2006. 11.07
大量保有報告制度の改正について
改正の経緯
今回は、大量保有報告制度の改正について解説します。
大量保有報告制度とは、?上場会社等の株券等の5%を超えて保有する者は、
大量保有報告書を提出しなければならず、また?大量保有報告書提出後、株券等保有割合が1%以上増減した場合その他大量保有報告書の記載事項に重要な変更があった場合には変更報告書を提出しなければならない、という制度です。この制度は、特定銘柄の株券等の大量保有に関する情報を投資者に対して迅速に提供することにより、市場の公正性、透明性を高め、投資者の保護を図ることを目的として、平成2年に導入されました。
近時、短期間に大量の上場株券等を保有するに至る事例が増えつつあり、現行の大量保有報告制度に対して疑問の声が投げかけられていました。また、いわゆる敵対的買収との関連等において、大量保有報告書による株式保有割合に係る開示をより迅速・正確に行うことへの要請が高まっていました。
これらの動向を踏まえ、「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成18年6月7日成立、同年6月14日公布)の第2条において、現行証券取引法の第2章の3の改正という形で大量保有報告制度の見直しが行われました。
改正の概要
1. 特例報告制度に関する改正
大量保有報告制度においては、原則として、(i) 大量保有報告書は上場株券等の保有が5%を超えた日から5営業日以内に、(ii)変更報告書は該当する変更があった日から5営業日以内に提出することが要求されています(一般報告制度)。しかし、特例措置として、日常の営業活動等において反復継続的に株券等の売買を行っている証券会社、銀行その他の内閣府令で定める者(以下「機関投資家」といいます。)1 については、事務負担が過大とならないよう特例報告制度が設けられており、報告頻度および期限が緩和されています(現行証券取引法27条の26)2 。
しかし、近時、いわゆる投資ファンド等が特例報告制度の適用を受けながら株主権を積極的に行使し、会社の事業活動に介入するかのような言動を行うなど、制度趣旨を歪めるような形での特例報告制度の利用がなされているとの批判があり、特例報告のあり方について見直しを行うべきであるとの指摘がなされていました。
他方、これに対しては、機関投資家の運用行動が過度にオープンとなることで投機筋に追随されるリスクが生じ、特に海外の機関投資家が日本マーケットを回避する弊害が生じるのではないか、機関投資家の事務負担を増大させることになるのではないか、等の指摘もなされていました3 。
これらの点を踏まえ、今回、以下の改正が行われました。
? 特例報告制度に係る報告頻度の増加・報告期限の短縮
特例報告制度における報告頻度および期限が、おおむね2週間ごと5営業日以内へと短縮されました(新証券取引法27条の26第1項乃至第3項)。この結果、特例報告制度を利用する機関投資家は、従来3ヶ月に1回提出していた報告書を、毎月2回(場合により3回)提出しなければならなくなります。
なお、機関投資家が特例報告制度による報告を行う場合には、新証券取引法の下においても、あらかじめ基準日の届出を行うことが必要となります4 。
? 特例報告制度が適用されない保有目的の明確化
現行法では、特例報告制度の趣旨を歪める形での特例報告の利用を防止するため、機関投資家の株券等保有が「会社の事業活動を支配すること」を目的とする場合には一般報告が義務付けられています。今回の改正において、この保有目的要件を、「会社の事業活動に重大な変更を加え、または重大な影響を及ぼす行為として政令で定めるもの(重要提案行為等)5 を行うこと」へと変更し、規定の明確化が図られました(新証券取引法27条の26第1項)。
また、機関投資家が5%超を保有した日または直近の報告書記載の株券等保有割合から1%以上の増加があった日から一定期間内6 に重要提案行為等を行うときは、その5営業日前までに大量保有報告書を提出することが義務付けられました(新証券取引法27条の26第4項および第5項)7 。
? 10%超保有の状態から10%を下回ることとなる場合の報告
現行法上、株券等保有割合が10%を超えることとなる取引を行った際には機関投資家であっても5営業日以内の一般報告が求められていますが、株券等保有割合が10%超保有の状態から10%を下回ることとなる取引を行った場合には一般報告が求められていませんでした。そこで、投資者に対する透明性を一層確保するため、機関投資家が10%超保有している状態から10%を下回ることとなる取引を行った場合にも、従来認められてきた特例制度による報告ではなく、一般報告の対象とされました(新証券取引法27条の26第2項3号、大量保有報告府令案12条)。
2. 大量保有報告書の電子提出の義務化
現行証券取引法上の開示書類については、原則としてEDINET(電子開示システム)による提出が義務付けられていますが、大量保有報告書の提出者は個人の場合もありうるため、これまでEDINETによる提出は義務とはされず、紙媒体による提出も認められていました。しかし、提出者は上場株券等について少なくとも発行済み株式総数の5%超を保有する資力等のある者であることに鑑み、証券市場の効率性向上の観点から、今回の改正により大量保有報告書もEDINETによる電子提出が義務付けられることとなりました(新証券取引法27条の30の2)。
なお、EDINETで書類を提出するためには、あらかじめ提出者登録届出をする必要があります。この登録手続には、実務上、書類作成も含め通常2?3週間程度の時間がかかります。
3. 大量保有報告制度の対象有価証券の拡大
投資法人の発行する上場投資証券(例えばREIT(不動産投資法人証券)等)は、株式と同様に、議決権を有する証券であり、投資法人の支配権の獲得につながる有価証券と考えられます。そこで、投資法人の発行する上場投資証券についても大量保有報告制度の対象とすることが予定されています8 。
4. その他
大量保有報告書の提出義務の有無に関する株券等保有割合の計算にあたり、共同保有者がいる場合には、従来は、共同保有者間において同一の株式につき重複して保有割合が計上されることがありえました。今回の改正により、このような共同保有者間の重複計上部分が、株券等保有割合の計算にあたり除外されることになり、合理化が図られました(新証券取引法27条の23第4項)。
また、大量保有報告制度における開示内容を充実させる観点から、保有株式に株券貸借の対象となっているものが含まれているのであれば、かかる「貸借契約」の内容等も開示すべきことが明示されることとなっています9 。
施行日
上記の改正点のうち、改正の概要1. ?記載の重要提案行為等に関連する改正については、平成18年11月中の施行が予定されていますが、具体的な施行日は現時点において公表されていません10 。それ以外の改正は、システム面における対応等が各関係者において必要となることから、平成19年1月1日の施行が予定されています。ただし、改正の概要2.記載の大量保有報告書等のEDINETによる提出の義務化については、平成19年4月1日の施行が予定されています。
(参考)
「証券取引法等の一部を改正する法律」および「証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の概要、新旧対照表等
http://www.fsa.go.jp/common/diet/164/index.html
「証券取引法等の一部改正に伴う証券取引法施行令等の改正案」の公表について
http://www.fsa.go.jp/news/18/syouken/20060913-1.html
株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令案
http://www.fsa.go.jp/news/18/syouken/20060913-1/03.pdf
- 証券会社および銀行のほか、?信託銀行、保険会社、投資信託委託業者、投資顧問業者、?外国の法令に準拠して外国において、証券業、銀行業、信託業または保険事業を営む者、投資信託の委託者となることを業とする者および投資顧問業を営む者、などが含まれます(現行証券取引法27条の26第1項、株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令(以下「現行大量保有報告府令」といいます。)11条)。
- 現行の特例報告制度においては、上場会社等の株券等の5%を超えて保有する機関投資家で予め3ヶ月ごとの「基準日」を内閣総理大臣に届け出た者(現行証券取引法27条の26第3項、現行大量保有報告府令18条)は、通常の5営業日以内ではなく、「基準日」時点での保有状況をまとめて翌月15日までに報告するものとされています(現行証券取引法27条の26第1項)。また、通常は株券等保有割合が1%以上増減した場合に提出しなければならない変更報告書についても、?1%以上2.5%未満の増減があった場合には次の基準日の翌月15日までに、?2.5%以上の増減があった場合には次の基準日を待つことなく当該月の翌月15日までに、それぞれ報告すれば足りるものとされています(現行証券取引法27条の26第2項、現行大量保有報告府令17条)。
なお、発行者である会社の事業活動を支配することを保有の目的とする場合(現行証券取引法27条の26第1項)や、その保有する株券等保有割合が10%超になる場合(現行大量保有報告府令12条)は特例報告制度の対象にはなりません。 - 金融審議会金融分科会第一部会 公開買付制度等ワーキング・グループ報告12頁参照(平成17年12月22日 http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/siryou/kinyu/dai1/f-20051222_d1sir/c.pdf)。
- 平成18年9月13日に公表された「証券取引法等の一部改正に伴う証券取引法施行令等の改正案」(以下「政令案」といいます。)14条の8の2第2項によれば、基準日は、以下の組み合わせから、いずれかを選択するものとされています。
? 各月の第2月曜日および第4月曜日(第5月曜日がある場合にあっては、第2月曜日、第4月曜日および第5月曜日)
? 各月の15日および末日(これらの日が日曜日または土曜日であるときはその翌月曜日) - 重要提案行為等の具体的な内容については、政令で規定されます。なお、政令案14条の8の2第1項においては、重要な財産の処分または譲受け、多額の借財、代表取締役の選任または解任、役員の構成の重大な変更、配当政策・資本政策に関する重要な変更等が列挙されています。
- 政令案14条の8の2第3項においては、この期間は、機関投資家が5%超を保有した日または直近の報告書記載の株券等保有割合から1%以上の増加があった日以後最初に到来する基準日の5営業日後までの期間とされています。
- 「株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令案」(以下「大量保有報告府令案」といいます。)の第1号様式において、「重要提案行為等」の欄が新設されました(第2 提出者に関する事項 (3) 重要提案行為等)。
- 政令案14条の4第1項第3号参照。
- 大量保有報告府令案第1号様式 (記載上の注意) (14) 当該株券等に関する担保契約等重要な契約参照。
- 「証券取引法等の一部改正に伴う証券取引法施行令等の改正案」の公表について 3.施行時期参照
(平成18年9月13日、金融庁 http://www.fsa.go.jp/news/18/syouken/20060913-1.html)。
執筆者
弁護士 竹田 絵美