2003. 02.28
ライセンス契約における裁判外紛争手続(ADR)条項の有効活用について
A. はじめに
米国の裁判所での紛争解決には高額の訴訟費用がかかりうるという事実はよく知られている。また、その高額な費用に加え、訴訟手続は当事者の日々の事業活動に重大な支障を及ぼすことがある。しかしながら、このような伝統的な訴訟手続を用いずに、比較的安価かつ迅速で、事業活動への支障も軽微としうる紛争解決手段が豊富に存在する。これらの手続きは一般的に裁判外紛争手続(ADR)として知られている。本稿では様々なADR手続きについての一般的な説明を行い、さらに、有効なADR手法を選択したり、デザインするために特に考慮すべきと考える事項について説明を加えることとしたい。
B. ADRとは
裁判所における訴訟の代替としてよく利用されているADR手続きには、様々なタイプがある。仲裁、調停、最終調停オファーに基づく仲裁、早期の中立的評価、ならびにミニトライアルはその例である。ADR手続きは当事者の合意によって採用されなければならないが、かかる代替手続について当事者は紛争が起きる前に予め合意しておくこともできるし、紛争が起ってから合意することも可能である。
1. 仲裁
仲裁は多くの点で伝統的な訴訟手続によく似たADR手続であり、通常、拘束力をもつ裁定が、中立的な立場の(すなわち、当該紛争当事者となんらの繋がりもない)一人の仲裁人(もしくは仲裁合議体)により下される。また、仲裁手続は、当事者の合意により仲裁を任せた仲裁機関が採用している独自の規則に基づいて行われるのが一般的である。よく知られた仲裁機関としては次表に挙げるものがある。
- 国際紛争解決センター (ICDR)(米国仲裁協会(AAA)の一機関)
- 国際商工会議所 (ICC)
- 国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)
- 世界知的所有権機関 (WIPO) (特にドメインネームの紛争に注力)
- CPR紛争解決機関 (CPR)
- 日本国際商事仲裁協会 (JCAA)
- 中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)
- 香港国際仲裁センター (HKIAC)
- シンガポール国際仲裁センター (SIAC)
- ストックホルム商業会議所仲裁裁判所 (SCC)
これらの機関のほとんどは、主として弁護士や退官した裁判官よりなる、「中立者」リストを備えており、このリストから仲裁人を選択することができる。また、機関によっては、特別の見識を備えた「中立者」、例えば、エンジニアや技術専門家のリストを備えている(例えば、WIPOは特定の技術分野に通じた「中立者」のリストを備えている。)
当事者は、通常、様々な仲裁機関の中から、その機関の規則が自己に有利と思われるかや、「中立者」の見識、手続きの迅速さ、費用等を考慮して仲裁機関を選別することとなる。規則によっては(例えばWIPO)機密保持のための詳細な規定を置いているものもある。 1
当事者がどの程度自由に仲裁人を選択できるかは選択する仲裁機関に大きく依存している。例えば、UNICITRALは大変フレキシブルであり、独自の「中立者」リストを備えていない。これに対して、ICCやCIETACは少なくとも仲裁合議体の長を誰にするかについて常に発言権を留保している。 2
なお、当事者は仲裁機関を使わないという選択をすることができる。自分達自身による("ad hoc" )仲裁手続きのために独自の規則をデザインすることができるし、また、このような自己管理型の仲裁に、仲裁機関の規則に変更を加えて採用することもできる。たとえば、UNCITRALの規則はそのような自己管理型の仲裁手続の規則として広く用いられている。
2. 調停
現在米国において、調停は迅速で成功率の高い紛争解決手続として広範に用いられている。調停手続は双方にとって受入れ可能な解決策を両当事者が見出すことを「中立者」たる調停人が援助する手続である。仲裁とは異なり、調停人が当事者に決定を押し付けることはなく、調停人は当事者が互いに受諾可能な合意に達するのを手助けするのである。
調停手続きは、一般的に、先ず両当事者が調停人と他の当事者に対して紛争案件についてのプレゼンテーションを行うことから始まる。その後、調停人が各当事者と個別に会い、その当事者がどういう解決法を考えているかを聴取する。それから、調停人は各当事者間を行き来して、両当事者が受諾できる解決案を構築しようと努力するのである。
この手続きの間、調停人は各当事者にその当事者の立場の強みや弱みについて内密に話をしたり、当事者の和解に関する立場について提案を行ったりする。しかしながら、繰り返しになるが、調停人は解決策を当事者に強要することはできない。当事者自身が解決策に合意する必要があるのである。つまり、調停手続においては、当事者が合意しない限り紛争を解決することはできないのである。
上記したような仲裁機関は通常、調停に関する規則も備えている(例えば、ICDAやWIPO)3 。そして、「中立者」リストに載っているメンバーは通常、仲裁人並びに調停人として働くことができる。そして、調停は本来的にフレキシブルなため当事者間で独自の調停手続をデザインすることも容易である。
また、調停と仲裁を組み合わせることもできる。実際、ADR機関の規則の中には仲裁開始前に調停を行うことを義務付けているものもある4 。そして、予め決められた期間で和解が成立しない場合や、調停人がそれ以上調停を続けても無駄だと判断した場合に、当事者は次の手続として、仲裁手続に進むことになる。
なお、調停人であった者が、不成功に終わった調停に引き続いて行われる仲裁手続における単独の仲裁人となったり、仲裁合議体の一員となることを、当事者が明確に同意していなくても認めるか否かについてはそれぞれのADR機関の規則によって異なっている。 5
3. 最終調停オファーに基づく仲裁(別名:ベースボール仲裁)
最終調停オファーに基づく仲裁は調停と仲裁の組み合わせの一つであり、米国において、最近頻繁に使われる傾向にある。我々もこの手続きを利用することで、伝統的な訴訟に比べ、大変迅速かつ安価に、ライセンス関連の紛争解決に成功している。本手続はベースボール仲裁の名で呼ばれることがある。これは米国において野球選手のサラリーに関する紛争を解決する手段として本手段が利用されていることに由来する。
ベースボール仲裁の当事者は、先ず調停手続によって紛争解決を試みる。そして、予め合意した期間内にその解決ができない場合に、その調停人がそのまま仲裁人となり当事者を拘束する裁定を下す。但し、ここで、この仲裁人は各当事者が調停手続で提案した最終オファーの内のどちらかしか採用できないこととしている。つまり、調停手続で、一方の当事者が1億円を最終和解提案額として提案し、他方の当事者が5億円を提案したとすると、仲裁人は1億円か5億円かのいずれかを裁定額として選択せねばならない。例えば、1億円より低額な裁定とか、5億円より高額の裁定とか、また、これらの間の金額などを裁定額とすることは認められない。つまり、この仲裁人は「間をとる」という手段を取れないのである。つまり、この手続の下での仲裁人の権限は当事者の最終提案のうちのいづれかを選択するということに限定されているのである。
ベースボール仲裁の方法は当事者にリーズナブルな和解提案を促す働きがある。なぜなら、もし、当事者Aがリーズナブルでない提案を出した場合で、他方の当事者Bの最終提案が仲裁人によって、よりリーズナブルと考えられた場合、その仲裁人によって拘束力を持つ裁決として当事者Bの提案が採用されてしまうおそれがあるからである。
4. ミニ・トライアル
ミニ・トライアルでは、当事者の弁護士が、裁判所での実際のトライアルで行うであろうプレゼンテーションの短縮版を行って見せる。このとき、おそらく重要な証人の証言を含めることとなるであろう。しかし、これは裁判官や陪審員に対してではなく、他の当事者の紛争解決権限を備えた経営陣に対して行うのである。また、調停者に同席してもらって行うこともある。そして、両者の議論を聞いた後、その両経営陣が顔を合わせ(おそらく調停人のサポートを得ながら)紛争解決を図ろうと議論するのである。6
調停手続は、通常、両当事者の弁護士によるミニ・ミニ・トライアルともいえる紛争に関してのプレゼンテーションから始まる。このミニトライアルに要する時間は、内容の複雑さや、どのようなプレゼンテーションが当事者間で合意されているか等に応じて決まるが、各サイドからそれぞれ短ければ30分程度、長ければ1日(もしくはそれ以上)というケースもある。
5. 早期の中立的評価
この手続は米国の多くの裁判所において訴訟手続きの早期の段階での和解を促すために提案される。7 この手続においては、各当事者は経験豊かな弁護士、退官した裁判官、または技術専門家である中立者に対しプレゼンテーションを行う。このプレゼンテーションを口頭によるものとするか、書面によるものとするかは、案件の性質に合わせて決定できる。
そして、その中立者によって各当事者の立場について独自の評価がなされる。なお、事前の当事者間の合意により、この中立者による評価を書面によるものとするか、口頭で行うこととするかを決めておくことができる。また、中立者による評価を全当事者に対して明らかにするか、それとも、評価対象の当事者にのみ内密に伝えるかも決めておくことができる。
この専門知識に長けた中立者による評価をもとに各当事者は自己の和解に対する立場を再評価する。そして、このような再評価により、多くの場合、和解が達成されるのである。この方法がうまく機能するかどうかは当該中立者の能力がどれだけ高いか、並びにその中立者がどれだけ各当事者の立場を評価することに努力するかによるところが大きい。
また、いずれの当事者にも利害関係のない中立的な第三者に、各当事者の言い分の強み・弱みについての偏見のない見解を出してもらうだけでも紛争解決に役立つ場合がある。
C. ADR条項をライセンス契約書に組み込むか否か
上記した各ADR手続が、費用と時間のかかる裁判の対象と通常はされるような紛争を解決するのに役立つということを疑う余地はない。実際、米国の裁判所は紛争がトライアルに入る前に何らかの形式のADR手続を経ることを要請することが多い8 。たしかに実際に紛争が生じてからADR手続きに入ることに当事者で合意することはできるが、知財ライセンス契約を含む、ほとんどのビジネス契約において、紛争が生じた場合にはADR手続きに入るとの合意を盛込むことができる。そして一般的に言って、実際の紛争が生じる前、すなわち、契約書をドラフトする際にADR手続について合意しておくのが望ましい。実際に係争が起こった後は、どんなことについても、ましてや、どのように紛争を解決するかの詳細についての合意を得ることは困難となるからである。
ただし、注意すべきことは、ADRが常に望ましい紛争解決手続であるとは限らないことである。よって、ライセンス契約書にADR条項を盛込むかどうかの検討にあたっては、それぞれのADR手続きの利点と欠点をよく考慮しなければならない。つまり、紛争が仮に起こったとして、その解決は通常の訴訟に頼った方がよりメリットがあるのか、それともADRを選ぶ方が好ましいのかということを、各当事者は判断しなければならないのである。次の表はADRと通常の米国における訴訟を比較した場合のメリット・デメリットを示したものである。
1. ADRの一般的なメリット・デメリット(米国訴訟と比較して)
ADR | 米国訴訟 |
比較的安価 | より高価 |
比較的迅速 - 但し、期限を設けない仲裁手続は時として長期間を要し、また、そのような仲裁手続は、時として極めて高額なものとなりうる。なぜなら、自分の弁護士だけでなく、各当事者は仲裁合議体の費用も負担せねばならないからである。 |
通常何年もかかる - 但し、ある当事者にとっては、遅延がメリットとなる場合がある。例えば、交渉力を増強しうる新たな特許の発効を心待ちにしている場合等である。 |
当該分野における優れた見識を持つ専門家を中立者として選定できる | 専門家でない判事や陪審員によって判断がなされる |
柔軟なビジネス的解決の機会 - 但し、期限を設けない仲裁手続は時として長期間を要し、また、そのような仲裁手続は、時として極めて高額なものとなりうる。なぜなら、自分の弁護士だけでなく、各当事者は仲裁合議体の費用も負担せねばならないからである。 |
白か黒かの判断のみ - 通常、金銭的賠償が認められるか否か、また、ある商行為に対する差し止めが認められるか否かのみである |
手続並びにその結果を機密とできる - ADRでは、しかしながら、他の係争に利用できる拘束力を有する判決を得ることはできない。当事者によっては、例えば、特許権者は第三者に対して判例として引用できる、特許有効やクレーム解釈の裁判所による判断を望むであろう。 |
公開手続(限定的な機密下での手続) - 裁判において、当事者は情報を機密指定とすることは可能であるが、係争の事実を秘密にしておくことはできない。また、トライアルは一般に公開され、証人による証言時に法廷を機密維持のために完全に閉鎖することは必ずしも容易ではない。めが認められるか否かのみである |
限定的なトライアル前の証拠開示手続 - 当事者間の合意の範囲のみ証拠開示手続が可能である。 |
広範なトライアル前の証拠開示手続 - 被侵害主張製品の動作に関する情報や、特許を無効化できる資料などを(第三者からの資料も含め)当事者が必要とする場合は多い。 |
限定的な差し止めによる救済 - 仲裁人が暫定的な救済を与えることが規則上認められる場合もあるが 9、通常は裁判所からの差し止め等の執行可能な暫定的救済を求める方が容易でかつ迅速である。 |
差し止めによる救済が認められる - 特許権者のような訴訟当事者は他者による継続的な侵害行為を直ちに止めさせたいであろう。また、競業者に対する仮差止めが認められれば、交渉力は格段に向上する。 |
判断はよく中立者の「公平さ」の観念に基づいて行われる、そしてその判断が事実問題として、あるいは、法律的に間違っている場合における手続的セーフガードは限定的である - 仲裁人は厳格な法律の適用よりむしろ契約書の文言や業界の慣習または仲裁人が何を公平と考えるかに基づいて判断をなすと広く認識されている。また、仲裁人が法律上、もしくは、事実上の間違いをおかした時、訴訟におけるような十分な手続き的なセーフガードがない場合がある。 |
判断は判例に基づき、また、手続きは確立した手続法に従う。 - 訴訟手続は確立した法や規則の下で進められ、判決は判例として、引き続く訴訟において、法律上の効果を発揮する。 |
敗訴の場合の限定された上訴機会 - 仲裁機関によっては、規則で、裁判所への訴えを放棄することが当事者に義務付けられている 10。 - また、他の仲裁規則のもとでは、a) 仲裁人の偏見、b) 仲裁への同意が詐欺によってなされたものである、またはc) 裁定の内容が契約で規定している仲裁人の権限を逸脱しているとの理由でしか仲裁の判断を裁判所で覆すことはできない 11。 - 特に、仲裁規則が許容し、仲裁裁定を執行しようとする管轄裁判地が許容し、そして、当事者が仲裁条項で許容すると規定していない限り、法律適用の間違いや十分な証拠が欠如している等の理由では仲裁判断を裁判所で覆すことはできない 12。 |
敗訴の場合は、法律適用の間違いや事実認定が十分な証拠によりサポートされていないことを理由として常に上訴可能である 13。 |
D. ライセンス契約にどのようなADR手続を採用、もしくはデザインするか
特許ライセンス契約に関して起こる紛争はADRを利用することで、多くの場合、通常の訴訟によるよりずっと迅速に安価に解決できる。多くの特許を保有する会社は、実際に紛争が起こる前に、もしライセンス契約に関して紛争が起きれば、裁判ではなくADR手続きを紛争解決に利用することを規定する契約を結ぶであろう。そのようなADR手続きの対象になりうる紛争としては次のようなものがある:
- ライセンス条項違反
- ライセンス特許の侵害性・有効性
- 一定のライセンス期間後に契約更新と再評価のオプションを認めたクロスライセンス契約において、当事者間のそれぞれの特許ポートフォリオの価値についての紛争。
上記したメリット・デメリットを十分考慮して、ADRが望ましいとの結論になっても、どのようなADR手続を採用するかを、次に決定しなければならない。すべての紛争解決に対して最適であるというような万能なADR手続は存在しない。契約当事者が、将来起こりうると考える紛争の内容によって、また、当事者間の関係を考慮して最もうまく機能するであろうと考えられる手続きに合意すべきである。
1. ライセンス契約におけるADR条項をデザインするに当たって考慮すべき事項
どのようなADR手続きををライセンス契約書に盛込むかを検討するに当たって、考えるべきことは多い。以下にそのいくつかを列挙する。
(i) ライセンス契約の範囲 − 特許限定列挙型か包括クロスか?
限定された数の特許がライセンスされる場合は、個別の特許が使われているかどうか、およびそれらの特許が有効であるか否かに焦点を当てたADRによって紛争解決を図ること望ましいであろう。しかし、両当事者が多数の特許を互いにライセンスしている形態であれば、個々の特許にのみ着目するということをやめて、互いの特許ポートフォリオの全体としての強さやその幅に注目するADR手続を構築することで、互いのライセンスの価値についての紛争の解決がより容易にかつ迅速に図れるかもしれない。
(ii) 当事者の交渉力の差やその当事者の洗練度合
ライセンス特許のポートフォリオの相対的強さがどうであるかによって、上記したように個別の特許に注目した手続を望むか、ポートフォリオ全体の評価に基ずく手続を望むかが変わるであろう。また、当事者の相対的な財務力の差によって、時間がかかっても特許毎の突っ込んだ分析を求めるか、それより迅速さを担保する手続を望むか違ってくるだろう。
(iii) 敗れた際のリスク
ADRでの負けは、事業の完全撤退を意味するのか、それとも何とかなる追加の事業コストを意味するだけなのか。もし、前者であれば、当事者にとって、控訴審的な性格を持つ仲裁合議体によって法律問題を再審理してもらうことを規定したり、仲裁裁定に従うよう要請されている裁判所に法律上の瑕疵を理由として仲裁裁決を覆す権限を与えたりして上訴のオプションを残すことが重要となるであろう 14。
(iv) 判決の効力の必要性
仲裁を含めADR手続によって、その後の手続きにおいて第三者に対して利用できる法律的拘束力をもつ判例を確立することはできない。特許権者が多くの侵害者に対する侵害訴訟提起を考えているのならば、通常の訴訟によって裁判所における特許有効の判断やクレーム解釈を確立することを望むことがあるであろう。
(v) ヒアリング前の証拠開示手続の必要性(特に第三者から)
ADR手続きをデザインしている当事者は、仲裁人や調停人によるヒアリング前の情報交換の方法を定めておくことができるし、通常そうすべきである。さもなくば、自分の立場が強いことを立証するのに必要な重要な情報を持たずに自己の主張を行わなければならない事態となる。
証拠開示手続の範囲とタイミングは両当事者が他の当事者からどれほどの情報開示が必要か(例えば侵害を立証するために)また、第三者からはどうか(クレームされている特許発明以前の先発明の立証のために)等に応じて決定されねばならない。
(vi) 解決までの迅速性と緩慢性
いつも迅速な解決が特許ライセンス紛争当事者全員にとって有利に働くとは限らない。例えば、出願中の特許を所有しており、紛争相手に対する交渉力を増強するために、それが特許として発行されることを待ちたいと望む当事者もいるであろう。
(vii) その他の考察事項
(a) 仲裁人(調停人)の選定
いかなるADR手続きにおいても、中立的な仲裁人や調停人の能力や適格性は一つのファクターである。当事者はどういう手続で中立者たる仲裁人(調停人)を選ぶのか、またどんな人を選ぶかを考える必要がある。弁護士が良いのか、退官した裁判官が適任か、それとも技術専門家を選ぶべきか。
当事者が、ADR手続きを管理する仲裁機関の一つを使うことに合意し、かつ、その機関が仲裁人(調停人)として活動できる人のリストと、その中立者の選定手続きを提供しない限り、当事者間で、仲裁人を提案する手続き、並びに、それらの提案された中から仲裁人を選択する手続きに合意しなければならない。例えば、その機関の規則によって仲裁管理者が中立者のリストを提供することになっている場合は、しばしば、リストに載っている候補者の中から受諾できない人物を拒否し、そして、その他の候補者に好みに応じて優先順位をつけることを各当事者に許可している 15。そこで、かかる仲裁管理者に、通常、当事者全員が最も高い順位をつけた仲裁人(調停人)を指名することを要請する 16。他には、各当事者に希望する一人を指名させ、当事者から選ばれたこれら2人の仲裁人に、通常仲裁合議体長となる3人目の仲裁人を選ぶことを認める手続きがある 17。
(b) 仲裁権限の範囲
仲裁人にいかなる範囲の仲裁権限を与えるかも重要な検討事項である。その権限を特定の契約書に関して起った特定の紛争のみに限定するのか、特定の契約に関して生じた全ての紛争についての仲裁権限とするのか、またはその契約の範囲を超えて当事者間の全ての争いについて仲裁権限を与えるのか。
裁判所は通常、紛争仲裁の合意を厳格に履行させる。そして、当該仲裁条項は広く解釈され、そして、その範囲に含まれると解釈しうる全ての紛争は、裁判所ではなく、仲裁(あるいは他のADR手続き)によって判断されることを要請する 18。
(c) 準拠法
準拠法は何か?通常は当事者のライセンス契約の準拠法がADR手続きの準拠法である。しかしながら、当事者はADR条項において、中立者は当該契約の文言のみに基づいて判断することができる、または、当業界の慣習や慣例に基づいて判断できる、もしくは仲裁人が「フェア」だと信じるところに基づいて判断を下すことができると明記することも可能である。
(d) 言語ならびに仲裁地
もし当事者が異なる国からきた者であれば、仲裁地と仲裁手続きに用いられる言語の両方を特定することが重要である。仲裁地(調停地)の決定に当たっては当事者の便宜を考慮すべきである。どちらかの当事者の自己の所在地を仲裁地とすることはまれである。ただ、仲裁手続を開始することを躊躇させる目的で、仲裁を起こす場合は、仲裁手続きの相手方当事者の所在地を仲裁地とすることと規定することがある。
(e) 裁定の執行力
仲裁裁定が執行可能であること、そして、外国仲裁裁定の承認と執行に関するニューヨーク条約や他の関連法規 19のもとで国際的な執行力が与えられるように注意を払わねばならない。ニューヨーク条約の下で執行可能であるためには、仲裁裁定は、それが下された地で無効であってはならない 20。例えば、日本国において裁定が執行力を有するためには裁定は書面によることが必要である 21。よって、ADR条項において、中立者による決定は書面によることと、日本国の要件を満たすために規定することを考慮すべきであろう。
(f) 仲裁費用の負担
ほとんど全ての仲裁機関によるルールにおいては、ADR手続に要する費用は当事者で分担することと定めている、そして、実際問題として、普通、仲裁機関はそれを当事者に均等に負担させることを選択する 22。よって通常、各当事者は、弁護士費用や仲裁人の費用を含む自己の仲裁費用については各自負担する。
しかしながら、もし敗者に弁護士費用を含む勝者の費用の全てを負担させたいと両当事者が望めば、ADR条項でその旨を明記することでそれを実現できる。
E. ライセンス関係の紛争解決の効率化
たとえ争いの生じているライセンスが多数の特許を含む広範なクロスライセンスであるとしても、その紛争解決に適するよう注意深くデザインされた ADR手続きを利用することでストリームライン化し、効率化を図ることが可能である。以下にそのような手続きのデザインをなすに当たって、考慮すべき点のいくつかを挙げる。
1. 検討対象の特許の数とクレームの数の制限
紛争の複雑さ軽減のために、俎上に載せる特許件数やクレーム数を制限することができる。例えば、ADR手続きの対象を、例えば、当事者双方が選択した最も強い特許もしくは広い権利範囲のクレーム10件までに制限すると合意できる。もちろん、特許を何件までADR手続きに含めるとするかはそれぞれの当事者の特許ポートフォリオの状況によって変わってくる。例えば、数件の強い特許と多数の弱い特許とでそのポートフォリオが構成されていれば、その数件に検討する特許の件数を限定したいと思うであろうし、強い特許の数が多ければ、より多くの特許を検討対象とすることを望むであろう。
2. ADRにおけるポートフォリオ価値判断
クロスライセンス契約における一当事者に支払う対価の額に関する争い等のライセンスに関する紛争の解決を図るADR手続きを単純化するために、侵害製品の販売によって特許権者が蒙った遺失利益や、もし特許侵害が立証され、差止めが執行されたとしたら蒙るであろう当該当事者の損失ではなく、ポートフォリオから得られうる妥当なロイヤリティ額を検討対象にすることに合意することを考えるべきである。
3. 当事者による差止め請求権の制限
ADR手続きを単純化するために、当事者間で差止めを求めないことに合意することができる。つまり、手続きは金銭的な賠償のみが焦点となる。
4. 仲裁人の裁量の制限
ADR手続きを単純化する他の方法としては、仲裁人の裁量に制限を付けることである。例えば、裁定として下しうる額に上限や下限を設けることが考えられる。例えば、当事者間で仲裁人はいずれの当事者に対してもX円以上の裁定額を下すことはできない、または、X円以上、またはY円以下の裁定額を下すことはできないということに合意することができる。このように裁決可能額に制限を設けることによって、裁判手続におけるようなセーフガードのないADR手続による紛争解決手続に合意しても心配ないとの安心感を当事者に与えることに繋がる場合がある。
また、前述したベースボール裁定は仲裁人の裁量を制限する一つの方法であり、両当事者が調停手続きの段階で、よりリーズナブルな和解提案をなすことを手続的に促すものとなる。
5. 有効性・侵害性に関する判断の明記を禁じる
たとえ仲裁の裁決は法律的影響力のある判例とはならないとしても、仲裁人が特許の有効性や侵害性についての判断を明記することとなっていれば、まだ抵抗があるかも知れない。(実際、仲裁手続きにおける特許無効の判断は米国特許庁へ報告しなければならない 。23)そして、もしそのような明記がなされると分かっていれば、より突っ込んだ、時間のかかるプレゼンテーションをせねばならないと感じるであろう。しかしながら、当事者間で、仲裁人は特許の有効性や侵害性の認定を行わず、金銭的な裁定のみ下しうるとADR条項において合意しておくことができる(裁定額0円ということもありうる)。そうしておけば、当事者はよりインフォーマルな、すなわち、より安価なプレゼンテーションで十分とすることもあろう。
6. ADR手続期間の限定
ADRの一連の手続における各フェーズの手続期間を限定することを考慮すべきである。中立者の選定の期間とその方法、トライアル前の情報交換の期間並びにその手続き(これには、紛争に関するコアになる書類やセールス情報などの交換が含まれる)、さらに、情報開示要求の範囲やその数を限定すること、また、各当事者からのデポジションの時間を制限することなどである。次に中立者に対するプレゼンテーションの時間とその形式を規定する必要がある。つまり、直接尋問や反対尋問の回数やその時間並びに弁護士による弁論の時間を制限する等である。また、直接証言を書面として提出することを義務付けたり、反対尋問は口頭でのみと定めたり、直接尋問の範囲を超える再直接尋問を認めないことを当事者間で合意できる。
最後に、中立者が判断を下すまでの時間を制限することも考慮すべき事項である。(ただし、この期限を当該中立者に強制することは実際問題として困難であるが。)
7. ADR条項の例
ADR条項をデザインするに際してどのような自由度があるか例示するために次の3つのADR条項の例を添付する。これらの条項は実際の契約書から抜き出したもので、また、実際に、これら条項ががなければ裁判所で争うことになったであろう紛争の解決に使われたものである。
(i) 裁判所による仮処分を認める簡単な仲裁条項
いつも迅速な解決が特許ライセンス紛争当事者全員にとって有利に働くとは限らない。例えば、出願中の特許を所有しており、紛争相手に対する交渉力を増強するために、それが特許として発行されることを待ちたいと望む当事者もいるであろう。
(ii) 情報開示と調停に引き続く仲裁を規定する条項
この条項は当事者が関連書類を交換して、次に調停による紛争解決を図ることを規定する。そして、もし当事者が調停によって紛争を解決できないときは、各当事者毎に20時間に限定したデポジションをみとめて、拘束力を有する裁定を下す仲裁を開始する。
(iii) 簡単な調停・ベースボール仲裁条項
この条項は調停とベースボール仲裁を規定する。調停人の選定の期間やプロセスを規定し、当事者は21日間に限定した期間内に調停を通じて合意達成を図る。もし合意に達することができなければ、当事者はその最終提案を調停人に提出し、その調停人がそれからの10日間でそれらの最終提案のうちの一つを選択する。そして、その調停人の選択が当事者を拘束する。
F. 結論
特許ライセンスに起因する紛争等の紛争当事者が、裁判所による判例の確立や、伝統的な訴訟におけるような手続き的なセーフガードが必要であるとする場合は別として、注意深くデザインされたADR手続きを利用することにより、機密保持が通常の裁判手続きよりも担保された形で、迅速かつ安価に係争解決が図りうる。ADR手続きは、当事者によって、当事者の特別なニーズや当事者間に起こりうる紛争の性格に応じて設計することができる。ライセンス契約をドラフトする際に、当事者間で起こりうる係争を想定し、様々なADR手法の利点や欠点を比較考慮した上で当事者のニーズに合致し、かつ、迅速で効率の良い紛争解決を可能にするADR条項をデザインすることに注力すべきである。
ADR条項の例
(1) 裁判所による仮処分を認める簡単な仲裁条項
本契約に関して生じた紛争で、直接交渉で友好的に解決できない紛争は全て米国仲裁協会の商事規則に則った最終かつ拘束力のある仲裁手続きに委ねられる。両当事者が別途合意しない限り、両当事者が合意する一人の仲裁人が事案を聴取する。そして、その仲裁人より下された裁定に基づいて、管轄権を有する裁判所は判決を下すことができる。但し、上記の記載にかかわらず、ここに規定することは、いずれかの当事者による暫定的なまたは衡平法に基づく救済を求める限定的な目的での裁判手続きの開始を妨げることを意味しない。この条項は、他の全ての点において、本契約に関して生じるすべての争いやクレームの解決に適用される。
(2) 情報開示と調停に引き続く仲裁を規定する条項
本契約に関して当事者間で生じた紛争は全て速やかに、カリフォルニア州サンフランシスコに所在する米国仲裁協会に、両当事者に選択された、もしくは両当事者が選択に合意できない場合は米国仲裁協会によって指名された仲裁人による拘束力を持つ仲裁手続きを求めて提起する。両当事者はさらに、関連書類の相互交換の後、また、少なくとも仲裁のヒアリングの30日以上前に、両当事者により選択された、もしくは両当事者で合意できない場合は、米国仲裁協会が指名した、一人の調停人による、かかる紛争の調停手続きに参加することに合意する。
両当事者で別途合意がなされない限り、以下の例外や修正を加えた米国仲裁協会の仲裁規則が当該仲裁に適用される。
デポジション
各当事者は20時間を越えない範囲でデポジションを聴取する権利を有する。他の当事者からデポジションの聴取要求が出された証人に対する反対尋問に費やす時間はこの20時間制限に含まれる。正当な理由があれば、追加のデポジションが仲裁人により許可されうる。ここで正当な理由というときはデポジションにおける、いずれの当事者の監督下にもない、そして、仲裁のヒアリングへの出席が強制できない証人の証言を仲裁のヒアリングために聴取することに限定される。
書類交換
当事者のクレームや防御を裏付けたり、反駁したりする全ての書面の最初の交換が、当該仲裁人が異なる日を指定しない限り、当該仲裁人の指名後30日目に行われる。
仲裁人と調停人の選択
米国仲裁協会から仲裁人と調停人の提案リスト受領後1週間以内に、各当事者は3人以上の容認できる仲裁人並びに他の3人以上の調停人を指名し他の当事者に提示する。各当事者は当該当事者もしくはその弁護士とその指名された仲裁人もしくは調停人との以前の関係に関する情報を開示する。
最終の仲裁裁定は管轄権を有する全ての裁判所によって判決として下される。
(3) 簡単な調停・ベースボール仲裁条項
(i) 誠意ある交渉
本契約に関して、または本契約の履行・不履行に関して当事者間で紛争(「当該紛争」)が生じた場合は、当事者は誠意を持って当該紛争を解決すべく交渉する。
(ii) 調停
いずれかの当事者が自らの判断で、上記セクション(i)に基づく交渉では早期解決が望めないと判断した場合は、その当事者は、調停の要請(「当該調停要請」)の書面を他の当事者に送付することで、本セクション(ii)に規定する調停手続きを開始することができる。当該調停要請の受領後15日以内に、当事者は調停人となる中立者(「当該調停人」)について合意する。この15日間に、当事者間で当該調停人に合意できないときは、米国仲裁協会のサンフランシスコ事務所が、いずれかの当事者からの要請受領後5日以内に、当該調停人として一人の中立者を指名する。最初の調停手続きはカリフォルニア州サンフランシスコで、当該調停人の指名後30日を越えない日時に開始される。
(iii) 最終オファーによる仲裁
当該調停人が、自己の判断によって、当事者は調停手続きでは当該紛争を解決できないと判断した場合(遅くとも、最初の調停手続きの後21日以内)には、当事者は当該紛争が当該調停人によって裁かれることに合意し、当該調停人は各当事者から当該紛争解決のための最終オファー(当該最終オファー)の提出を要請する。その要請の受領後5日以内に、各当事者は当該調停人に当該最終オファーを提出し、そして、当該調停人は両当事者から当該最終オファーを受領後、一当事者から提出された当該最終オファーを他の当事者に伝達する。もし、当該紛争がこの当該最終オファーの交換を通して解決されない場合は、当該調停人は当該最終オファーの受領後10日以内に、自ら、当該最終オファーのうちの一つを選択することにより裁定(当該裁定)を書面により下す。当該裁定は費用についての決定も含まなければならない。当該調停人による選択と決定は当事者を拘束し、当該調停人により下された当該裁定に基づく判決はサンフランシスコ市および郡高等裁判所や他の管轄権を有する裁判所から獲得することができる。
アラン・コープ・ジョンストン
岩崎 省三
注: 「月刊・国際法務戦略 Vol. 12-2」掲載
- 世界知的所有権機関仲裁規則(WIPO仲裁規則)第52条、第73条から第76条
- 国際商工会議所国際仲裁裁判所規則(ICC規則)第9条、 中国国際経済貿易仲裁委員会仲裁規則(CIETAC規則)第4条
- 国際紛争解決センター、国際仲裁規則(ICDR規則)イントロダクション、 世界知的所有権機関調停規則(WIPO調停規則)
- シンガポール国際仲裁センター(SIAC) Med-Arb手続き 第8条
- CIETAC規則第47条、48条において、仲裁法廷が、仲裁法廷が適当と判断する方法で調停を行い、一当事者が調停手続きの終了を要求したり、または仲裁法廷が調停を続けても意味がないと判断した場合は、調停を終了し、引き続き仲裁手続きを進めることが認められている。これに対し、SIAC Med-Arb手続き第10条では調停人が同意し、かつ、両当事者が合意した場合に限り、その調停人が仲裁人として指名されることを認めている。
- ダグラス A. ヘンダーソン著 Avoiding Litigation with the Mini-Trial: The Corporate Bottom Line as Dispute Resolution Technique, 46 S.C. L. REV. 237 (1995).
- 米国連邦地方裁判所カリフォルニア北部地裁ローカル規則 A.D.R. L.R. 5.
- 例えば、カリフォルニアでは5万ドル以下の損害賠償を求めるほとんどの訴訟は拘束力のない仲裁手続きにかけられることが規定されている。カリフォルニア裁判所規則 Rule 1600 ICDR規則第21条、ICC規則 第23条
- ICDR規則第21条、ICC規則 第23条
- WIPO仲裁規則第64条(a)項、ICC規則 第28条(6)項(当事者は仲裁に紛争解決を委ねたことで、裁定に反対する他の手段を採択する権利を放棄すると規定している。ただし、これは裁定が合法的に下された場合に限るとしている。)
- 外国仲裁裁定の承認と執行に関するニューヨーク条約(1958年6月10日)第5条、25 U.S.T. 2517, 330 U.N.T.S. 38 [以下、ニューヨーク条約]. 連邦仲裁法第10条 ( 9 U.S.C. § 10 (2003))、カリフォルニア民事手続法第1286.2条 (CAL. CIV. PROC. CODE § 1286.2 (Deering 2003))
- 例えば、Lapine Technology Corporation v. Kyocera Corporation, 130 F.3d 884, 889 (9th Cir. 1997)において、第9巡回控訴裁判所は連邦仲裁法のもとで、仲裁の両当事者が合意すれば、裁判所による再審理の対象を法律適用の誤りならびに十分な証拠の欠如を含むように拡大することができると判示した。しかしながら、カリフォルニアの州裁判所は最近、カリフォルニア州法の下で、仲裁の当事者は再審理の対象を法律適用の誤りならびに十分な証拠の欠如を含むように拡大する契約はできないと判示している。 Crowell v. Downey Community Hospital Foundation, 115 Cal. Rptr. 2d 810, 816 (Cal. App. Ct. 2002)参照。よって、仲裁裁定の裁判所による再審理に追加の理由を含めるように契約することができるかどうかは、その上訴がなされる裁判管轄地ならびにその裁判管轄地で適用される法律に依存することとなる。
- Bruce v. Weekly World News, Inc., 310 F.3d 25, 28 (1st Cir. 2002)ならびに Berkla v. Corel Corp., 302 F.3d 909, 917 (9th Cir. 2002)を参照
- 上記Kyoceraケース(130 F.3d at 889)を参照。ただし、当事者が、仲裁合議体による法律適用の誤りを理由とした上訴権を留保できるかどうかは、その上訴をなす裁判管轄地に依存し、また、その裁判管轄地で適用される実体法に依存する。例えばカリフォルニア州の仲裁法の下では、当事者は法律適用の誤りならびに立証証拠の欠如を理由とした上訴を留保する契約を結ぶことはできない。Crowell, 115 Cal. Rptr. 2d at 816を参照。
- 例えば、国際連合国際商取引法委員会仲裁規則(UNCITRAL仲裁規則)第6条G.A. Res. 31/98; 31 U.N. GAOR Supp. No. 39 at 182; U.N. Doc. A/31/39 (1976); 31 U.N. GAOR Supp. No. 17 at 22; U.N. Doc. A/31/17 (1976)
- 同上
- 国際連合国際商取引法委員会法律モデル(UNCITRAL法律モデル)U.N. GAOR, 40th sess., Supp. No. 17, at 81-93, U.N. Doc. A/40/17 (1985)の第11条にかかる手続きが規定されており、またUNCITRAL仲裁規則第7条に、その第3番目の仲裁人は仲裁合議体長となることと規定している。カリフォルニア州国際仲裁並びに調停法もまたこの方法を規定している。ただし、その第3番目の仲裁人が自動的に仲裁合議体長となるとは述べていない。カリフォルニア民事手続法第1297.113条 (CAL. CIV. PROC. CODE § 1297.113 (Deering 2003)).
- Hostmark Investors, Ltd. v. Geac Enterprise Solutions, Inc., No. 01 C 8950, 2002 U.S. Dist. LEXIS 13695, at *3-7 (N.D. Ill. Jul. 19, 2002)参照
- ニューヨーク条約第1条、3条
- ニューヨーク条約第5条(1)項(a)号
- 公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律(明治23年4月21日法律第29号)第799条は裁定は仲裁人により署名捺印されていなければならないと規定している。
- ICDR規則第31条は仲裁法廷が費用を適当に当事者間で分担させることを認めている。ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)もまた仲裁法廷が費用の分担について決定することを認めている。ここで、UNCITRAL仲裁規則第40条において、仲裁費用は敗者が負担することと定めていることに注意する必要がある。もちろん、仲裁法廷は常に費用を妥当に分配する権限をもっているとされているが。
- 米国特許法第294条(d)項( 35 U.S.C. § 294(d))