時に行うことが必要です(155条3号)。
ポイント2 自己株式取得手続
新会社法においては、自己株式の「買受け」だけでなく金銭以外の財産を対価とする交換2 を含む株主との合意による「有償取得」全般につき、株主総会の決議(156条)等の手続規制を及ぼすこととしました。なお、2-2で述べるとおり、株主との合意以外による自己株式の取得については、それぞれの取得方法に応じた取得手続が規定されています。
2-1 合意による自己株式の取得
(1) 原則
株式会社が株主との合意により自己株式を有償取得3 するための手続の概要は、原則として以下のとおりです。
? あらかじめ株主総会4 において以下の事項を定めて取締役会等に授権する(156条1項)。
(i) 取得する株式の数5
(ii) 株式の取得対価として交付する金銭等6 の内容及びその総額
(iii) 株式を取得することができる期間7
? 上記?の授権に基づき取締役会(取締役会設置会社の場合)又は取締役(非取締役会設置会社の場合)が自己株式を取得することを決定した場合(157条)には、株主にその取得に関する事項を通知する(158条)。
? 上記?の通知を受けた株主は、その有する株式の譲渡しの申込みをしようとするときは、株式会社に対し、その申込みにかかる株式の数を明らかにする(159条)。
なお、上記?の株主総会の授権決議において、特定の株主のみが譲渡しの申込みをすることができると決議することもできますが(160条1項)、かかる決議をしようとするときは、株主に対して通知し(同条2項)、株主が自己を譲渡しの申込みができる株主に加えることを株主総会の議案とすることを請求する(同条3項)機会を与えなければなりません(特定の株主からの取得の場合の他の株主への売却機会の付与)。
(2) 例外
株主との合意により株式を取得する場合でも以下のときには、取得手続につき特例が設けられています。
? 市場価格のある株式を市場価格を超えない額で取得する場合(161条)
株主総会で特定の者から株式を取得することを定める場合において、市場価格ある株式をその市場価格を超えない額で取得するときは、他の株主に対し売却機会を付与する必要はありません。
? 非公開会社で相続人等から取得する場合(162条)
非公開会社の株主が死亡し相続人が株式を取得した場合など、一般承継により取得された株式を会社が取得する場合には、他の株主に対し売却機会を付与する必要はありません。
? 子会社から取得する場合(163条)
親会社が子会社から自己株式を取得する場合、あらかじめ株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)で授権決議がされていれば(156条1項)、157条以下に規定する具体的な取得手続自体をとらなくても、業務執行者の判断により、子会社から株式を取得することができます。
? 定款に別段の定めがある場合(164条)
定款において、株主総会で特定の株主から株式を取得する場合であっても、他の株主に売却機会を与えなくてもよいことを定めることができます(同条1項)。但し、この定めは、株主から平等な売却機会を奪うことになるため、定款の変更によりその定めを置くときは、株主全員の同意が必要です(同条2項)。
? 市場取引又は公開買付により取得する場合(165条)
株主総会の授権決議に基づき、市場取引又は公開買付により自己株式を取得する場合には、157条以下に規定する具体的な取得手続を採る必要はありません(165条1項)。
また、取締役会設置会社では、定款で市場取引等により当該株式会社の株式を取得することを取締役会の決議によって定めることができる旨を定めることができるため(同条2項)、当該定めがあれば、株主総会の授権決議なく、自己株式を市場取引等により取得することができます。これは改正前商法211条ノ3第1項2号に相当するものです。ただし、以下の?で述べるように剰余金の配当等の決定機関について、会社法459条1項各号に定める事項を取締役会決議で定める定款規定を置いた会社では、自己株式取得についても取締役会決議事項になるので、かかる場合に165条2項の定めを置く必要性は乏しいです。
? 会計監査人設置会社の特例(459条1項1号)
会計監査人と、監査役会又は委員会を置いており、かつ、取締役の任期が1年以内の会社では、定款で自己株式の取得を取締役の決議で行うことを定めることができます(459条1項1号)8 。但し、当該会社でも、特定の株主から株式を取得することを取締役会で定めることはできません(459条1項1号、160条1項)。
(3) 任意償還条項と種類株式
改正前商法下では、種類株式を発行した場合にその種類の株式をいつでも買受け消却できる、という定款の定めが置かれることがありました。これはその種類株式を配当可能利益で買受け消却する場合、他の種類の株主(普通株主を含む)からの売主追加請求権の行使をさせず、また他の種類の株主に損害を与えるとして必要となりかねない種類株主総会も不要にする目的で挿入されてきました(この目的を明示した条項を定款に入れることもありました。)。
新会社法160条2項では、自己株式取得の対象となる株式と同一の種類の株主のみかかる売主追加請求権があることが明らかであるし、また322条1項で法定種類株主総会事項に特定の種類の株式の取得が含まれていません。従ってかかる定款規定は新会社法では不要であり、削除する議案が多数株主総会に提出されています。
逆に、今後複数の株式を発行する場合に、特定の株式のみ自己株式取得されることをいかにブロックするか、という観点からの検討が必要となります。種類株式の要項に記載する、他の種類株主の種類株主総会決議を定款で要求する、株主間契約・投資契約等における契約的対処、等が考えられます。
2-2 合意以外による自己株式の取得
(1) 取得請求権付株式又は取得条項付株式を取得する場合
かかる株式の取得については、あらかじめ株式の内容として取得の対価等について定款で定めておくこととされています(107条2項2号・3号、108号2項5号・6号)。
(2) 全部取得条項付株式を取得する場合
かかる株式は発行後の取得の決議で取得の対価等を定めるものであることから、その取得には株主総会の特別決議を要することとしています(171条)。
(3) 譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合の買取り、相続人等に売渡しの請求をした場合9 の取得、株主からの買取請求の場合
株式の対価が不当なものとならないよう規制が設けられています(144条、177条、193条、117条等)。
(4) 事業の全部の譲受け、合併又は会社分割による取得の場合
それぞれの行為の手続が設けられていることから、自己株式の取得について特に別段の規制は設けられていません。
ポイント3 自己株式取得にかかる財源規制
新会社法は、株式会社による自己株式の「取得」のうち一定の場合について、財源規制を統一的に適用することとしました(461条、166条1項但書、170条5項)。
3-1 合意による自己株式の取得
株主との合意による自己株式の取得には、必ず財源規制が設けられており、株式の取得の対価として交付する金銭等の帳簿価額の総額が分配可能額の範囲内でなければならないこととし、それを超えて支払った場合には取締役等に責任が生ずることとしています(462条1項)。
3-2 合意以外による自己株式の取得
株主との合意以外による自己株式の取得の場合であっても、自己株式を取得して対価を交付することは会社財産の払戻しであることから、原則として、財源規制が設けられています(166条1項但書、170条5項、461条1項1号及び4号?7号、464条1項)。
しかしながら、以下の場合には、461条の財源規制の適用はありません。
(1) 単元未満株式の買取請求(192条)に応ずる場合
(2) 事業全部の譲受け(467条1項3号)に伴い自己株式を承継する場合
(3) 合併・吸収分割に伴い自己株式を承継する場合
(4) 反対株主の買取請求の場合10
ポイント4 自己株式の消却
新会社法においても改正前商法と同様に、株式会社が取締役会の決定により自己株式を消却することができます(178条)。これに対し、新会社法は、株式の強制消却に関する規定を置いていませんが、これは改正前商法における株式の強制消却を、株式会社が株主の同意なく自己株式を取得したうえで、自己株式の消却の手続により消却するものと整理した結果にすぎません。改正前商法において認められていた強制消却は、新会社法においては以下のとおりとなります。
消却に関する重要な改正点として、株式の消却により発行済み株式総数が減少した場合に自動的に授権株式数も減少するという改正前商法下の解釈が変更され、定款変更を新たにしない限り授権株式数は変わりません。当然減少の旨の定款規定も不要となります。従って、自己株式の消却と新株発行を発行可能株式総数の範囲で繰り返すことが可能になりました。
- 無償で取得する場合、反対株主の買取請求があった場合、他の会社の組織再編等の対価として交付される場合等(会社法施行規則27条)
- 自己株式を交換により取得する場合には、その対価となる財産の内容及びその総額について、株主総会の決議を要する(156条1項2号)。
- 自己株式を無償取得する場合には、156条以下の取得手続による必要はない。
- 改正前商法においては自己株式の買受けに利益処分的性質があることから、定時株主総会の決議によることとされてたが、新会社法においては、定時株主総会以外の株主総会において剰余金の配当を決議できるようになったこともあり(453条、454条)、定時株主総会以外の株主総会においても決議できることになった。
- 種類株式発行会社の場合は、株式の種類及び種類ごとの数
- 当該株式会社の株式等(株式、社債及び新株予約権(107条2項2号ホ括弧書))を除く(156条1項2号)。
- 1年を超えることはできない(156条1項但書)。
- 自己株式の合意による取得は株主に対する払い戻しという点では剰余金の配当と同じであるので、取締役会決議により剰余金配当ができるとされる会社に対しては、同様に取締役会決議により自己株式の取得を行うことを認めるものである。
- 会社法では、相続その他の一般承継により会社にとって好ましくない者が株主となるのを防止するため、譲渡制限株式については定款で会社に相続人等への売渡請求権を定めることを認めている(174条)。
- 但し、組織再編時以外の反対株主の株式買取請求(116条)については、対価が分配可能額を超えたときには、業務執行者が超過額について支払義務を負う(464条)。
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